富士通研究所は3月17日、AR(拡張現実)技術を活用した遠隔作業支援の新技術を披露した。今後、自社関連の現場などで実証実験を重ね、2016年度中に実用化を目指す方針。作業現場だけでなく、物流や建設、小売りなど幅広いシーンに適用していく考えだという。
保守点検などの作業現場において、作業者側のタブレット端末などで撮影した複数の画像から現場の全景を把握し、遠隔地のオペレーターが作業者に指示を出しやすくする。全景画像は3次元パノラマ合成画面として生成され、AR技術と組み合わせることでオペレーターはより現場の状況を把握しやすくなる。
保守点検などの作業現場では現在、熟練作業者の不足に伴い経験不足の作業者が増加しており、遠隔地からの作業支援技術は注目を集めていた。一方、動画撮影では範囲が狭く映像もブレやすいことから、オペレーター側が現場の状況を掴みづらく、静止画を使う場合でも現場作業者の現状が把握できないなどの課題が指摘されていたという。
今回開発された作業支援技術では、当該現場の様子をタブレット端末のカメラレンズにおさめていくだけで、複数の画像を立体的に配置した3次元画像を生成。作業者の向きと位置に連動したAR情報として、遠隔地のオペレーターと作業者が情報をリアルタイムに共有できるとしている。
「遠隔地のオペレーターは、三次元パノラマ画面を見ながら『もっと右のバルブ』とか、『左下の方を見てくれ』とか具体的な指示が出しやすくなる。パノラマ画面の生成はタブレットを現場でかざしていくだけで自動生成されるため、現場作業者側の撮影スキルなども問われない」(富士通研究所の担当者)。
オペレーター側の画面では、現場作業者の位置や向きを示すアイコンを表示することが可能で、パノラマ画面とあわせて現場状況の把握能力を高めている。また、オペレーターから作業者に指示を出す際、作業者側のタブレット端末に作業ターゲットへの誘導アイコンを表示して効率的に支持を出すこともできるなど、声による指示だけに頼らない仕組みが随所にとり入れられている。
今回の技術発表デモでは、作業者側がタブレット端末を手に持つ形で実施されたが、作業効率のさらなる向上という面を考えると、ヘッドマウンドディスプレイ(HMD)など、ハンズフリー型ウェアラブル端末の導入は極めて相性が良い事例といえる。
これについて、富士通研究所ユビキタスシステム研究所ユビキタスデバイスプロジェクトの沢崎直之プロジェクトディレクターは、「(HMDなどの)機器の状況にもよるが、将来的には搭載を目指していきたい」との考えを示した。
加えて、現時点でHMDなどを対象としていない点については、「タブレット端末はすでに多くの作業現場で導入されており、まずはそこからエンハンスすることを考えた」と説明。スマートフォンなどより小型のデバイスへの搭載についても「そう遠くない段階でミートできる」とした。
富士通研究所では、こうした技術の開発目的として「ICTの活用範囲拡大」を掲げており、逆にいえば、作業現場などにおいてICTが十分活用できていない状況にあることを示唆している。
今回のような作業支援システムを提供することで、作業現場などへのICT導入促進を図りつつ、HMDなどのウェアラブル端末導入・普及の契機とすることもあわせて狙っていきたいところだろう。
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