2月18日に開催された、2020年を見据えたテクノロジのカンファレンス「CNET Japan Live 2016 Target 2020」のパネルディスカッション「3Dプリンタがもたらす『未来のものづくり』」では、日本のものづくりの現場で3Dプリンタ業界と関わる企業の4人が登壇し、ものづくりの現状の課題や今後の展望などを議論した。
登壇者は、電子回路を簡単に製作できる製品などを開発するAgICの代表取締役である清水信哉氏、2D・3D設計ソフトウェアを長年提供しているオートデスクの技術営業本部 シニアマネージャーである塩澤豊氏、ネット接続型家電などを開発するCerevoの代表取締役CEOである岩佐琢磨氏の3人。
モデレーターは、3Dデジタルツールの開発やコンサルティングなどを手がける、ケイズデザインラボの代表取締役である原雄司氏が務めた。
ディスカッションのはじめに、原氏が3Dプリンタ業界の現状や動向を整理した。
まずは3Dプリンタの歴史。原氏によると、3Dプリンタの第1次ブームは2000年頃。すでにこの頃には298万円の国産の3Dプリンタが販売されていたという。その後、3DプリンタがIT業界で爆発的ブームを迎えたのは2013年。以降、2014年はウェアラブル、2015年はIoTやドローン、ロボット、インダストリー4.0といったキーワードが続く。2016年はIoTは継続し、自動運転やディープラーニングといった人工知能(AI)が業界を賑わし、原氏は「3Dプリンタはブームとして消費されたと思っている」と分析する。
実際、それを裏付けるようにGoogleTrendsで日本国内に限定して“3Dプリンター”で検索をしてみると、2015年後半から急降下しているという。一方、米国で見た場合には、Stratasysと3D Systemsという3Dプリンタ大手2社への株主集団訴訟やUPS社の3Dプリンタサービスといったトピックもあるせいか、良くも悪くもまだまだ下火にはなっていないと指摘する。
こうした中、原氏が紹介した、IDC Japanが2015年に発表した報告書によると、2014年の国内3Dプリンタの出荷台数は9927台、売上額は208億円。これに周辺サービスや造形材料を含めると総売上額は336億円にのぼる。IDCでは2021年までの3Dプリンタ市場の総売上額の年間平均成長率を18.8%と見ており、2021年には1124億円と見積もり、今後も拡大していくと予測している。
「3Dプリンタはまだまだ国内でも使われている。ガートナーの2015年の先進テクノロジのハイプ・サイクルでも、コンシューマー向けの3Dプリンティング技術はすでに“過度な期待”のピーク期は過ぎているが、エンタープライズ向けは啓蒙活動期にマッピングされていて、これから生産性の安定期に向かう。生産技術のためのプロ向けの3Dプリンタはこれから定着していくと思う」と原氏は説明する。
一方、3Dプリンタはこれまで造形時間がかかることや、材料の選択肢が少ない、精度が悪いという主に3つの課題を抱えてきた。しかし、原氏はこうした問題はすでに解消されつつあると言い、次のような事例を紹介した。
「韓国のCarima社が開発した3Dプリンタは、毎分1cmという超高速で造形ができる。60センチの造形がわずか1時間でできるという、これまでの200倍ぐらいのスピード。材料も日本の大手化学メーカーが動き出していて、家庭用プリンタでも樹脂にステンレスなどさまざまな素材を混ぜたり、陶器を3Dプリンタで作ろうといった動きもある。ブームが終わった後にも日本の大手メーカーが参入して地道に取り組んできた成果が出てきている。材料が進化することで性能が上がってきている」(原氏)。
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