注目の自動運転、すぐそこにある未来と課題--CESから始まる自動車業界の2016年

舞台は家電ショーから--CESから始まる自動車業界の年明け

 ここ数年、自動車業界の年明けはデトロイトからではなく、ラスベガスからになった。米国の自動車産業の中心地で1月に開催されるデトロイト・ショーは「自動車業界のニュー・イヤー・パーティ」と異名を取っていたが、その1週間前にスタートするCESにお株を奪われつつある。アメリカ車メーカーはもちろん、ドイツ車メーカーが出そろうようになり、自動運転やコネクティビティといった自動車業界で最も注目される分野の発表が相次いでいるからだ。

 実際、2015年の自動車業界の事始めは、メルセデス・ベンツのディーター・ツェッチェCEOが、”CESの顔”とも言えるキーノートを行ったことだった。サムスンやインテルのトップが登壇するのと同じ檜舞台に立って、自動車の将来を見据えたコンセプトカー「F015」を発表した。従来、自動車メーカーのCESでの発表は、コネクティビティやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を軸にしたものだったが、メルセデス・ベンツは自動運転機能を搭載したF015を持ち込んだのだ。裏話をすれば、自走できるコンセプトカーを作るにはウン億円がかかる。しかも、自動車業界はクルマを家電扱いされるのを毛嫌いするのに、あえて虎の子のコンセプトカーを家電ショーで発表してきたのだ。

2015年のCESでメルセデス・ベンツが発表した「F015」は、燃料電池のプラグインハイブリットを心臓部に備え、自動運転の機能を搭載する
2015年のCESでメルセデス・ベンツが発表した「F015」は、燃料電池のプラグインハイブリットを心臓部に備え、自動運転の機能を搭載する

 F015は、プラグインで充電もできる燃料電池車であり、約200kmのEV走行+燃料電池車として900kmを走れる。フロントグリルにはLEDライトが埋め込まれており、色が変わったり、点滅することで、”クルマの表情”を作り出す。自動運転を選択すると、運転席が回転して、ラウンジ風のレイアウトになる。ドアの内側にあるディスプレイはスマホのように操作でき、運転席からだけではなく、後席からも目的地を指定できる。

 実は、ここまで大胆にドライバーが運転をしないことを意識させるのは珍しい。メルセデス・ベンツでは、渋滞や駐車場の不足などで移動体としての自動車の魅力は薄れていくと考えており、自動車は今後「ラグジュアリーな移動の空間」になっていくという。

自動運転を選択すると、運転席が回転してラウンジ風のレイアウトになる。ドアの内側にあるディスプレイはスマホのように操作可能だ
自動運転を選択すると、運転席が回転してラウンジ風のレイアウトになる。ドアの内側にあるディスプレイはスマホのように操作可能だ

“高級車のタブー”を打ち破ったメルセデス・ベンツ

 自動車メーカーにとって最大の顧客はドライバーであり、運転する楽しさを放棄するという概念もあって、高級車メーカーほど運転をしないことを全面に押し出すのが難しかったからだ。しかし、メルセデス・ベンツはタブーを打ち破った。さらに、自動運転を社会に受け入れてもらう「社会受容性」にまで着目し、人とクルマのコミュニケーションまで視野に入れて研究開発をしている。

 一方のアウディは、NVIDIAとタグを組むという、非常にCESらしい発表だった。自動運転のコントロールユニットが小さくなって、トランクを犠牲にしないサイズになった。自動運転機能を搭載した「A7」でカリフォルニアにあるアウディの研究所からCESの会場までの500km以上を自動運転車で自走してきたことをアピールした。

 BMWは2014年、郊外にあるサーキットで「2シリーズ」に自動運転機能を搭載し、自動でのドリフト走行を披露して話題をさらった。今年は専用アプリを搭載したスマートウォッチに”Pick me up"と呼べば、自動駐車機能を搭載した「i3」が無人でさっと迎えに来るというデモを見せた。駐車場という限定的な空間だが、一歩進んで”無人”運転について話しだしたことも興味深い。

 さらに、ボッシュヴァレオといった大手部品メーカーが自動運転のテスト車を持ち込み、ラスベガスの公道で走らせたことでぐっと現実感が増した。実際に同乗したところ、町中ではまだひやっとするシーンがあったが、郊外の空いた幹線道路では危なげなく走れた。

 ボッシュはデュアルカメラといって2つのカメラで障害物との距離を測る仕組みなのに対して、ヴァレオはレーザースキャナで距離を測る点が異なる。デュアルカメラはスバルのアイサイトと同じで、レーザースキャナはGoogleの自動運転車の頭上でグルグル回っているセンサと同等の機能を持つ。ただ、ルーフにボコンと突き出すのは見た目がイマイチなので、ヴァレオでは小型でボディに埋め込めるレーザースキャナを独自開発している。

4WDシステムで知られるマグナはメカに強いイメージがあるが、単眼カメラのみで高速道路での自動運転のデモ走行を披露して、ソフトウェアの分野でも高い技術力を持つことを印象づけた。自社では単眼カメラしか生産していないが、ミリ波レーダなどを併用してセンサ・フュージョンをしたいという自動車メーカーの希望があれば、他社製センサまで含めたインテグレーションまで対応できる実力を持つ
4WDシステムで知られるマグナはメカに強いイメージがあるが、単眼カメラのみで高速道路での自動運転のデモ走行を披露して、ソフトウェアの分野でも高い技術力を持つことを印象づけた。自社では単眼カメラしか生産していないが、ミリ波レーダなどを併用してセンサ・フュージョンをしたいという自動車メーカーの希望があれば、他社製センサまで含めたインテグレーションまで対応できる実力を持つ

 夏にも、「ZF」と「マグナ」といった大手部品メーカーの自動運転車を公道でテストする機会があった。トランスミッションやサスペンションを得意とするZFが「TRV」の買収を完了し、ステアリングやセンサ類といった自動運転に欠かせない機能を手に入れた。3つのカメラとミリ波レーダを併用したシステムで、ドイツの高速道路で120km/h程度で走るぶんにはまったく問題ない。3年以内に実車に搭載される予定だ。

 4WDシステムを始め、総合部品メーカーとして知られるマグナの自動運転車は、なんと(!)単眼カメラだけで自動運転に挑戦したという意欲作だ。デュアルカメラ、レーザースキャナ、ミリ波レーダーがない自動運転車に同乗するのはためらわれたが、実際に走りだしてみると、意外なほど真っ当な走りっぷりだった。ただし、自動車メーカーは安全性を重視するため、単眼カメラだけでの自動運転を採用する可能性は低い。マグナでは、単眼カメラという安価な部品を使っても自動運転ができるソフトウェア開発の能力を披露することで、他社のセンサ類とのインテグレーションをするときのリーダーシップを取りたい考えだ。

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