「SIGGRAPH ASIA」は、毎年夏に北米で開催されている世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術のカンファレンス「SIGGRAPH」のアジア版で、毎年冬に開催されている。8回目となる今年は、11月2~5日の4日間、兵庫県の神戸コンベンションセンターで開催された。
カンファレンスでは、応募からの採択率30%以下という狭き門をくぐり抜けた各研究者の論文発表をはじめ、ポスター展示やワークショップ、CGの祭典にふさわしく、アニメーションフェスティバルなどが開催される。そのなかでも注目したいのが、まだ製品化されていない最先端技術のデモが見られる「Emerging Technologies」(E-TECH)である。
今回は、厳しい審査によって採択された29件のE-TECHデモンストレーションの中から、筆者が今年注目している3つのテーマに関連した作品をご紹介する。
10月に筆者が企画し、開催した触覚をテーマにしたハッカソン「ショッカソン2015」でも感じたことだが、多くの人が簡単にVRを楽しめる時代になったことで、“見る”だけではなく“触れる”技術への注目が高まっている。
一般の人々の間でも、iPhone 6sに搭載された「3D Touch」や「Taptic Engine」が話題になるなど、確実に触覚技術の重要性が高まっているのだ。E-TECHでもさまざまなタイプの触覚技術が展示されていたが、気になったものは次の3作品である。
WholeGripは、電気通信大学梶本研究室が研究を続けている「電気触覚ディスプレイ」を、ロボットハンドの操作用グリップに応用したものである。グリップ全面に電気触覚ディスプレイが取り付けられており、モノをつかむ力を制御したり、モノをつかんだときの感触がグリップを通して手全体にフィードバックされることが特徴だ。
機械を身体の一部のように遠隔操作できる装置はすでに数多く存在するが、扱いづらさや指先でしか触感を得られないなどの問題があった。WholeGripは、自身の手で持つだけで使え、手全体に触感を得られるだけでなく、バーチャルなモノを触ることもでき、そのモノの形を判別することまでできる。幅広い用途が考えられる技術だけに、製品にいち早く実装されることが期待される。
モノの触感を音声として記録し、再生できる慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)南澤研究室の「テクタイルツールキット」をモバイル化したのが「Twech」だ。
ユーザーは、自分の感じた触感を記録したり、SNSなどを使ってその触感を他人にシェアしたりできる。さらに、Twechのサーチエンジンによって、たとえば、“金属の表面をひっかく”など、その触感と似た触感を作り出すものを探すこともできる。こうして集められたデータは、今後の触覚技術の研究に大いに役立つだろう。
「Yubi-Toko」は、タブレットを操作する指の動きよりも、画面のスクロール量をユーザーの想定より小さくすることで、擬似的な触覚を提示するという東京大学廣瀬・谷川研究室の研究である。
会場では、タブレットの中の雪景色を指で「とことこ歩く」コンテンツが展示されていた。雪のあまり積もっていない部分を歩くとなめらかにスクロールし、多い部分を歩くとスクロールが重く(なかかなか進まない感じに)なる。雪を踏みしめるザクザクという音やタブレットに内蔵されたバイブレーターの効果とあいまって、雪国育ちの筆者には、雪道の歩きにくさをリアルに思い起こされるものであった。
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