続いては、これまでディスプレイの中に閉じ込められていたデジタル世界の情報を、さまざまな方法で「実体化」し、現実世界と融合させようという研究についての発表をご紹介する。
こうした「実体化」の研究は、ウェアラブルデバイスやIoTの先を示しているように感じられた。それをCGの学会であるSIGGRAPHが推進しているという点も興味深い。E-TECHの展示では、次の3つが印象的だった。
360度どこからでも立体的に見える映像を、何もないテーブル上に表示する装置が、情報通信研究機構が開発した「fVisiOn」である。5cmほどの3Dキャラクターが、反対側に回り込んでも裸眼で立体的に見えることに驚いた。
テーブル内部を見せてもらったところ、200台のプロジェクターアレイとすり鉢状のアクリルレンズがコンパクトに収まっていた。Unityのアセットも用意されているので、3Dデータアセットを持っている人ならば、すぐにこの装置に対応したコンテンツを開発できるだろう。
香港大学が開発したこの装置は、小型の霧発生器をマトリクス状に配置したテーブルの上に、霧を発生させて映像を投影する。
「フォグスクリーン」を使ったプロジェクションのシステムはこれまでにもあったが、必要な部分にだけ霧を発生させることで何もない空間上に描いた文字や絵があたかも“浮いている”ように見える点が、ユーザーにとって面白い体験になっている。
曇ったガラスや鏡に落書きをした経験は誰にでもあると思うが、大阪大学が制作した「Ketsuro-Graffiti」は、そんな経験を呼び起こさせるデバイスである。
鏡の裏面にペルチェ素子をタイル状に取り付け、電流を加えた部分を結露させることで、10×10のドットマトリクスディスプレイとして利用する。古き良き思い出を、テクノロジで新しい体験としてよみがえらせる良い事例だと思う。
「fVisiOn」は、E-TECHの「Best Demo Award As Voted By Committee(委員会選出賞)」に、「Ketsuro-Graffiti」は「Best Demo Award As Voted By Audience(体験者選出賞)」にそれぞれ選ばれている。
SIGGRAPH ASIA 3日目に実施されたMITメディアラボ石井裕教授の講演タイトルは、“Post Pixels: Beyond Tangible Bits, Towards Radical Atoms”であった。長い間、コンピュータのインターフェースの主役であったディスプレイが、その役目を終える時期が近づきつつある。
今年のEmerging Technologiesは、そんな「ポストディスプレイ時代」がどういうものなのか、いち早く体験する機会となった。今回のレポートが、読者の皆さんにとってその“少し先の未来”を覗く体験になればと思う。
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