BBCが考える、ネット時代における「ジャーナリズム」の役割とは - (page 2)

ニュースとは「事実」であり、メディアの役割はそれを理解して伝えること

 インターネットとスマートデバイスの普及は、「ニュース」「メディア」という概念を多様化させた。イーガン氏のこの発言は、時代が変わってもニュースが担うべき役割は変わらないという示唆であると受け取れるが、改めてこの点を含めて、“ネット時代のメディアの役割”というテーマでイーガン氏の意見を聞いた。

--ネット時代におけるニュースの存在意義や役割について、意見を聞かせて下さい。日本では総合ニュースや専門的なニュースとともに、ネットの情報をただ並べただけのものや、SNSで個人が公開した投稿を貼り付けただけのもの、ゴシップや下世話な話題も「ニュース」として混在しています。社会的な価値のあるニュース、人々が知っておくべきニュースと、ただの「情報・話題」の垣根がなくなってきているのではないでしょうか。


ニュースが社会に果たす役割を語るジム・イーガン氏

イーガン氏:まず大前提として、「ニュース=ジャーナリズム」というのは非常に重要な社会的役割を担っています。ジャーナリズムがきちんとしているということは、そこで民主主義が機能しているということ。確かに、今の時代はネットに溢れるさまざまなテーマのニュースの中から読者が読みたいものを読むという利用シーンですが、その中でそのニュースが信頼される価値があるものかどうかは、社会の判断に委ねられているのです。

 BBCの記者をはじめ伝統的なメディアにいるジャーナリストは、(こういった理由で)社会に対する責任感を強く感じています。そして、社会の信頼を獲得するため、BBCグローバルニュースリミテッドはオリジナルのニュースを配信するために大きな投資をしています。ただ単にBBCが作ったニュースを配信するだけでなく、BBCワールドニュースとしてオリジナルで製作したニュースを配信しているのです。加えて、「メディアは社会に対して独立、公正、正確でなければならない」という伝統的な編集方針も、ニュースが社会から信頼されるために非常に重要なことです。

 こうした価値観は“古い”と思われるかもしれませんが、これは未だにメディアにとって重要なことだと考えています。ネットには、さまざまな立場のオピニオン、ノイズ、ゴシップ、プロパガンダなどの情報がありますが、実はこうした情報にはあまりはっきりとした“事実”が入っていません。ですが、私たちの仕事とは“事実を理解して、それを伝えること”であり、そこで意見を述べたり偏見を持ったりすることが仕事ではありません。

ネットが民主主義にどのような影響を与えたのか、その答えは出ていない

 日本では、ネットに公開されるニュースに対して、氏名や身分を明かさずに匿名性の高い状態でさまざまな意見が飛び交い、一部のイデオロギーを呼んで「ネット右翼」という言葉も生み出された。ネットニュースの以前、以後で世論の形成プロセスにどのような変化が生まれたと感じているのだろうか。

--ネット時代の民意形成や世論形成の変化について。テレビや新聞・雑誌の時代は、ニュースを読んで感じたことは自分の中に留めておくか知人との会話で共有する程度でしたが、インターネットの登場によって不特定多数の人がニュースに集まり、意見を交わせるようになりました。こうした変化が世論形成にどのような影響を与えていると考えますか。

イーガン氏:確かに、インターネットの台頭によって情報へのアクセスが容易になり、(ネットで起きる)いろいろな機会に参加できるようになりました。しかし、それと同時に人々はインターネットの登場によって(以前よりも情報に対して)懐疑的になったのではないでしょうか。

 私たちは、人々にニュースを届けることによって、そのニュースが民主的な合意形成の役に立つことを願い、活動してきました。しかし一方で、まだ答えが出ていないのが、「インターネットは、これまで民主主義のために何をしてきたのか」という命題です。

 たとえば、インターネットの登場によって、人々は民主主義により懐疑的になってしまったのか、民主主義に参加することをやめてしまったのか、熱意を失ってしまったのか。あるいは、社会の利益のために民主主義に深く関わり知識を蓄え、さまざまなイベントに参加するようになったのか。もし、私がこの仕事をリタイアしたら、このテーマについて研究してみたいと思います。

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