BBCが考える、ネット時代における「ジャーナリズム」の役割とは

 英国の国営放送BBCの傘下で、ニュースサイト「BBC.com」の運営と、世界各国へのニュース映像「BBCワールドニュース」の配信をしているBBCグローバルニュースリミテッドは、10月から日本語版ニュースサイト「BBC.jp」を開始した。10月15日にサービス開始にあわせた発表会が開催され、同社のCEOであるジム・イーガン氏が来日した。


右から、BBCグローバルニュースリミテッドCEOのジム・イーガン氏、BBCワールドジャパン代表取締役の渡辺雄二氏、同デジタル・エディターの加藤祐子氏

日本語版ウェブサイト開設の背景に、国際情勢への関心の高まり

 BBC.jpは、国際問題、ビジネス、エンタメ、テクノロジなどの話題に加え、世界100カ国に展開している記者・特派員が執筆するニュースやレポート、話題性の高いトピックスなど、BBC.comに掲載される記事の中から、日本国内において関心の高い話題を東京のエディターが選定し、翻訳・編集した記事やビデオコンテンツを掲載する。編集長には、朝日新聞記者、国連本部職員、CNN日本語版ウェブサイト編集者、gooニュース編集長などを歴任した加藤祐子氏が就任する。

 これまでBBCは、日本に特派員を展開して日本の政治経済をはじめとするニュースを世界に発信してきたほか、20年以上にわたりBBCワールドニュースを日本の視聴者向けに放送してきた。このタイミングで日本語版ウェブサイトを開始するのはなぜか。イーガン氏は、発表会の挨拶で、日本における国際情勢に対する関心の高まりを挙げた。同社が日本人を対象に実施した世界情勢への関心についての調査によると、「興味がない」と答えた日本人はわずか3%で、4分の3が「関心は強くなっている」と答えたという。


BBC日本語版のウェブサイト

 「国際問題は国内問題としてもかつてなく重要性を増している。日本の政治や産業、そして世界との関係が、世界の視聴者・ユーザーにとって意味のあるものになると同じように、日本では健康や経済、テロリズム、移民などの世界的な問題への関心が高まっている。その結果、毎日の国内ニュースや地域ニュースとあわせて、国際ニュースも見られるようになってきた」とイーガン氏は語る。

 すでに英語サイトであるBBC.comへの日本からのアクセスは月間800万PVを記録している。また日本人にとってのニュースソースがテレビ・ラジオからウェブへと大きくシフトしていること、特にモバイルを活用したニュース視聴が拡大していることなどを背景に、年初の日本版YouTubeチャンネル、日本語版公式Twitterの開設に続き、日本語版ウェブサイトの開設へと至ったという。

 今後は、BBCの既存チャンネルを通じたプロモーション、ソーシャルメディアの活用、そして大手ニュースプラットフォームとの協業なども視野に入れて読者の獲得を進めるとしている。ウェブ動画などを活用してニュースの背景を掘り下げるなど、ネットならではの付加価値あるニュースを提供していきたい考えだ。

“誰でも記者になれる時代”にプロのジャーナリズムが担う役割

 近年、ニュースを取り巻く環境はめまぐるしく変化している。インターネットが人々にとって重要な情報取得の手段になり、SNSやスマートデバイスの発展によって誰でも即時性の高い情報を発信できるようになった。イーガン氏は「デジタル技術を使えば誰でも“記者”になることができ、誰でもニュースをいち早く発信することができる。目の前の出来事をあっという間に世界中に伝えられるようになった」と表現する。

  • 発表会でスピーチするジム・イーガン氏

 そうした環境において、93年という歴史ある報道機関であるBBCは、報道機関の存在意義についてどのように考えているのだろうか。イーガン氏は、こうしたニュースを取り巻くさまざまな環境の変化の中で、「それでもプロのニュース企業の存在価値はあると、強く感じている。BBCはニュース速報において信頼に足りるリーダー的な地位を維持できる」と自信をもって語った。

 「BBC は1922年から、優れた報道に尽くしてきた。いかなる国家や政府からも独立して、世の中で起きたことを公平かつ正確に伝えることに尽力してきた。新しい技術によって誰もが自分の意見を表明できるようになり、『プロパガンダ』と『事実』の境界があいまいになっている。その中で、視聴者にとって本当に中立・公正であり、それぞれが判断できるように手助けするニュースを得られる機会というのは、今まで以上に重要性を増している。BBCを設立以来支えてきた価値観は、デジタルの世界においてこれまでと同様、あるいはこれまで以上に大事なのだ」(イーガン氏)。

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