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Wearable Tech Expo 2015

東京五輪で世界に発信したい“スポーツ×テクノロジの融合”は、何を目指すべきか - (page 3)

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スポーツの魅力を世界に発信するために、テクノロジに何ができるか

 では、スポーツ版ビッグデータを中核とするこうした最近のテクノロジ・トレンドを踏まえ、2020年に向けてスポーツの魅力や面白さをテクノロジによって世界に発信するためには、何が必要だと考えているのだろうか。

  • パフォーマンスや戦略性をいかにわかりやすく可視化できるかがテクノロジに求められる

 舘氏は、「“アスリートが勝利のために何を考え、何を工夫するのか”。これを理解することが観戦者にとってのゲームの面白さになる」と指摘。アスリート自身の視点を基本に、スポーツの新しい見方、見せ方(=エンターテインメント性)を追求する必要があり、その中でウェアラブルやセンシング技術、ビッグデータ解析といったテクノロジは、アスリートのパフォーマンスや戦略性を可視化することができるかが大きなカギとなるとしている。その可視化には、クリエイターとしてのセンスも重要な要素だ。「ただ単に高精細な映像と臨場感のあるサウンドで放送していれば良いという単純なものではない。(スポーツの魅力を伝えるためには)その裏には、こうしたさまざまな工夫を追求する必要があるのではないか」(舘氏)。


 加えて舘氏は、ウェアラブル技術について「人間をモニターする、人間をサポートする、人間の五感をエンハンスする、常に人間が中心にいる技術だ」という前提に立った上で、トップアスリートだけでなく多くの人の日常生活をいかにしてスポーツ(ゲーム)にできるかというライフスタイルのイノベーションと、“パーツを積み上げるモノづくり”から“デザインから始めるモノづくり”へと産業競争力のパラダイムシフトの2点を期待したいことに挙げ、次のように語っている。

 「これまで数十年でエレクトロニクスは日常生活の多くを変えてきたが、ウェアラブル技術はより直接的に、より積極的に日常生活を変えていくポテンシャルがあるのではないか。それを支える日本の産業界も、ユーザーインターフェイスを重視した設計へと重点を移していく必要がある。日常生活でもビジネスでも、ユーザーインターフェイスはどんどんウェアラブルへとシフトしていく。そういったときに、このパラダイムシフトは急激に進むのではないか。実はウェアラブル市場を巡る動きは、今後のIT産業そのものの本質に関わるような重要な示唆を秘めている。2020年は、50年に一度のチャンスだ。やれることはたくさんあるのではないか」(舘氏)。

スポーツの発展に必要な、“さまざまな分野の専門家が生み出す多様性”

 こうした舘氏の説明の中でモデレータが気になったのは、ビッグデータを解析してアスリートやコーチを支援する「スポーツアナリスト」という存在だ。舘氏によると、このスポーツアナリストは元アスリートがなるケースが多く、アスリートやコーチの悩みを解決するためにはスポーツの知見も重要なのだが、一方でデータサイエンティストとしての資質も求められるのだという。「ITリテラシーが高い人、作戦やパフォーマンスを分析する独自の観点を工夫する人、そういう素質も重視されている。ITのプロであるデータサイエンティストとしての資質とスポーツが融合することで、新しい価値が生まれるのではないか」(舘氏)。

 これに対して、自身も日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)のアドバイザーを務めている夏野氏は、スポーツ界という枠組みにとらわれない“専門家”の参画がスポーツの発展に必要だと提言した。「Jリーグのアドバイザーには私のほかに、東京大学でデータ分析を研究している西内啓氏などが参加しているが、(組織やアスリートの成長のために必要であれば)もちろん専門家を集めたほうがいいに決まっている。なぜそこで同じ競技の出身者にこだわる必要があるのか。ここが日本のスポーツをダメにしている。スポーツ出身者のスポーツアナリストがいても、もちろんいい。しかし、より専門的なデータサイエンティストがいたほうが、より深い分析をするのではないだろうか」と夏野氏。

 加えて、こうした“枠組み”に囚われる組織作りの弊害は、スポーツ界に限らないと夏野氏は続ける。「メーカーの経営は、メーカー出身者のみで固める(傾向が多い)。ソニーにiPodが作れなかった理由は簡単。経営層にネットワークを理解できる人がいなかったから。入社時からずっと同じ釜の飯を食いつづけていては、時代の変化に対応できない。一様性や純粋培養性だけで組織を作っていれば、いつか組織はおかしくなる。ここを改めることが、全ての産業にとって重要なことだ」(夏野氏)。こうした組織を形作る人材に必要な多様性について、舘氏も「スポーツアナリストの人々も、夏野氏と同じようなことを言っている。もっと色々な分野の人たちにスポーツアナリストの世界に入ってきてほしいと願っている」と語った。

 またこの点について室伏氏は、「この議論は、アスリートのキャリアトランジション(引退後のキャリア転換)にも関わってくる話だ。アスリートは競技をやることも大事だが、次のキャリアを考えることも重要。競技だけやっていると(競技以外の)情報は入ってこないが、一歩外に踏み出して研究者をはじめさまざまな分野で活躍している人と交流すると、自分が追求する競技の狭い社会よりも、もっといい情報が手に入る。私は研究者としてオープンになっていろいろな情報を自分の力にできた点がよかった。アスリートは“ただその競技だけをやっていればいい”というのでは難しいのではないか」と、アスリートの視点から多様な知見に触れることの意義を指摘した。

 一方で、石黒氏は自身のシリコンバレーでの経験を元に、さまざまな分野の専門家が集まり組織を作る際に注意すべき点を挙げた。「シリコンバレーでいい組織を作ろうとしている企業は、秀逸なエンジニアがトップに立っている。インテルも、Googleもそうだ。その理由は、エンジニアにしかわからない高度な専門知識を求められているから。スポーツ界でも、“スーパースター”のようなアスリートを頂点にして、その知見をサポートするような多様性のある組織を目指すべきだのではないか」と述べ、結果を残せるアスリートにしかわからない知見を組織の軸に置き、それを様々な専門家が支える組織の在り方が必要だという認識を示した。

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