8月中旬の五反田の夜。画面がひび割れたiPhoneを握りしめ、蒸し暑い繁華街で、何かから必死に、しかし楽しそうに逃げ回っている男がいた。名前を柳田昌弘という。3月にLINEの代表取締役社長CEOを退き、現在は同社顧問、また独立して立ち上げたC Channelの代表取締役を務める森川亮氏が「川上さん(ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏)みたいな面白い経営者」と言い表す人物だ。
柳田氏が代表取締役を務めるRodeoInteractiveは、「neeboor(ニーボ)」という位置情報を利用してユーザー同士が交流できるオープンSNSを開発、運営している。従業員数は柳田氏を含めて3人。小さな会社で知名度は低いが、森川氏は4月に、柳田氏の才能を見込んで社外取締役に就任している。
neeboorは2013年5月にリリース。地図上でのコミュニケーションが特徴で、ユーザーは外出時の出来事をその場で発信(シャウト)したり、シャウトにコメント(やじ)したりして交流する。周辺のユーザーを確認したり、趣味が合う人が集まるコミュニティに参加したりすることもできる。地図データは、iOS版はApple、Android版はGoogleが提供するものを利用している。
ユーザー数は明かしていないが、都市部を中心に使われているという。首都圏、阪神エリア、名古屋では定期的にオフ会が開催されているそうだ。
柳田氏が五反田を走り回っていたのは、neeboorのリアルイベントを開催していたためだ。「街を舞台にした遊び」をユーザーに知ってもらうために、場所を変えて定期的に実施しているという。柳田氏が“賞金首”となり、45分の制限時間内に他ユーザーがそれを捕まえるという単純なルール。柳田氏はneeboorを通じて、写真や文章、位置情報で追っ手となるユーザーにヒントを与える。柳田氏を捕まえたユーザーには、その場で賞金をプレゼントする決まりだ。
五反田でのイベントに参加したユーザーは、neeboorで確認できる限りで5人ほど。結局、この日は柳田氏が逃げ切った。人数だけをみれば盛り上がっていたとは言いにくいが、参加者の1人は「neeboorは初期から利用している。イベントがあると聞いていたので、仕事帰りに途中下車した」と楽しげに話していた。
現在、さまざまなコミュニティサービスが生まれているが、はやり廃りが激しく、気がつけば消えていることもしばしばだ。森川氏はneeboor、そしてその作り手である柳田氏のどこに興味を持ったのか。また、そんなneeboorは今後どこに向かうのか。両氏に聞いた。--社外取締役に就任したきっかけは。
森川氏:家に手紙が届きまして……。会社じゃなくて自宅ですよ。なんだか怪しい人だなと思いましたが、手紙を読んでアプリをダウンロードしてみたところ、ちょっと怪しい雰囲気の中にも、息吹を感じたというか、昔の2ちゃんねるやニコニコ動画が始まった時のような、ちょっとオタクっぽい雰囲気が漂ってきて、うまくやれば伸びるかもと思ったのがきっかけでした。
まあ、柳田さんは変わったキャラクターで、ビジネス面はまだわからない部分があります。ただ、そこにかける情熱があるので、うまくやれば成長するんじゃないかと思い、社外取締役に就くことにしました。
柳田氏:スタートアップにはできることとできないことがあって、そのできないことを森川さんに助けていただきたいと思いました。私は大学を出てすぐに起業して、周りに指導してくれる人や怒ってくれる人がずっといなかったので、そうしたサポートも期待してお声がけしました。
森川氏:僕がお付き合いしている会社の多くは、さまざまなマーケットを分析してから事業を興し、その中に“新しさ”を入れる。しかし柳田さんの場合は、あまりそういったことに興味がないというか、自分の世界を作ることに集中している。そのため、大当たりするか大失敗するかのどっちかなんでしょう。ただ、あまりいないタイプの人なので面白いと思います。
柳田氏:私もそのつもりでやっています。せっかく大学卒業後にすぐ起業しているので、中途半端にはやりたくないです。
森川氏:なんというか……柳田さんには、ひろゆきさん(匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」 開設者で実業家の西村博之氏)や川上さんに次ぐ立ち位置を狙っていただきたいと思っています。僕が思う“変わり者”だと、メタップスの佐藤さん(代表取締役CEOの佐藤航陽氏)や、サイバーダインの山海さん(CEOの山海嘉之氏)らもいますが、柳田さんもそんな感じで羽ばたいてくれたらいいなと。
柳田氏:自分たちならではのものを作っていきたいです。自分の世界を追求して、それを人々に提案することに憧れがあります。たとえば、いま取り組んでいるneeboorでは、地元のコミュニティ、交流の場を再構築したい。日々の生活に紐づけて、人々のつながり方に新しい軸を加えるのが目標です。
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