サテライトオフィスを開設して5年、見えてきた効果はいろいろあるという。まず、成果が向上する仕事と、しない仕事があったようだ。「黙々と一人で集中する仕事の効率はあがるが、チームワークでコミュニケーションを密にとりたい仕事はあがりづらかった。Skypeなどはあっても直接顔を合わせることにはかなわないため、工夫が必要」と指摘。
しかし、その難しい環境下でコミュニケーションを重ねる中で編み出された新しい働き方もあった。1つは、テレビ会議の上手な開催方法が身についたという。「1対多だと、多い側で話が盛り上がった1人が置いて行きぼりになり、後から改めて共有の必要が出るなどムダがある。事前に資料を展開しておくなど、準備が上手になった。また、会議のために改めてログインするのではなく、常駐社員に関しては東京の社員のデスクに置いたiPhoneで常時つながっている状態にして、いつでも会話ができ、会議室などに連れて行ける形にしている。なんとなく親しみも湧いてよい」と1つのデスクに2人がいるような不思議な光景も紹介された。
新しい働き方の実験と創造にもつながっている。東京から転勤した常駐社員は、東京の労働環境が辛いから退職すると言った結果、たまたま故郷の近くにあった「神山ラボ」に移転した形だ。有能な社員を失わずに済んだという大きな効果があったが、この経験から遠隔地で働く従業員とともに仕事をするというノウハウがSansanには生まれた。
「徳島で現地採用した神山ラボの常駐社員の他、現在京都に1人、長野に1人、新潟に2人の東京に来ない社員を採用している。優秀だが家庭の事情などで上京はできない人を、従来は採用できなかったが今はできる。採用競争力が向上した」と角川氏は語る。こうした多様な働き方を受け入れている中で、革新的な企業文化の醸成もできてきているという。
また、テレビ会議機能を使った「オンライン営業」も、こうした環境における実験から誕生したものだ。もともとは地方からの問い合わせに対応したいと始めた取り組みで、相手先に訪問せず、初回から電話と画面共有で製品紹介や商談を進める方式だが、最近では都内の新規顧客対象にも利用しているという。「現在は営業の3割程度をさばいている。特に中小企業対応では便利で、訪問した時にありがちな雑談でつなぐような時間もないため商談が短く終わる傾向がある。移動時間がなくなったことと合わせて、商談機会は2倍になった。また、社内で対応しているため上司が営業の様子をモニタリングしてアドバイスもしやすく、営業マン育成が一気に進んだ」と大きな効果があったという。
東京のオフィスも「神山ラボ」からインスピレーションを受けて改装し、多くの植物をちりばめた個性的な空間を作っているSansan。東京オフィスでも週に1日だけ在宅勤務を選択できる制度や、土日と平日を入れ替える形での勤務を認める制度も採用している。しかし、この取り組みは非常に大きなものというわけではないともいう。
「働く場は既存の固定されたオフィスから、オフィス内のフリースペース化やオンライン営業の採用、サテライトオフィスの設置などを経て在宅ワークのように柔軟な「場」になって行く。しかし我々も全員が在宅ワークをしているわけではなく、すごく極限というわけではない。ほとんどは東京の固定された場で働いている。場にこだわらない働き方は目的ではなく手段として、必要に応じて段階的に導入して行くのが重要」と、角川氏は非常に印象的な取り組みである「Sansan神山ラボ」も、今後さらに柔軟な働き方を受け入れて行くための足がかりであると語った。
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