パナソニックは、中南米市場で2018年度までに2200億円の売上高を目指す計画を明らかにした。
パナソニックの常務役員で中南米総代表の塩川順久氏は、「2014年度の実績は1500億円、2015年度は1600億円。経済成長や市場の低迷から当初の計画に比べて約200億円少ない。これを4年でリカバリーしていくことになる。成長戦略の軸は、テレビ事業依存体質からの脱却と、アプライアンス(白物家電)事業の成長と、BtoBソリューション事業の成長になる」とした。
2013年度実績で中南米事業全体の売上高の62%を占めていたテレビをはじめとする市販AV事業は、2018年度には35%にまで縮小。電池を含むアプライアンス事業は2013年度実績の21%から27%へと拡大させる考えであるほか、BtoBソリューションは、2018年度には23%にまで急拡大させる。
塩川氏は「会社を変える、売りを変える、人を変えるという3つの変化が鍵になる。ブラジルとメキシコで成長性を確保していく」と語る。
パナソニックは、中南米の33カ国を対象に事業を展開しており、その広さは、2041万平方メートルと日本の54倍。国内総生産(GDP)は全世界の8%を占める市場だ。そのうち、ブラジルとメキシコの2カ国で中南米市場全体の62%を占めており、パナソニックの事業展開もこの2カ国を中心としたものになっている。
「ブラジルを中南米での第一の戦略地域とすれば、メキシコが第2の戦略地域になる」とし、ブラジルでは2018年度に800億円の売上高を目指すほか、メキシコでは500億円の売上高を目指す。
現在、パナソニックでは、ブラジルとアルゼンチンのPANABRAS(パナソニックブラジル)グループ、メキシコ市場を担当するPANAMEX(パナソニックメキシコ)、パナマ、中米などのPLAT(パナソニックセールスラテンアメリカ)、ベネズエラを担当するPAVECA(パナソニックベネズエラ)で構成するPLATグループ、ペルーやボリビアを担当するアンデスグループの4極体制で事業を展開。これに中南米地域のマーケティングを担当するPMLA(パナソニックコンシューマーマーケティングラテンアメリカ)がある。
6月末の従業員数は3091人で、そのうち日本人出向者は89人となっている。
2015年度の計画では、中南米の売上高の50%をPANABRASグループが占め、次いでPLATグループの26%、PANAMEXグループの15%、アンデスグループの9%となる。成長を見込んでいるのはPANABRASグループとPANAMEXグループであり、そのほかの地域は前年割れとなる。
成長戦略のひとつめの柱となるアプライアンスは、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジといった製品群が中心となる。
冷蔵庫と洗濯機については、ブラジル・サンパウロ近郊にある、冷蔵庫と洗濯機の生産拠点であるエストレマ工場が2012年9月から稼働。生産能力は、冷蔵庫で年間18万台、洗濯機で8万台だが、まだ拡張の余地がある。
「ブラジルでは、ボトムフリーザ方式という、パナソニックが日本で実績がある冷蔵庫を製品化。ガラストップの扉による高付加価値の製品も人気を博している。洗濯機は、南米で中心となっているアジテータ方式とは異なるパルセータ方式の製品を提案している。2015年4月からは、パナマやコロンビア、ペルーに洗濯機の輸出を開始したが、ブラジルからメキシコへの輸入税がゼロになることがわかった。これによって、メキシコでも価格面でも参入が可能な環境が整う。2016年度からはメキシコで洗濯機の事業を開始する。今後、冷蔵庫に関してもメキシコ市場への参入を考えていきたい」という。
主力のブラジル市場でも冷蔵庫で約3%、洗濯機では約1%と市場占有率はまだ低いが、電子レンジは高い実績を持つ。ブラジルではすでに20%弱のシェアを獲得。中南米全体でも5%強のシェアを持つ。
塩川氏は「価格競争の激しい市場だが、パナソニックの認知度がある分野であり、今後はブラジル市場では約3割、中南米市場全体でも2桁のシェアを獲得したい」と語る。電子レンジは、ブラジル北部のマナウス工場で生産しており、これをブラジル国外にも輸出していく。
冷蔵庫、洗濯機、電子レンジについては、ODM(相手先ブランドでの設計製造)の活用による品揃えの強化も同時に進めていく考えも示した。
グローバルでは、アプライアンス事業の収益の柱のひとつに位置付けられている理美容製品については、「ひとつひとつの製品の金額規模か低いということもあり、対象となる市場規模が広い中南米市場での成長戦略には含まれない」という。
エアコンに関しては、マレーシアからの輸入が中心で展開しているが、ブラジルをはじめとして普及率が低い製品であり、今後は、家庭用エアコンをブラジルのマナウス工場でも生産し、シェアを高めていく考えだ。「ブラジルでは、年間2万台程度の実績。これを存在感を発揮できる5~10万台程度に引き上げたい」としている。
BtoBソリューション事業では、ブラジル・リオデジャネイロで、2016年に開催される五輪に向けたビジネスの推進をきっかけにした、大型映像ソリューションの展開に注目が集まる。
五輪が開催されるスタジアムへの機器導入などのほか、ブラジル・クリチバのアレーナ・ダ・バイシャーダスタジムには、77平方メートルの大型ディスプレイ2面と、42型と50型の220台のテレビを設置。これらをコントロールするデジタルメディアセンター向けシステムを導入。2015年8月から稼働を開始するといった成果などをもとに、AVとセキュリティソリューション事業を加速する。
メキシコでは、アステカスタジアムに大型映像システムを2015年5月に導入。21×10メートルの大型LEDスクリーン2面と、観客席の間を1周する形でスクリーン表示ができる0.96×160メートルのフェイシアを2面導入するといった実績のほか、通信事業者のCarsoグループ向けに基地局向けバックアップ電源の導入、コンビニ大手のOXXO向け店舗ソリューションシステムなどの実績を持つ。
中米とコロンビアでは、価格競争力を30%強化したソーラー事業による小売業界や物流業界での展開強化、ハウジング事業の強化、店舗向け360度カメラや顔認証システムによる店舗向けソリューションの展開を進め、チリやペルーでも、通信事業者向けソリューション、店舗向けソリューションでの実績をもとに事業を加速する。
塩川氏は「2015年6月にはPMLAにソリューション事業推進グループを設置。日米欧のBtoBシリューション推進部門との連携を図る一方、国や地域ごとの事業機会を捉えてBtoBソリューションビジネスの開発を推進する」と今後の方針を説明した。
「ブラジルやメキシコでは、サイネージの導入を促進するが、ハードウェアだけのビジネスではなく、ソフトウェア、コンテンツ制作、メンテナンスといった部分での収益を高めたい。チリでは、衣料品販売のTricotに、80台のカメラを活用した顔認証システムを導入。事前に登録した不審者とカメラの映像が合致した場合には警告を発するといったソリューションを提供。この実績をもとに、ほかの地域にも横展開していくことを考えている」(塩川氏)
現在は、中南米市場で規模が小さい車載関連事業だが、「中南米に進出している欧米の自動車メーカーからの引き合いがあり、2017年度以降の受注に向けて手応えを感じている。輸入税などの関税がかからずに、モジュールや製品を物流する条件として、源泉からの一貫生産体制を持っていることが条件となる場合がある。パナソニックにはその体制があることが、自動車メーカーの高い関心につながっている」という。
中南米市場で「テレビメーカー」という印象が強かったパナソニックだが、脱テレビ事業依存へと体質を変えることで、成長戦略を描くことになる。
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