2月のNetflix日本上陸発表から、dTVのリニューアル、テレビ各局の見逃し配信の整備など、2015年におけるビデオオンデマンド(VOD)業界の動きは目覚ましい。その中でも国産VODとして約450万人のユーザーを有するdTVと、元祖黒船として上陸し、2014年には日本テレビ放送網グループとして新たなスタートを切ったHuluは、VOD業界の2大ブランドだ。
携帯電話とともに進化してきたdTVと、数多くの海外ドラマを日本に紹介してきたHulu。異なる強みを生かしながら成長してきた両社は、現在のVOD市場をどう築き上げ、今後をどう戦っていくのか。HJホールディングス職務執行者社長の船越雅史氏と、エイベックスデジタル常務取締役の村本理恵子氏が、カンファレンスイベント「新世紀テレビ大学」内で話した。
Huluは、3月に会員数100万人を突破。海外ドラマファンを中心に推移してきた。「ハリウッド中心の海外ドラマを配信し、男性ユーザーが多いという印象。ただここ1年で、国内コンテンツを増やしたこともあり、女性ユーザーが増加傾向にある」(船越氏)と分析する。スマートフォンやタブレット、ゲーム機など、マルチデバイス化も熱心だが、最も使用されている視聴デバイスはテレビだという。
一方、携帯電話からスタートしたdTVは、モバイルを中心にユーザーを獲得。メインは20~40代としながらも、10代から80代までとユーザー層は幅広い。オリジナルコンテンツBeeTVの影響もあり、女性のユーザーが多いことも特長だ。
dTVが4月のリニューアル時に最も力を割いたポイントの1つが「ザッピングUI」と呼ばれるユーザーインターフェースだ。「目指したのは、テレビの感覚で見てもらえること」(村本氏)と話すとおり、予告編が自動再生され、テレビのチャンネルをザッピングしていく感覚で扱える。
「地上波を見て育ってきた日本人は、10局に満たないチャンネルでさえ、見たいものを探すのが難しいと感じている。数多くのコンテンツを持つVODの最大の課題は、いかに上手に見たいコンテンツをレコメンドできるか。日本人向けのレコメンド方法を考えたとき、ザッピングUIは、とてもうまく考えられていると感じた」と船越氏は話す。
dTVでは、「あなたにオススメ」のレコメンドチャンネルのほか、「海外ドラマ」「アニメ」など12のチャンネルも用意する。「おすすめだけだと実はユーザーは満足しない。“選んだ感”を持ってもらうことがとても大事」(村本氏)とレコメンド以外の選択肢の重要性を説いた。
コンテンツについては「作品が人をターゲティングしている。例えば韓国ドラマを配信すると45歳以上の女性ユーザーが増える。アニメを増やすと親子で見るユーザーが増える。この辺りは非常に明確だと感じている」(村本氏)と、コンテンツとユーザーの密接な結びつきを示す。
船越氏も「今でも海外ドラマの『24』を見たくて加入してくる方もいらっしゃるくらい、24は大ヒットコンテンツ。『ウォーキング・デッド』も同様。海外ドラマは続きを見たくなる作りで、本当によくできている」と海外ドラマコンテンツの魅力を話す。
村本氏も「続きを見たいと連続してどんどん見てしまうのが海外ドラマの魅力。毎週待つよりも一気見する人が多く、視聴傾向もVODにあっている」と続けた。
大ヒットコンテンツがVODの人気をリードする一方で、重要になるのが、その次に見るコンテンツのレコメンドだ。「24より面白いと思える作品が見つからずそこで退会する人が出てくる。レコメンドの部分をどうしていくかが、最大の課題。単純にサスペンス、SFといったジャンル分けではレコメンドにならない」と船越氏は言い切る。
その1つの答えとしてdTVが取り組んでいるのが、メタタグの付与だ。配信する各コンテンツにタグを付け、そのタグからユーザーの好みを類推する。一見すると単なるジャンル分けのようだが、1つの作品に対し、付与されるタグの数は1000個以上。細かな部分は人力で行っているという。
「システムである程度のタグづけはできるが、その作品がハッピーエンドだったのかまでは判断ができず、限界がある。人間がキュレーションする部分はすごく大事で、特に日本人はそうした肌感覚にこだわりがあると思う」(村本氏)。「最大のレコメンドは尊敬する人、頼りになる人に勧められること。実際買い付けの担当者に勧められて『HOMELAND』を見たら、ものすごく面白くてハマってしまった。そうした面白さを熱く誰かに語ることで、またファンが増えていく」(船越氏)と人間の肌感覚の重要性を話した。
外部コンテンツを調達しつつも、両者が現在力を入れているのがオリジナルコンテンツだ。Huluは、6月に初のオリジナルドラマ「THE LASTCOP/ラストコップ」を配信。1話を日本テレビの金曜ロードSHOW!で放送し、2話以降をHuluで配信する連携プレイを実現した。
「ラストコップは、地上波よりも大きな規模で取り組み、実際インターネットリテラシーがあまり高くないユーザーの取り込みにも成功している。今までのテレビしか見ていなかった人たちの入会動機になったと思う」(船越氏)と手応えを話す。
BeeTVとして長くオリジナルコンテンツを提供するdTVは、8月に映画『進撃の巨人』と連動したオリジナルドラマの配信を控える。「オリジナルコンテンツには長らく取り組んできたが、24などの海外ドラマの配信も手がけるようになり、オリジナル作品の立ち位置を見直した。映画と同じくらいの規模で、サイドストーリーや映画につながるような、大型作品を連動させていくというのが1つの方向性。さらに6月に公開された映画『新宿スワン』は、劇場公開前から、映画本編を6話に分けて配信する新たな試みにも挑戦した」(村本氏)。
テレビと連携しながら、新たな映像作品提供の場として、足固めをしつつあるVOD。今後のテレビとの関係についてはどう考えているのだろうか。
「VODがテレビに取って代わるとは思っていない。多分何を見るか、何を使うかはユーザー次第。1日の時間はアプリやゲームなどとの時間の取り合いになっている。どの部分を映像が取れるか」(村本氏)と話す。一方、船越氏は「今、2台目のテレビなくなっていると聞く。リビングにテレビがあっても、ベッドルームや子供部屋には置いておらず、テレビを持っていない一人暮らしの大学生も多いと聞く。5年後、10年後にどうなるかわからないが、テレビが持っているのは圧倒的なコンテンツ力。VODが盛り上がってきても1000万人が見ているVODはない。そう考えるとテレビの役割が衰えることはないと思う。しかし、テレビコンテンツの届き方、サービスの有り様は変わってくる。テレビのすごいところは同時接続。それが保証できるのはテレビしかない」と強調した。
「2014年は動画元年と言われたが、実感はない。2015年後半から2016年を動画元年にしないといけない。動画、テレビ、映画、VODを見るを生活の一部にしないといけない。スマートフォンやタブレットで映像を見ることを生活の一部にしないといけない。VODが生活の一部になるようにしていくのがこれからの作業」(船越氏)と、今後を見据えた。
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