2020年に向けて現在積極的な取り組みが進められているものの1つに、携帯電話の次世代通信方式「5G」がある。その5Gの標準化に大きく関わっており、技術開発に積極的に取り組んでいる日本企業の1つ、NTTドコモの先進技術研究所 5G推進室 室長 主席研究員である中村武宏氏に、5Gの進行状況と2020年の実現に向けた取り組みについて話を聞いた。
そもそもなぜ、現在5Gの開発が進められているのだろうか。中村氏はその要因の1つとして、トラフィックの増加を挙げている。2020年時点のトラフィックが、現在の4Gの環境で耐えられないわけではないが、2020年代を考慮した場合「どこかの時点で、トラフィックが(現在から)10年前の1000倍くらいになっていることを考えなければいけない。そのためには抜本的な対策が必要」と説明する。
その上で、ユーザーが使いやすいよう可能な限り制約をなくし、自由に使えるようにするためにも、新しい通信方式が求められているのだという。実際5Gでは、ピーク時最大10Gbpsの通信速度、4Gの1000倍のシステム容量と100倍の接続機器数、1ミリ秒以下の低遅延など、4Gより高い条件を満たしながらも、低消費電力であることが求められている。
だが過去の3Gや4Gの標準化と異なり、5Gを実現する上ではいくつかの問題も抱えている。そうした問題の1つとして挙げられるのが、高速・大容量通信の実現に重要な技術の確立だ。3G、4Gの時は新しい変調方式の導入など、高速化に向けた技術実現の目途がある程度立っていた。だが5Gの実現に関しては、明確なキーとなる技術が存在しているわけではない。
中村氏はこの点について、「新しい世代だからといって、新しい技術ありきというわけではない。4Gの延長線上にある技術の上に5Gがあるのではないか」と答えている。実際NTTドコモでは、LTE-Advancedの技術をベースとしながら、さらなる高速化・大容量化を実現するための拡張技術を導入することで、5Gの要件を実現することを考えているとした。
その高速・大容量化を実現する上でキーとなりそうなのが、より高い周波数帯の活用だ。最大10Gbpsもの通信速度を実現するには、従来より大きな帯域幅の電波が必要だが、俗に“プラチナバンド”などと呼ばれる低い周波数帯域はおろか、より周波数の高い2.5GHz帯や3.5GHz帯などを用いても、帯域幅が狭くこの条件を満たすのは難しい。そこで5Gでは、空きが多く広い帯域幅を獲得しやすい、最大100GHzまでのより高い周波数帯を通信に用いることが検討されている。
だが周波数の高い帯域は、遠くに飛びにくい上に直進性が高く、特にビル影などには難しいという問題を抱えている。そうしたことから、多数のアンテナ素子を用いて電波の指向性を高める「Massive MIMO」という技術などを用い、高い周波数帯域を有効活用する取り組みを進めていると説明する。
また中村氏によると、世界各国で共通利用できる高い周波数帯を獲得し、利用できるようにするための取り組みも今後進めていく必要があるとのこと。世界的な電波の運用に関する規則を決める「世界無線会議」(WRC)が今年開催される予定だが、今年の時点では6GHzまでの周波数帯域利用に関する議論にとどまるとのこと。それゆえ、2019年に実施される次のWRCにおいて、より高い周波数帯域の利用に関する議論が進められるよう、調整を進めていきたいとしている。
こうしたことからNTTドコモでは、5Gのサービス開始当初から、高い周波数帯を使用し完全に準備が整った状態で商用サービスを開始するわけではないとのこと。ひとまず5Gの標準化を先行して進め、2020年までに準備ができた環境で5Gのサービスをスタートする。その後徐々にアップデートを進め、数年後に完全な状態でのサービス提供になることを想定しているようだ。
高い周波数帯を活用して高速通信を実現する上では、スモールセルの取り組みも欠かせないだろう。特に都市部や建物内などにおいては、「2030年になるとトラフィックは想像できない」(中村氏)と話しており、これまでより多数のスモールセルを設置していく必要があるという。そのためには、従来よりも小型で簡単に設置でき、消費電力も小さい基地局の開発が必要になると中村氏は考えているようだ。
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