米国の例では、2015年初めに「Apple」がデジタルカメラの遠隔操作に関する特許権を取得すると、その日のうちにアクションカメラを製造・販売するスタートアップの代表格「GoPro」の株価がNASDAQで12%下落しました。
特許訴訟のリスクはスタートアップの企業価値に数十パーセントといったスケールでインパクトを与えていると言えそうですね。
通年の営業利益が数千万円のレベルであれば問題もあまり生じないかもしれませんが、これが数十億円、数百億円となってくると大手にとっても脅威となってくるため、特許訴訟のターゲットとなるおそれが急速に高まります。スタートアップの成長はなんらかのきっかけで突然やってくることが少なくありませんが、そうした成長とともに特許リスクも突然やってきます。
皆さんが、時価総額数十億円程度ではなく数百億円、数千億円のメガベンチャーを目指すのであれば、少なくとも上場準備の一環として、他社特許の侵害リスクを精査することが大切になってきます。訴訟リスクは偶発債務として財務諸表で開示しなければならず、最悪の場合にはその危険性の評価をめぐって上場スケジュールが崩れ、IPOのタイミングを失ってしまうかもしれません。
後ろ向きな話をしてしまいましたが、特許出願はスタートアップの企業価値を高める上で定石の1つである独自技術の獲得を可能にするものであり(第5回)、本来、前向きな取り組み。そして、前向きに取り組む中で他社特許に対する感度も自然と高まり、侵害リスクも下がってきますので、IPOはまだ少し先であってもぜひ気を配ってみてください。
すでにIPOの直前期というような場合には、時間があまりありませんので、自社特許よりも他社特許を優先して、特許リスクを特定するためのデューデリジェンスとそれによるディスカウントを最大限減らすための施策を打っていくことが望まれます。
ご質問ありましたら Twitter(@kan_otani)で。
大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・中小企業のIP戦略実行支援。
CNETの連載ご覧いただいた方を対象に無料で初回相談受付中(2015.06.01-info@oslaw.org)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)