ソフトバンクの2014年度の決算は、売上高が前年度比30.1%増の8兆6702億円、営業利益は8.8%減の9827億円と、増収減益の決算となった。減益となった要因は、今年度の共通要因である、ガンホーとウィルコムの子会社化に伴う一時益がなくなったことにある。だが、ソフトバンクが年度当初に目標としていた、一時益なしでの営業利益1兆円達成は実現できなかったことになる。
全体として見ると、やはり米国の携帯電話事業、すなわちスプリント事業の影響が大きい。昨期に大幅な減損処理をしたスプリントだが、多少回復の兆しが見えてきたとはいえ、人員削減費用が増えているなど、依然として事業の立て直しには苦労している様子を見て取ることができる。孫氏が認めたように、Tモバイルの米国法人の買収が米当局の反対によって実現できなかったことから、単独の立て直しを進めているものの、その道のりは依然険しいようだ。
しかしながら、決算発表の場においてソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏は、国内携帯電話事業のみならず、スプリント事業の説明に関しても軽く触れる程度にとどめている。説明に多くの時間を割いたのは主力の携帯電話事業ではなく、ここ数年あまり力を入れていなかったインターネット事業の方であったことが、驚きをもたらしている。
実際、孫氏は持ち株会社のソフトバンクを「ソフトバンクグループ」に、子会社のソフトバンクモバイルを「ソフトバンク」に改名。さらに米ヤフーや中国のアリババで大きな成功を得たインターネット企業への投資を再び積極化させ、ソフトバンクグループを中心としたインターネット企業集団を作り上げると共に、日本に依存した事業形態を改め、長期的かつ世界的に事業拡大を進める方針を打ち出している。
それに伴い、バイスチェアマンとしてソフトバンクに参画した、元グーグルのニケシュ・アローラ氏に代表権を与えて代表取締役副社長に就任させたほか、アローラ氏を事実上孫氏の“後継者”にも指名。携帯電話事業に力を注いでいた従来とは一転して、インターネット事業へ再びまい進しようとしている。
しかしなぜ、孫氏はこれほどまでに急速に、携帯電話事業への関心を失ってしまったのだろうか。それには、国内では“iPhone”という武器が他社にも渡ったことで事業拡大が難しくなったことに加え、海外、つまり米国では政府の影響によって思うように事業拡大を実現できなかったことから、携帯電話事業による業績の急拡大は難しいと判断したためと考えられる。2014年にアリババの上場で大きな成果を得たことで、国家の影響を大きく受けることなく、一層の成長を得るにはインターネット事業に注力した方が得策と判断したのだろう。
とはいうものの、ソフトバンクグループの主力事業は、今なお携帯電話事業であることに変わりはない。それゆえ今後は、孫氏が関心を失った後の携帯電話事業を、国内ではソフトバンク社長の宮内謙氏が、米国では元ブライトスターCEOのマルセロ・クラウレ氏がどこまで維持・拡大できるかが、非常に重要なポイントになってくるといえそうだ。
国内の携帯電話事業の業績も、最近は横ばい傾向が続いており、純増数では主要3社中最下位になるなど、決して好調であるとは言い難い。これまで通りの消極的な取り組みでは顧客流出が起きる可能性もあるだろう。それだけに今後は、宮内氏がどのような戦略をもって国内市場に取り組むのか、明確なビジョンと戦略を示す必要があるだろう。
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