業界の起業家、イノベーター、ベンチャーキャピタリストらが集い、最新のビジネストレンドを披露するカンファレンス「新経済サミット2015」が4月7日、8日の2日間に開催された。2日目は、仮想通貨「ビットコイン」をテーマにしたセッションが行われ、ビットコインにおける国内外のプラットフォーマーや、ビットコイン関連のスタートアップ企業などへ投資しているベンチャーキャピタリストが、ビットコインの魅力と将来について語った。
登壇したのは、ビットコインの取引の際に使われるウォレットサービスを展開しているCircleのCEO ジェレミー・アレアー氏と、取引の仲介業者であるマーチャントプロセッサーと呼ばれる業者の1つ、SNAPCARDのCEO マイケル・ダンワース氏、米国外では最大のビットコインプラットフォーマーであるKrakenのCEO ジェシー・パウエル氏、ビットコインの日本国内におけるプラットフォーマーbitFlyerの代表取締役 加納雄三氏、そしてベンチャーキャピタルMarch Capital Partnersのスマント・マンダル氏。
ビットコインは、インターネット上でやりとりするデジタルの仮想通貨であり、高速かつ低コストで通貨情報をやりとりでき、現金と同じような匿名性がある、セキュリティにも優れた通貨システムだ。「ブロックチェーン」と呼ばれる、世界中のビットコインの取引に関わる履歴が全て記録されたデータと、暗号鍵を用いる仕組みによって成り立っているのが最も大きな特徴となる。
一時期は乱高下したこともあったが、現在は1コインあたり250ドル前後の価値で比較的安定している。流通コイン数は1400万、1日に11万件近くのトランザクションがあり、今までに7億ドル相当がベンチャーキャピタルによってビットコイン関連企業に投資されているなど、市場は盛り上がりを見せている。
パネルディスカッションでは、まずビットコインのメリットについて各パネリストが解説した。Krakenのジェシー・パウエル氏は、そのメリットを3点挙げた。1つ目は取引の手数料がかからないか、ごくわずかであること。2つ目はチャージバック、つまり請求取り消しによる強制的な返金処理がなく、商品などを販売する側にとっても不安が少ないこと。3つ目は、クレジットカードや銀行口座などを持てない途上国の人、未成年、信用情報に問題がある人でもオンライン取引ができることだとした。
SNAPCARDのマイケル・ダンワース氏も、特にチャージバックがない点がメリットであると強調し、ビットコインを利用することで得た資産が保証され、リスクが少ないこと、それが仲介業者であるマーチャントプロセッサーにビットコインを採用する動きが広がっている理由の1つでもあると述べた。
2つ目のメリットとして挙げられた手数料については、Circleのジェレミー・アレアー氏が、オープンな分散型システムによって構築された仕組みによって、ビットコインのシステムを維持するための根本的なコストが低いのが理由だと語った。同社では、インターネットを通じて電子メールをやりとりするのと同じように、ほとんどコストをかけずに世界中でビットコインが流通することを目標としており、手数料を限りなくゼロに近づけることで大きな価値を創出できると訴える。
March Capital Partnersのスマント・マンダル氏は、銀行間でインドや中国に送金する場合、50~100ドルの支払いのために30~40ドルの手数料を支払わなければならない従来システムのコストの高さを例示した。ビットコインであればこの手数料を大幅に削減でき、せいぜい5~10セント程度に収まるという。
ここでモデレーターである楽天Fin-Techファンド マネージング・パートナーのオスカー・ミエル氏が、冒頭で説明した通り7億ドルがビットコインのスタートアップに投資されたこと、しかも2015年に入ってから2億ドルものファンドを集めたことを紹介。「バブルじゃないか、過大評価されているんじゃないかとも言われるが」とスマント・マンダル氏に水を向けると、「興味は高まっている。しかし、まだ初期の段階で、タイミングがカギになる」と冷静に応じた。
同氏は、ビットコインにおける投資の対象として今のところ「決済システムに注視している」とするが、市場が成熟し始め、エコシステムが循環するようになるまでは投資タイミングとして適切でないと見ており、「ビットコインのエコシステムを考えると、まだ時期尚早かもしれない」と打ち明けた。似たような決済プラットフォームとしてPaypalを挙げ、「ある程度規模の経済が働かないと。ビットコインはもっと成長させなければならない」とも語った。
ビットコインにおいて、その発展を占ううえで最も重要なポイントの1つは各国の法規制だ。ドルや円といった各国政府が統制する法定通貨とは異なり、明確な運営母体をもたずP2Pネットワークとブロックチェーンというテクノロジで支えられるビットコインは、各国や有識者からその貨幣としての流通方法の妥当性についてたびたび議論が繰り広げられてきた。
ビットコインに対してはどういった規制環境が望ましいのか。モデレーターに問われた加納氏は、現在の日本国内の動きについて、2014年に設立されたJADA(日本価値記録事業者協会)という自主規制機関が、そのガイドライン作りの役割を担っていると説明。「ビットコインを法規制の対象にすべきか否かという議論はあるが、今の日本では自主規制であるべき」という流れで進んでいるとした。
米国では規制がある、と話したのがジェレミー・アレアー氏だ。「デジタル通貨と法定通貨との間でやりとりする、マネートランスミッターと呼ばれている業者に対しては規制の枠組みがあり、投資についても法令に遵守しなければならない」。また、ジェシー・パウエル氏は「ブロックチェーンのテクノロジや実験を規制しようとしている、米国ニューヨークにおける状況は悲惨」とまで言い切る。
しかしながら、米財務省やFRB(Federal Reserve System)などは、ビットコインの発展に好意的だという見方もある。なぜなら、インターネットが進歩したことによって情報、メディア、コミュニケーションの発展を促したことから、決済や“価値”をやりとりするビットコインのような仕組みに対しても、同様のイノベーションを期待できると考えているからだと、ジェレミー氏は付け加えた。
一方、EU諸国や英国では、全体的にビットコインなどのデジタル通貨に対して好意的だ。英国では規制を決済に関わる部分、あるいはマネーロンダリングに関わりそうな部分のみに止めたいという動きがあるだけで、金融サービスでデジタル通貨を扱う体制を整える向きもあるとのことだ。
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