クラウド共有サービスの「Evernote」が2014年秋から新機能を追加してサービスを拡充している。同11月には情報を共有している相手とEvernote上でリアルタイムなコミュニケーションができる「ワークチャット」をリリース。2015年3月には作成したノートに関連情報を表示する「コンテキスト」に、日本経済新聞電子版のニュースコンテンツ提供を開始した。情報を保管するだけでなく、情報を効果的に活用し仕事を効率化させるための機能拡充を続けている。
「生産性」を再定義する--Evernoteが日経と提携した狙い
Evernoteはグローバルで最も成功したクラウドスタートアップのひとつだが、そのプロダクトマーケティングや各国から生まれるニーズへの対応はどのような考え方で進められているのだろうか。Evernote米国法人のワールドワイドオペレーション担当副社長であるリンダ・コズラウスキー氏に聞いた。
――まず、Evernoteのマーケティングに対する基本的な考え方を教えてください。
リンダ氏:Evernoteは、第一にユーザーニーズに合わせたプロダクトの改善や新機能の開発に最も注力するべきだと考えています。マーケティングは、広告に限らず、ユーザーにとって意味のあるものでなければなりません。そのため、私たちはプロダクト開発においてグローバルでユーザーの声を反映させることに最も重きを置いているのです。
ユーザーにとって価値のあるプロダクトが生まれれば、それがファンを生み出し、ファンが語り合い、ユーザーがグローバルで拡大していくのです。私たちは、プロダクトそのものを高品質に作り上げることが最も重要なマーケティングであると考えています。
――日本市場はグローバル戦略の中でどのように位置付けているのでしょうか、そして日本のニーズに合わせた独自機能は開発しているのでしょうか。
リンダ氏:日本は米国外ではサービス開始初期からユーザー数が拡大した重要な市場です。しかし、例えば言語の特徴に依存するOCR機能などローカライズの過程でそれぞれの国に合わせて最適化させたほうが良い場合を除いて、特定の国だけに提供する独自機能を作ろうという考えはありません。
なぜなら、私たちはWindows、Mac、iOS、Androidなどあらゆるプラットフォームに共通のアプリケーションを提供しているのですが、それを各国向けに個別にカスタマイズすると品質管理が困難になり、グローバルで高品質なプロダクトを提供するというEvernoteのポリシーを守れないと考えているからです。
もちろん、Evernoteの使い方は国や地域によって異なる場合があります。日本では主にビジネスパーソンの情報管理に使われていますが、国によってはプライベートな趣味により多く活用されたりしているケースもあるのです。ただ、利用シーンは異なっても、プロダクトに求められる本質的なユーザーニーズの特徴はグローバルで共通しているというのが、私たちの理解です。
その上で、各国のユーザー環境に依存する独自ニーズに対しては、技術をオープン化することによって、サードパーティのアプリの開発を促して、固有のニーズに対応できるようにしているのです。例えば、ナイジェリアでは銀行のシステムと連携させるためにEvernoteのAPIが利用されていたりしますね。APIは日本でも数多く活用されていますし、日本ユーザーのニーズに合った連携アプリが多く発表されています。
各国への対応で重要なのは、ユーザーとどのようにエンゲージメントを生み出していくかというコミュニケーション戦略の面です。どのようにユーザーとの距離を縮めて、APIによる技術のオープン化によって開発者を巻き込んでいけるかというのは、各国の特性に合わせた戦略を考えています。日本ではユーザー同士が交流するようなイベントやコラボレーションを進めているのが特徴的です。
――プロダクトの土台となるポリシーがありつつも、マーケットの状況はめまぐるしく変化し、それに伴いEvernoteに求められることも大きく変化するのではないかと思います。今後の市場状況の変化にはどのように対応していくのでしょうか。
リンダ氏:市場やユーザーニーズが変化することはもちろん承知しています。ただ、私たちの開発拠点は米国だけでなく世界中に存在し、さまざまな国のニーズを収集しています。そのため、米国ではまだ生まれていないニーズであっても、日本、ドイツ、アフリカなど世界から集まるフィードバックを分析して、将来生まれるであろうグローバルニーズを顕在化させてプロダクトに反映させることができると考えています。もちろん、開発拠点がない場所でも、ユーザーニーズを探るアンテナを張ることが重要です。
例えば、Androidスマートフォンは近年多様化と新興国への拡大が続いていて、ハイスペックな機種だけでなくロースペックの機種も普及が拡大しています。あらゆる機種で差異のないエクスペリエンスを提供するために、ロースペックの機種でもプロダクトが快適に使用できることは、開発課題のひとつとして意識しています。
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