DeNA「ハッカドール」エンジニアに聞く--突き抜けたオタク特化のこだわりと開発の奇跡 - (page 2)

オタクジャンルに特化したからこそ「負ける気がしない」

--ニュースアプリをこれまで手がけてこなかったかと思いますが、DeNAだからこそできたことはありますか。

広瀬氏:クライアントまわりについては、私であったりデザイナーであったりと会社というよりは個々の力に寄るところが大きいのですけど、分析まわりはDeNAでなければできなかったと言えます。レコメンドシステムを作るというところで、榎本と組んでいるもうひとりのサーバエンジニアがエキスパートなのと、あとはMobageの大量のデータを分析する部署の存在は大きかったです。なおかつ分析を扱う部署にもオタクな人がいて、感覚を理解してくれる方でした。そこでがっつりと取り組めたからこそ、実現できたと言えます。

榎本氏:僕が部署に入ったときは、ハッカドールが自主活動からプロジェクトとして動き出したあとなのですけど、最初に岩朝から話を聞いたとき、雲をつかむような話でイメージできなかったんです。例えばそのユーザーの趣味志向と、その記事は一体どういうものかを判別してそれをマッチングできればいいのではと話していたんですけど、それだけの構想ではわからないんです。これは無理だし、ジャンルの特化はあるとはいえ、既存のニュースアプリを上回る存在になれるかは疑問を抱いていました。

 ただミーティングに参加していくうちに岩朝ももう少し要素を分解して説明してくれるようになり、そうするとアプローチの仕方が少しずつ見え始めて、作業を進めていくにつれてだんだん自信をつけていった感じです。

岩朝氏:ある意味、魔法のような言葉を言っていたんです。ただ、アプローチ方法が見え出すと、あとはそのために必要なことはエンジニアが話し出して動いていきます。魔法のような言葉から現実にできそうとなる基礎理論をつかむまでに1カ月かかりました。ただ、自分は見込みがないまま構想を話していたので、1カ月で基礎理論が固まってプロトタイプまで作ることができたのは、本当にラッキーな出来事とまわりから言われます。

--ラッキーということですが、広瀬さんはどう思いますか。

広瀬氏:幸運はあったと思います。プロジェクトを実現できるだけの必要スキルを持っていて、なおかつプロジェクトに対して強い思いを持っている人が集まるというのはなかなかありません。その点でハッカドールは、社内に必要スキルを持っていたキーマンが存在していて、なおかつそのキーマンがオタク趣味を持っていて進んでやりたいと言ってくれたことは、本当に奇跡的だと思います。

--ニュースアプリとしてこだわったところを教えてください。

広瀬氏:ニュースアプリの根幹には結構こだわっています。一覧性や見やすさ、ロード時間が少なくなるように先読みの機能を入れるといったところですね。一覧から詳細ページまでほぼノータイムですし、詳細ページにいったときはすでに元記事ページのロードも入れています。ほかのニュースアプリでも入っている機能でもあるかと思いますが、負けないように使い勝手は良くしています。

 あとはやはりひとつのジャンルに特化させたのが大きな特徴であり、そのためのUIや機能というのを入れているところですね。総合的なジャンルを扱うニュースアプリがオタク系のジャンルを加えたところで、そこには負ける気はしないです。

  • ニュース一覧(イメージ)

榎本氏:初期のサーバ設計段階から、待ち時間の低減を考慮しながら作っていますので、使い勝手の良さは自信があります。オタク向けのニュースアプリそのものはいくつかあるのですけど、自然に使えるといいますか、わりと当たり前のことだけど実現するのが難しいことを入れ込んでいます。

 細かいところですけど、一覧に出てくるサムネイル画像がありますが、こちらのサーバで縮小の処理を入れてから配信しているため、データ量の削減を施しています。また単純に記事のサムネイル画像をそのまま引っ張ってくると、解像度が低く小さな画像が引き伸ばされてつまらなく見えますから、一定の解像度や大きさを持つ画像をきちんと選ぶようにしています。また何も処理を考えないと、SNSへシェアするためのボタン画像など意味のない画像が表示されてしまうので、色数の情報などを見たりして、ちゃんとサムネイル画像としてふさわしいものを表示させるようにしています。

 さらにその画像は縦横比率に応じて、全体を縮小させるのか、それとも両端を切って真ん中だけだしたほうがいいのかということを判別する細かいロジックを入れています。サムネイル画像は、記事を読みたくなるかどうかに大きく影響するところではありますし、オタクジャンルだからこそ画像が重要だと考えていますので、どういう画像を出すかに関しては結構複雑なロジックを組んでいます。

  • 検索におけるサジェスト機能

広瀬氏:あとは検索ですね。岩朝が従来のニュースアプリは検索機能が入ってないので入れようと、さらにサジェスト(※数文字入力すると、該当されると思われる単語が一覧で表示される)も入れようと提案したんです。でも僕を含めてエンジニア陣は青ざめましたけど……。すでにある検索サービスは、その会社の規模だからできるものだと最初は反対しました。

榎本氏:ただ検索の実装は、僕らが最初に思っていたよりも無理なことではなかったです。ハッカドールの検索は、ある程度ユーザー自身の知りたいものが絞られている上で利用されるものなので、ほかの検索サービスよりも断然使いやすいと思っています。直感的にほしい情報が入手できますし、ほかの検索サービスだと時系列がバラバラだったり人気順だったりで埋もれやすいですから。特定のキーワードの記事一覧となるウォッチリストに入れたら、絶対にと言えるぐらいに情報を逃さないです。

広瀬氏:作品名だけではなく、ツインテールのような好みの属性でも拾えるというのも大きいかと。逆にそこができないとオタク向けの検索機能として意味がないです。ちゃんと全文検索をして拾っています。

岩朝氏:正直、チームの人数規模を考えると信じられないぐらい多くの機能が入っています。よく「何人で作ったのですか?」と聞かれるのですが、チームとして自分とプロジェクトマネージャーとエンジニアやデザイナーが数名ずつ。コアメンバー10人程度で、もちろん前述のように分析やインフラなどで手伝ってくれた方もいますけど何十人ではないですし、制作期間も「何年ですか?」と聞かれるのですけど、実際は3、4カ月程度ですから。

重要な仕様は「夜」決まる

--リリース前の実作業における開発エピソードはありますか。

広瀬氏:特徴的な出来事は、夜に重要な仕様が決まるということですね。遅くなっていくとフロアに人がいなくなっていって、数人だけで残っている状況も時々あるのですけど、こういうときに、仕様について気になることを思い思いに口に出していくんです。それを聞いていると、こうしたら面白い、こうしたら解決するみたいなことを周りがいい出すんです。

 そこから作業を進めて仕様がガラリと変わることも少なくなかったので、翌日普通に出社したスタッフが「え?」となることも多々ありました。ユーザーの皆さんの反応を見ていると、評判のいい仕様はこうやって突然決まったものが多いですね。

榎本氏:仕様として決まっているから直せないということはなかったです。「ここおかしいよね?」と気付いたところはみんなで指摘しあって、翌日には仕様として決まって午後には実装しているというぐらいスピード感がありました。エンジニアでもUIや文言に口出ししたり、機能のアイデアも役割に関係なくみんなで言ったりしていましたので、柔軟に仕様に対して口を出して実装していって、日に日にいいアプリになっていきました。

岩朝氏:リリース前までに実は300バージョンぐらいありまして、一日2回ぐらいバージョンアップするといったこともありました。みんな頭の中も行動も言葉も似通っているところがあって、意思疎通が早いです。例えでアニメやゲームの「○○みたいなもの」と言うと、みんなが同じイメージを持つことができるんです。こうして阿吽の呼吸でやっているところがよかったのかなと思う一方、少人数であってもここまでうまくいくのは珍しいと思います。

榎本氏:うちのチームはいつもざわついているんです。同じフロアの他チームは比較的静かなんですけど、このチームだけフィギュアやゲームについて他愛もない話をしていることもあって。大変なことも多いですが精神的にはリラックスして仕事ができています。だから夜遅くにアイデアが浮かんだりするんだと思います。

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