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「クラウドファンディングを定着させたい」--朝日新聞「A-port」の狙い

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 朝日新聞社メディアラボは3月25日、クラウドファンディングの新サービス「A-port」をオープンした。サービス開始にあたり、映画やアートなどのプロジェクトを扱うクラウドファンディングの大手サイトを運営するMotionGallery(モーションギャラリー)と提携しており、決済システムや運営を同社がサポートする。

 なぜ新聞社がクラウドファンディング事業に進出したのか、クラウドファンディングによりものづくりを支援することで何を目指していくのかなどについて、朝日新聞メディアラボの中西知子氏、荻沼雅美氏に話を伺った。

依然認知が少ないクラウドファンディングの魅力を定着させたい

--まず、なぜ朝日新聞社がクラウドファンディング事業に進出するのか、その経緯を教えてください。

  • クラウドファンディングサービス「A-port」

  • 朝日新聞メディアラボの中西知子氏

中西:きっかけは、朝日新聞のグループ内で開催した2013年の新規事業創出コンテストでした。

 そもそもクラウドファンディングを知ることになったのは、私の知人がクラウドファンディングで映画の製作費1000万円を募るという試みをしていたことで、最初は私も“多くの人からお金を集める仕組み”という程度しかクラウドファンディングについて知らず、気軽な気持ちで少額の支援をしていました。

 しかしその後になって、その知人にお金が集まっていないことを知り、Facebookを通じて友人や知人に支援を呼びかけたり、有志が集まってイベントを企画したりして、知人の目標額達成を実現したいという支援の輪を拡げていったのです。そして、実際に目標額を超える支援が集まって、映画製作の実現を喜ぶ知人の顔を間近で見ることができ、クラウドファンディングという仕組みの醍醐味、面白さを目の当たりにできました。

 そこで、この仕組みが日本中にもっと定着すれば、夢を実現したい人にとっては素晴らしいものになるはずだし、多くの人がチャレンジしやすく、そうしたチャレンジを支援しやすい環境が生まれるのではないかと考えたのです。加えて、私はこれまで乳がん検診の重要性を啓発するピンクリボンキャンペーンをはじめ、世の中にとって重要な考え方や仕組みをメディアとして、イベントなどを通じて啓発してきたので、クラウドファンディングを定着させるために何かできるのではないか、とも感じました。

 これまで新聞社は、素晴らしい人や団体に注目したり、社会の課題にフォーカスしたりして世の中に伝えてきました。しかし、これからは夢に向かって頑張っている人と、それを応援したい人を繋ぐ“場”を作ることも、新聞社の事業として重要になってくるのではないかと考えたのです。そうして、“いつか世の中を変えるような事業をやりたい”という目標を語り合っていた荻沼と一緒に、新規事業創出コンテストに挑戦し、今回事業化することになりました。

 クラウドファンディングには“まだまだ認知が少ない”、“発信力がなく起案者(資金を集めたい人)・支援者ともに集まりにくい”といった課題があります。そこで私たちが参入することで、クラウドファンディング業界全体の盛り上がりに貢献できるのではないかと考えています。新聞社がクラウドファンディングを盛り上げるサポーターになるよりも、新聞社自身がプレイヤーとして参入することで、より訴求できるのではないかと考えています。

--ピンクリボンキャンペーンでの経験からはどんなことを学びましたか。

中西:ピンクリボン運動がまだまったく認知されていなかった頃から啓発活動に携わって、多くのNPO法人と関わってきたのですが、彼らは素晴らしい活動をしている一方で資金面で大きな課題があったのです。NPOといえども、完全にボランティアで活動を続けることには限界があって、資金繰りはとても重要。しかし、社会にはまだ彼らにお金が回っていく仕組みが存在していなかったのです。

 そこで、クラウドファンディングを通じて社会に埋もれている様々な素晴らしい活動に寄付ではなくビジネスとしてお金が回っていく仕組みが生まれれば、大きな価値があるのではないかと感じています。ピンクリボンに携わっていたときはひとつの目的のためだけに活動してきましたが、クラウドファンディングで世の中の数多くの素敵な活動を支援できるのは嬉しいですね。

--日本のクラウドファンディング市場は、まだまだこれからという段階だと思います。現状と可能性をどのように捉えていますか。クラウドファンディングの魅力とは?

中西:現状は、日本国内のクラウドファンディング市場を評価する統計さえまだ出されていない状態で、「市場」と呼ぶには時期尚早なのかもしれません。ただ、起案者にとっては銀行やベンチャーキャピタルで資金調達するほかに、共感を集めて明確なリターンを提示することができれば夢に挑戦できるということでハードルが低くなります。

 そして、支援者にとっては人の夢を後押しすることで、支援者同士が繋がり応援者の中で仲間意識が生まれるという新しい体験を生み出せます。場合によっては他の人よりも新しい商品やサービスにいち早く触れることができ、いち早くレビューしてほかの応援者とコミュニケーションできるかもしれません。つまり、単に「モノがもらえてうれしい」といったリターンだけでなく、共感から仲間同士が心で繋がれるという点が魅力なのではないでしょうか。

  • 朝日新聞メディアラボの荻沼雅美氏

荻沼:私にとっては、新しい商品やサービスをいち早く手に入れることができるという点が大きな魅力ではないかと感じています。日本では、まだまだクラウドファンディング市場が大きく盛り上がっていないので、私は米国の「Kickstarter」を参考にすることが多いのですが、面白い発想や新しい技術で生み出された商品はつい色々支援してしまいます。

 支援者にとっては、そこが大きな魅力ではないかと。技術力は日本も負けていないので、起案者が支援を募りやすい仕組みを作れば、日本でも世界から支援者を集められるような面白いアイデアがどんどん出てくるのではないでしょうか。“日本版Kickstarter”のようなサービスを作っていきたいですね。

不正を防止するための対策

--「A-port」というサービス名には、どのような意味があるのですか。

中西:「A」には「Adventure(冒険する)」と「Action(行動する)」という意味が込められています。帆を立てて夢に向かって出航しようとする起案者を、多くの支援者が吹かせる風(=支援)によって大海原に送り出すというイメージです。夢を持ち出航を待つ起案者と風を吹いて彼らを応援したい支援者が集まる“港”を作っていきたいという思いで名付けました。

--起案者と支援者のマッチングはどのように行いますか。

中西:他のクラウドファンディングサービスと基本的に大きくは変わりません。まず起案者が企画内容、目標金額、支援額に応じた特典などをサイトで入力して応募されると、それを審査します。審査を通過した起案者は募集する企画の詳細を詰めて、ウェブサイトで告知するための原稿を作っていただきます。この段階で、場合によっては私たちもアイデアのブラッシュアップなどで相談に乗ります。公開後は、起案者自身で告知していただくほか、私たちも広く発信します。目標金額を達成した場合には、実現に向けた取り組みとお約束いただいた特典を実行していただくという形です。

 支援者は、ウェブサイトで支援したいプロジェクトと支援金額を選び、ネット決済で支払います。もらえる特典は支援金額によって異なります。この点も一般的なクラウドファンディングサービスと同じ仕組みです。

 ちなみに、クラウドファンディングには目標金額を達成できた場合にプロジェクトが実行される「オールオアナッシング型」と、目標金額が集まらなくても不足分は起案者が自分で工面してプロジェクトを必ず実行して特典を支援者に提供する「実行確約型」があるのですが、それは起案者が自由に選べるようにします。

--企画の審査、特に嘘の企画を公開して資金をだまし取ろうという詐欺まがいの行為がでる可能性もゼロではありませんが、こうした不正行為に何かしら対策を考えていますか。

中西:確かにそのような懸念もありますが、クラウドファンディングは詐欺が起きにくい仕組みだと言われています。なぜならば、支援を募集する期間はその起案者の顔写真とプロフィールが公開され、内容に疑義がある場合にはユーザーからも通報を受ける仕組みが備わっているからです。ただ、万が一そういった申込者が紛れ込んではサービスの信頼性を担保することはできませんので、私たちによる審査だけでなく弁護士らで構成される諮問委員会のアドバイスなど、社内外のリソースを活用していきたいと考えています。

--サイト運営にあたって、クラウドファンディングサービス「MotionGallery」と提携した意図は?

荻沼:彼らはアート、映画に特化したクラウドファンディングを展開していて、“夢を追いかける人を後押しする”という点で私たちが考えているクラウドファンディングの価値と一致するのではないかと考え、共に成長していきたいと思っています。彼らにはシステム開発、決済機能、運用の一部で協業していきます。

――収益モデルはどのように考えていますか。

中西:手数料による収益モデルを導入していて、目標金額を達成した場合にその20%が手数料となります。ただ、実行確約型で募集して、目標金額を達成しなかった場合には、手数料は集まった金額の25%と高めに設定しています。これは起案者に適正な目標金額を設定してほしいという狙いからです。例えば100万円を集めれば実現できるのにあえて実行確約型で1000万円を目標にするといったケースを避けるということです。手数料は私たちとMotionGalleryとでシェアします。

クラウドファンディングの裾野を広げるために

--起案者の応募状況はいかがでしょうか?

中西:ローンチ時には、映画制作、町工場のものづくり、伝統工芸の普及啓発、障がい者によるビジネス開発の挑戦、地域活性化のための取り組みなど8案件を掲載しています。また、既に多くの申込、問合せが寄せられています。

 今後カテゴリーにはこだわらず、ストーリー性のあるもの、社会性の高いもの、楽しくてワクワクするようなもの、多くの人の潜在ニーズを満たして生活を豊かにできるものなど、企画を読んだだけで楽しくなるような夢のあるプロジェクトをどんどん載せていきたいですね。ストーリーのあるプロジェクトは、それだけで面白いコンテンツになるのではないでしょうか。そして、A-portを通じて新しい商品・サービスの流行や新しい文化が生まれるような成果が生まれれば、理想的だと思います。

--最後に、クラウドファンディングそのものの認知を広く社会に定着させるために、どのような啓発活動や挑戦をしていきたいと考えていますか。

中西:私たちの目標は、A-portを通じてクラウドファンディングの裾野を広げることだと考えています。クラウドファンディング市場全体の底上げに貢献していきたいですね。世の中に定着させるためには、他のクラウドファンディング事業者とも連携した啓発イベントなどをしていきたいとも考えています。

 そして、クラウドファンディングがごく普通の家庭でも語られるような一般的なものにするには、新聞としての発信力を活かしたり、世の中で話題になったりするようなきっかけを生み出していく必要もあるのではないかと思っています。A-portのことだけでなく、クラウドファンディングで何が話題になっていくかを発信して興味を持ってもらうか、その面白さをどのように伝えていくかという課題にもどんどん挑戦していきます。

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