KDDI∞Labo

「Dr.JOY」が目指す医療現場の新しい情報共有のあり方--KDDI∞Labo第7期の3カ月間

 KDDIが運営するベンチャー育成プログラムの「KDDI ∞ Labo」。第7期プログラムが終了し、Demo Dayも開催された。イノベーションを起こそうとするサービスアイデアを持つ5つのチームがプログラムに参加。今期からは、プログラムを支援するパートナー企業13社が「パートナー連合プログラム」として参画し、パートナー企業のアセットやノウハウを各チームに提供しながら、アイデアの実現に向けた3ヶ月に渡るコンセプト企画やサービスの開発を行ってきた。

 ここでは、第7期プログラムに参加した医療機関向け院内SNS「Dr.JOY」を開発しているDr.JOY代表取締役の石松宏章氏と、パートナー企業で石松氏のメンターを務めた三井物産 次世代機能推進本部 新社会システム事業部スマートシティ事業室室長補佐の松井敏行氏にインタビューを行った。

医療現場の課題から生まれたサービス

 Dr.JOYは、医療機関専門の院内SNSで、医療従事者の情報共有やコミュニケーションを円滑に図ることを目的としている。院内タイムラインや院内カレンダー、院内タスク管理、院内チャットといった医療従事者向けに特化したサービスだ。また、医師と患者間のコミュニケーションや情報共有を図る機能も実装していく。

  • Dr.JOY代表取締役の石松宏章氏

 サービス開発のきっかけは、石松氏自身が現役の医師として沖縄の医療機関で働いており、自身の経験から医師が診療以外の事務作業やスケジュール管理などの雑務に忙殺されている現状を解決したいと考えたからだ。

 「医療現場は、依然としてアナログな情報共有が多い。携帯しているPHSではひっきりなしに電話がかかり、その対応に追われてしまうこともある。もっと簡単に情報共有ができる仕組みを作ることで、患者の診察に時間と労力をかけることができる」(石松氏)。

 石松氏は1年間病院に住み込み、開発に取り組んだ。また、沖縄で仕事をしているため、システム開発などのエンジニアリングは外部に委託したりクラウドソーシングなどを活用したりしながら開発を進めていた。今回のKDDI ∞ Laboインキュベーションプログラムに応募したのは、Dr.JOYをビジネスの最前線で活動している人たちと一緒にブラッシュアップしたいという気持ちからだ。プログラム中は、毎週木曜のメンタリングのために沖縄から上京し、開発のフィードバックをもらいながら残りの一週間で課題に取り組む、という生活を送っていた。

真剣な議論がサービスをブラッシュアップさせる

 メンタリングを行っている松井氏は、三井物産の中でも新事業や新産業を生み出す部署に所属している。200社近い応募の中から、自身が以前から持っていた「医療データは誰のものなのか?」という課題意識をサービスに落とし込んだDr.JOYのメンタリングを決めたという。また、松井氏自身も現在の医療現場における情報共有の少なさや医師と患者とのコミュニケーションの少なさに個人としても課題を感じていたこともメンタリングの理由の一つだったという。普段は東京と沖縄でのやりとりのため、Dr.JOY内でアカウントを作り、Dr.JOY内で情報共有やコミュニケーションをし、時にテレビ電話などでやりとりしながら週に一度のメンタリングの日に向けて取り組んでいた。

  • 三井物産 次世代機能推進本部 新社会システム事業部スマートシティ事業室室長補佐の松井敏行氏

 KDDI ∞ Laboでは、毎週プログラム参加者の前でプレゼンを行う。そこで参加者全員で課題を洗い出し、議論をしながらブラッシュアップを行っていく。Dr.JOYは、主にサービスの方向性やビジネスモデルのブラッシュアップを中心に議論を行った。特に、サービスの方向性として、石松氏の頭には医師と患者とのコミュニケーションを図ることを重視していたが、まずは院内のコミュニケーションを効率化するサービスとして医療従事者の負担を減らすことにフォーカスし、医師間の情報共有が確立されてから患者や家族にも情報共有を行える仕組みにするべき、といった話がなされた。

 「医療現場はとても忙しく、急に患者に情報提供を行えるようになっても、まず医師自身が作業に忙殺されて院内のコミュニケーションができていなければ、患者へのコミュニケーションなんてできるはずがない。まずは医師間、病院内でのコミュニケーションを効率化、活発化させることが現場にとって一番重要だという議論だった。短い時間で、数少ないリソースを割くためにも、選択と集中でサービス開発をする方向性をきちんと見出だせたのではないだろうか」(松井氏)。

 プログラムに参加する起業家とメンターそれぞれも、一人の人間だ。石松氏と松井氏の間も、3カ月間常に良好な関係だったとはいえない。互いにサービスについて考え、サービスの方向性や今後の展開などで議論し、喧嘩することもしばしばあったという。もちろんそれは、サービスについて互いに真剣に考えているからこそ生まれるぶつかり合いであり、結果としてサービスをどういった方向性にしていくかを考える一つのきっかけでもある。

 「医師としての経験からくる考えと、ビジネスの現場の経験からくる考えとの違いから、2人の間で議論もしばしばあった。特に、KDDIのプログラム中に利用できるリソースや三井物産のアセットを活用してどこまで取り組むべきかということで意見の違いもあった。まずはできることからやるのか、それともある程度出来上がったものを作るのか。あくまでスマートフォンにこだわるかウェブベースでまずは始めるかなど、互いのサービスの順番に対するポイントが議論だった。色んな視点からサービスについて考えるきっかけになった」(石松氏)。

 こうした真剣なぶつかり合いがあるからこそ、サービスの細やかな箇所のこだわりや徹底さも生まれてくる。必要なのは、サービスを通じてどういった課題を解決するか、いまあるリソースを使ってどういった順番で、どうサービスを展開していくかを議論し、納得した上で開発していくことだ。

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