KDDIは1月27日、革新的なアイデアを持つスタートアップ企業を対象としたインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」第7期参加チームのDemo Dayを開催。参加チームが開発したサービスをプレゼンしたほか、最優秀賞をはじめ各賞が発表された。
このプログラムは、一般に公表されていない新しいサービスアイデアを持つ5チームが参加。KDDIに加え、プログラムを支援するパートナー企業がメンターとして参画し、アイデアの実現に向けて3カ月に渡りコンセプトの企画やサービス開発を行ってきた。また第7期からは、「パートナー連合プログラム」が開始され、KDDIの支援に加えて参画企業13社がアセットやノウハウを各チームに提供している。
最優秀賞には、医療機関向けの院内SNS「Dr.JOY」が選出された。Dr.JOYはこのほか、会場の投票で決定するオーディエンス賞、特別賞としてChallenge the Frontier賞を受賞している。
サービスを開発した現役医師の石松宏章氏は1年間病院に住み込み、医師や看護師の業務実態にある気づきや、スタッフの連携をスムーズにして患者により良い医療を提供するための課題などを考え抜いたという。「アナログ的で非効率な病院の実態が、外来患者の長い待ち時間などに繋がってしまう。非効率な仕事に追われるスタッフの雰囲気も良くない。こうした院内の業務実態をこのサービスで治療したい」と石松氏はサービスの狙いを説明。医師・看護師間の業務連絡や情報共有をこのプラットフォーム上ですべて行うことで、医局内のコミュニケーションの円滑化とチームの結束強化に繋がるとしている。
サービス開発にあたっては、山口県の医療機関に90日間トライアル導入し、「PHS(での電話連絡)を使う回数が減った」「情報共有が圧倒的に楽になった」といった手ごたえを得られたとのこと。メンター企業として参画した三井物産の協力などによって、すでに東京医大病院、東京女子医大病院、旭川医大病院への導入が内定しているそうだ。「これまで、病院内では医療用PHSしか使用ができなかったが、規制緩和によって院内でもスマートフォンが使えるようになった。スマートフォンとDr.JOYを活用して院内のスタッフが明るく前向きに医療に従事できるようになれば」(石松氏)。
特別賞「Bloom with Tech賞」には、アレンジフラワーのECプラットフォーム「Sakaseru」が選出された。Sakaseruは、六本木でフラワーショップを営む西山祐介氏らが開発。20人のフラワーコーディネーターの中から好みに合ったコーディネーターを指定してアレンジフラワーをプレゼントできるサービスだ。
花はスマートフォンから注文ができ、都内であればレストランなど受け取り場所も指定できる。フラワーコーディネーターとは直接チャットで会話することができ、オンリーワンのプレゼントを贈るために細かく相談することが可能だ。「花を贈ることは素晴らしい体験。しかし、適当な気持ちで贈ることが多いのではないか。“花を贈る”という体験を最大化させるサービスとしてSakaseruを開発した」(西山氏)。
プレゼンの最後には、この日に会場で受け取りたいと注文した男性ユーザーが、同じく会場にいる妻に壇上でアレンジフラワーをサプライズプレゼントするという演出も行われ、愛情を伝える手段としてのSakaseruの価値を会場の参加者の前で実証した。
特別賞「New Lifestyle賞」には、画像を認識して人工知能によってさまざまな情報を検索するシステム「Ingram(イングラム)」が選出された。
開発した松田聡一氏は、「これまでの検索はテキストを入力しなければならず、“いいな”と思っても名前がわからないものは探すのが難しかった。このIngramは気になるものにスマホをかざすだけで人工知能が情報を検索してくれる」とサービスの趣旨を説明した。
検索結果ではそのアイテムの情報だけでなくその周辺情報、たとえば黒い靴を検索した人にその靴に合うコーディネートを提案するなど、ユーザーが情報を与えなくても人工知能で幅広いレコメンドを行うことが可能だという。また画像のピントがボケていても、人工知能がその画像の“雰囲気”を認識して検索するという技術も搭載している。
松田氏は人工知能の課題として学習データの蓄積を挙げ、「人工知能の賢さは学習データの量と比例するが、学習データを入力し続けてデータを覚えさせるのは面倒。しかし、ユーザーの利用で集まる集合知による自立学習エコシステムを構築し、人工知能が自分で学習データを蓄積していくアルゴリズムを開発した」と自信を見せる。未だスタンダードが確立していない人工知能技術の市場を「チャレンジしていくことができる市場だ」と語った。
特別賞「New Excitement賞」には、Androidベースのウェアラブル端末とスマートフォン挿入型のヘッドマウントディスプレイを使って楽しむことができる実空間とバーチャルを融合したゲーム「HADO(ハドー)」が選ばれた。
HADOは3人のチーム同士で対戦するゲーム。ヘッドマウントディスプレイを装着してゲームを開始すると、AR技術により目の前にクリスタルが出現。相手チームのクリスタルを、身体を動かして繰り出す魔法や技を駆使して破壊すると勝利となる。開発者の福田浩士氏は、自身もHADOの動きを実演しながら、「小さい頃、ドラゴンボールが好きだった僕は“カメハメ波”を打ちたくて何度も練習した。魔法を駆使して敵と戦うハリーポッターの世界観に強い憧れを抱いた。HADOはこうした憧れを実現する新しいスポーツだ」とコンセプトを説明した。
福田氏は、HADOをバーチャルで楽しむオンラインゲームではなく、ITを駆使しながらもあくまで現実空間で身体を動かして楽しむスポーツと位置づけ、これを新たなスポーツのジャンル「テクノスポーツ」と名付けて世界的に普及させていきたい考えだ。「まずはイベントを開催して競技人口を増やす。その後映像コンテンツの配信によってファンを増やし、スポンサーを獲得していきたい。目標は東京オリンピックが開催される2020年に世界大会を行うことだ」(福田氏)。なお、メンター企業として参画したテレビ朝日は、このHADOを活用したコンテンツの共同制作や番組制作などで協力していきたいとしている。
特別賞「Unlock the Future賞」には、個人で簡単に書籍の出版・販売ができる無料サービス「∞books(むげんブックス)」が選出された。
このサービスは、ブログを書く要領でフォームに文章を入力すると、紙の本や電子書籍が簡単に作れるというもので、書籍出版の場合の印刷費用は無料。出版された本にはISBN(国際標準図書番号)を付与でき、全国の書店やAmazonで購入できるという。開発した佐田幸宏氏は、「ここで出版される本はベストセラーを狙って作られるものではない。しかし、その本を必要としている人は世の中に必ずいる。そこから新しいコミュニケーションが生まれるのではないか」とコンセプトを説明。
一般的な出版社の場合、ニッチな知識は書籍にしても売上が見込めず、書籍化を見送るケースも少なくないが、そうしたニッチな知識にこそニーズがあるのではないかとサービスの狙いを語った。「誰でも持っている“眠れるコンテンツ”を形にすることができれば。ロングテールで新しい文化を作っていきたい」(佐田氏)。
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