CNET Japan Live 2014 Winter

双方向性を生かせる、スポーツとの相性はいい--ネット動画広告の可能性

 朝日インタラクティブは12月4日、カンファレンス「CNET Japan Live 2014 Winter 『ボーダレス』がマーケティングの決め手~組織・手法・技術の垣根を取り払う~」を開催。ここでは「いよいよ本格的に飛躍するネット動画広告」と題したパネルトークセッションの内容をレポートする。

 登壇者は、「Hulu」を運営するHJホールディングスのヴァイスチェアマンを務める船越雅史氏、ソフトバンクグループで動画事業を担うTVバンクのグループコンテンツ戦略担当執行役員の梅澤孝氏。モデレーターはGCAサヴァイアンのマーケティングオフィサーでアンプリアの代表取締役も務める久保田朋彦氏だ。

ニッチなファンに向けたアプローチで市場は拡大する

 テレビなどを含む動画広告費は、米国の約6兆4000億円に対して、日本は約1兆7000億円という市場規模だという。そのうち、ネット動画広告費は米国が4100億円で市場の6.4%程度だが、日本は20億円と0.124%程度の割合しかない。しかし、日米のネットインフラなどのネット環境や利用状況を比較すると、市場規模は同程度にまで伸びる可能性は高いと久保田氏は指摘する。

 「この数年で、日本の動画広告のマーケットは今後ますます広がっていき、数百億円規模に広がっていくだろう。数年後にはネット動画の環境はガラリと変化し、新規参入など動画に対する関わり方もシフトしていくはず。このパネルディスカッションも、今後の動画広告の可能性について議論していきたい」(久保田氏)

 議論の軸として、ブランドリフティングをどのように図っていくかをテーマにスポーツと動画広告の可能性について言及。例として、2014年の夏の甲子園をABC朝日放送がネット中継を実施したことを紹介した。

 「ネットの動画の市場規模拡大の要素の一つとして、スポーツのネット配信コンテンツの増加があげられる。甲子園のネット中継では、生中継だけでなく試合結果や選手や監督インタビュー、過去の試合のアーカイブなどといったコンテンツを充実させ、それによって売り上げやインプレッションも大きな数字を出していた」(久保田氏)

 スポーツは、スタジアムなど現場の盛り上がりが一番である。それを補完するためのネット動画という位置付けであり、ユーザーの多くはそのスポーツのファン。そのファン層に対していかにリーチできるかが重要となってくる。つまり、コンテンツの成功はファンの育成と表裏一体である、と梅澤氏は語る。そのファン育成のための機能が、これまではテレビが担っていたが、現在ではCSなどの有料チャンネルに移行しつつあると指摘する。

梅澤孝氏
TVバンク グループコンテンツ戦略担当執行役員 梅澤孝氏

 しかし、有料チャンネルはいまだ世帯全体の20%程度しかなく、今後世帯数をスケールさせるのは難しい。コンテンツの露出面積と残りの80%へのリーチを考えた時、ネット動画はメリットがあるのでは、と語る。さらに、もう一つのメリットとして「ネットならではとして、双方向性をスポーツは生かせるはず」と梅澤氏はと語る。双方向による没入感を生み出すことで、より広告効果も期待できるのではという。

 船越氏も、スタジアムの臨場感を評価しつつ、それを踏まえた上で時間や空間を超えたツールであるメディアが、その臨場感を伝え、野球などのコンテンツの魅力や楽しさを伝えるために何ができるのかをもっと考えるべきと指摘する。例えば、有料チャンネルは、すでにコアなファンが視聴していることを前提にできるため、より深い説明や解説などがやりやすくなり、ユーザーの没入感や満足度を提供することができると船越氏。そうした、テレビ以外の放送手段における最適化を考えるべきだと指摘する。

 「日本テレビは、野球中継の際に13台のカメラで撮影している。テレビは放映される動画が限定されるが、ネットはユーザーが見たいカメラアングルを自分で選択することも技術的には可能。テレビではできなくてネットでできることを考えることで、動画の可能性は広がるはず」(船越氏)

 11月10~20日の日米野球でも、新しい取り組みを行ったと梅澤氏は語る。その一つがネットの有料化配信だ。

 「今回のネット配信ならではな取り組みとして、さまざまなデータを持ち寄って解説した。例えばストライクゾーンを分割したビジュアルを用意し、打者の過去のデータから得意ゾーンを分析したり、投手の配球などをリアルタイムにデータ分析を行いながら見せたりする工夫を行った。こうした取り組みは、動画配信の価値を高める施策として有効だ」(梅澤氏)

 野球という良質なコンテンツをより楽しめるためのツールとして、次第にネット配信が移行しつつあると梅澤氏。船越氏は、ネット動画の大きな節目はすでにITリテラシーの高い現在の50代の人たちが定年などによって自由な時間が確保できる2020年以降を一つの大きな節目だと指摘。今まで以上にCSからネット動画へ流入する可能性が高く、それまでにさまざまな施策を実証実験していくことが求められるという。

船越雅史氏
HJホールディングス ヴァイスチェアマン 船越雅史氏

 他にも、コアファンが多いF1などの自転車レースでは、アプリ上でマルチアングルでカメラを選べたり、コース上の選手らの位置を把握したりするニーズに対応できる。多くの人に見てもらうための地上波ではなく、特定の人たちに向けたリッチなコンテンツ制作を行うことで、ネット動画の市場はもっと広がりを見せるのではと船越氏は語る。

 「地上波やCSと違い、ネットは放送面積が限られておらずロングテールな市場環境。これまで放送されなかったスポーツの方がネットと相性がいいことも多々ある。あらゆるスポーツのネット上の動画配信が可能になってくはず」(船越氏)

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