全社員の興味・関心を勝ち取れ--Citrixがモバイルとデザインに投資する理由

 米国カリフォルニア州、シリコンバレーにある街サンタクララにオフィスを構えているCitrix。コンピューティングの仮想化で著名な同社は25年間、仕事とプライベートを両立するというビジョンのもと、エンタープライズ向けのソフトウェアや現在でいうクラウド環境のソリューションを提供してきた。

 そんな同社は5年前から、デザインに対する投資を行っている。エンタープライズとデザインの関係性を紐解くと、モバイル化の波と非常に大きな関係があった。

 自身を「社内でデザインに対して特権を持つ、ユニークな役職」と紹介する、カスタマーエクスペリエンス担当上級副社長、キャサリン・カレッジ氏に、同社の取り組みを聞いた。

キャサリン・カレッジ氏。Citrixでカスタマーエクスペリエンス部門を担当する上級副社長を務める。デザイン思考による社内の変革を5年間にわたって推し進めてきた
キャサリン・カレッジ氏。Citrixでカスタマーエクスペリエンス部門を担当する上級副社長を務める。デザイン思考による社内の変革を5年間にわたって推し進めてきた

モバイル化という時代

WorxMail。添付ファイルの正確なハンドリングや、メールを集中して読む表示など、企業内向けのメールアプリでありながら、コンシューマー向けメールアプリに肩を並べる機能性を実現
WorxMail。添付ファイルの正確なハンドリングや、メールを集中して読む表示など、企業内向けのメールアプリでありながら、コンシューマー向けメールアプリに肩を並べる機能性を実現

 モバイル化の波は、ご存じの通り、コンシューマー向け製品が主導して発展してきた。日本ではケータイ全盛の時代にあっても、企業ではPCを中心としたモバイル活用への取り組みが先行しており、ユーザーがプライベートで深く活用してきたケータイの高度な機能のビジネスシーンでの活用は後手に回っていたように見受けられる。

 しかし現在は違う。AppleやGoogleが新しいスマートフォンの定義を行い、大画面をタッチで操作するデバイスに統一された。またアプリストアによって機能や用途を増やせる仕組みは、ビジネスシーンでも花形の存在となった。

 日本でもさまざまな企業がiPhoneなどの端末を社員に配布し、メールやメッセージング、通話などのコミュニケーションから業務システムへのアクセス、個人の生産性向上などに活用するようになった。もちろん彼らは、プライベートでもスマートフォンを活用して生活をしている。

 冒頭に挙げた、「仕事とプライベートの両立」というCitrixのビジョンを、スマートフォンは先に実現しているのだ。Citrixでデザイン部門を統括するキャサリン・カレッジ氏は、エンタープライズ市場へのモバイルの影響について、次のように評価する。

「例えばiPhoneのようなデバイスを手に入れて、使い始める際にトレーニングクラスに通ったり、分厚いマニュアルを読んだりする人はほとんどいないでしょう。プライベートで使っているデバイスを、そのまま仕事でも使うようになっているのです。すべての人が当たり前のように、モバイルからクライドやアプリを利用するようになりました。エンタープライズ市場の『顧客』は、もはやIT導入担当者やシステム部門の人々だけではないのです」(カレッジ氏)

すべての社員がエンタープライズビジネスの「顧客」に

WorxNotes。コンシューマーに人気のあるクラウドベースのメモアプリも、企業向けに用意し、セキュアで使い勝手の良さを実現している
WorxNotes。コンシューマーに人気のあるクラウドベースのメモアプリも、企業向けに用意し、セキュアで使い勝手の良さを実現している

 こうしたデバイスやサービスの変化は、Citrixの製品やビジネスにとって、大きな変化をもたらしており、これに対応するためにデザイン投資を行ってきたというのだ。その理由はなぜだろうか。

 最も大きな変化は、「モバイル化によって、その企業にいるすべての社員がCitrixの『顧客』へと変わったことだ」とカレッジ氏は語る。この環境の中で、エンタープライズのアプリは、魅力的なソーシャルメディアやメッセージアプリと同じ競争下にあるというのだ。

「スマートフォンには人が処理しきれないほど大量の情報が押し寄せてきます。そのため人々は、興味や関心が強いものから扱っていきます。『アテンション・エコノミクス』とも呼ばれていますが、エンタープライズ向けのアプリは、その他の魅力的なアプリやサービスから興味・関心を勝ち取らなければなりません」(カレッジ氏)

 モバイルという環境に踏み込んだ瞬間、「仕事だからやるだろう」という予測は難しい。そんな興味の競争にエンタープライズ向けアプリも参加しているという認識を持たなければならない。そこで重要になるのがデザインになる。より魅力的で使いやすく、タップしてもらえる存在になることが必要だったのだ。

 前述の通り、トレーニングやマニュアルを必要とせず、楽しんで使ってもらえるかどうか。モバイルの常識はエンタープライズアプリでも、大きな達成すべき基準になった。

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