niconicoの“止まった”は改善するか--視聴品質最適化技術やニコ生のH.265導入実験

 ドワンゴと日本電信電話(NTT)は11月20日、映像とソーシャルサービスの高度化に関する技術開発の成果を発表。視聴品質最適化技術の評価結果を踏まえた実証実験を11月20日から開始するほか、H.265/HEVC技術をニコニコ生放送に適用する共同実験を開始する。また、全天球映像向けインタラクティブ配信技術を活用したバーチャルリアリティライブ配信サービスについても触れられた。

利用環境に最適化した配信レートを設定する「視聴品質最適化技術」

 視聴品質最適化技術は、ネットワークが混雑しているときでも視聴者の体感品質を過去の状況から予測し、最善な配信レートで提供するというもの。

 映像を視聴した時にユーザーが感じる体感品質「QoE」(Quality of Experience)と呼ばれるものがあり、映像の配信レートが上がれば視聴したときの満足度も上がりQoEも上昇する。ただし一定以上のレートになると上昇値が鈍くなり差がつきづらくなる。またレートを上げすぎると再生が止まる危険性もあって、QoEが急激に下がる可能性もある。もちろんユーザーの視聴環境も、外出時や家など常に同一ではない。利用環境にあわせたQoEの一番いいところを狙って最適化するのが、この技術の狙いとしてある。

  • 視聴品質最適化技術の説明を行ったNTTネットワーク基盤技術研究所 主任研究員の山本浩司氏

  • ユーザーが感じる映像品質についてのグラフ。レートが上がれば品質も上がるが一定以上になると上昇値が鈍くなり、かつ再生が止まる可能性もあって急激に下がる危険性もある

 従来の映像配信であれば、利用者がどのような環境で視聴しているかはわからず同じレートで配信を行う。そうなった場合、朝の通勤通学時間にモバイルデバイスで視聴すると混雑により細い回線となっているので映像が途中で止まってしまう可能性があって不満に感じる。一方で自宅など回線に余裕のある場所で見ているときには満足する画質とはならない。今回の技術は、例えば朝の時間帯であれば、朝の通勤通学の時間帯を低レートで、夜には自宅などの視聴を想定して高レートと、利用者の環境に最適な配信レートをNTTが持つ統計データを活用して配信する仕組みとなっている。

 最適化機能の適用に先立ち、視聴品質最適化技術の適用性を評価する目的で実験を実施した。その結果によれば最繁時には33%のユーザーに再生停止が発生していたところ、発生率を1~2%に低減させることが可能と確認したという。またユーザーの体感品質であるQoEスコアをモデルにより評価したところ、再生停止発生率の低減などにより最繁時で35%の向上、一日平均でも20%ほど向上が可能だとしている。この技術を導入することによって再生停止に遭遇する率は激減し、体感品質の向上が期待できるとしている。

  • 従来の映像配信と、今回の視聴品質最適化技術の仕組みの違い

  • 再生停止率の大幅な減少は品質の向上、データ量の低減も見込めるなど、レコメンドによって大きな品質の改善が期待できるという

  • 実際のデモ機。写真ではわかりにくいが、回線に余裕のある場合、右側の方がきれいかつなめらかに配信されている

 11月20日からniconicoユーザーに試験提供し、実証実験を行う。Android向けniconico公式アプリから無作為に抽出。視聴品質最適化を適用した場合と適用してない場合の比較を行うという。

処理負荷が高いH.265/HEVCをリアルタイム処理でニコニコ生放送に適用

 次世代映像符号化規格のH.265/HEVC技術をニコニコ生放送に運用する共同実験も開始する。この技術によって、現在主流となっている映像コーデックであるH.264から約50%ほどのデータ量を削減しつつ、画質はそれほど変わらない映像配信が可能になる。これによって再生がカクつくなどの問題が解消し、同じデータ量であればなめらかな映像になるなど放送画質の向上が見込めるというもの。もっともH.264と比べて処理負荷が高く、低コストでライブ配信用に導入することが難しいとされていたという。

  • NTTメディアインテリジェンス研究所主任研究員の谷田隆一氏

 NTTでは4Kなど大画面用に開発しているH.265/HEVCのエンコーダーを、ニコニコ生放送用にチューニングし、低レートかつ小画面用に最適化を図ることで、低レートでも小画面で高画質にリアルタイム圧縮できるソフトウェア技術を確立したという。さらにデータ量の割り当てを細かく制御することによって低レートや小画面での動作実行速度や画質を向上した。

 前景と背景の境界を認知してブロック分割を行うことで最適なモードを高速に選択可能。さらに処理をパイプライン的に組むことによって、分割による圧縮効率の低下を抑えつつ処理速度を確保するマルチコアCPU向けリソース最適化技術も導入。また人のいる映像では、顔などに人の目が行きやすくひずみが気になる領域にはデータ量を割り当て、背景など画質劣化が気付きにくい領域ではデータ量を削減し圧縮率を上げるという、必要な領域にデータを割り当てる局所QP変動処理によって、低レートでも感覚的に荒いところが目立ちにくい画質を実現したという。

  • H.265/HEVC技術をリアルタイムで配信するには難しいとされているが、NTTがニコニコ生放送に向けてチューニングを施した

  • 高速なブロックサイズ・予測モード選択処理や、マルチコアCPU向けリソース最適化技術も導入

  • さらに、必要な領域にデータを割り当てる局所QP変動処理も入れ、ネット配信という低レートかつ小画面の環境に最適化した映像が配信される

 今後は一部の公式ニコニコ生放送で試験的に適用して視聴者実験を予定。その評価を踏まえて活用範囲を拡大していくとしている。

小林幸子さんのコンサートでバーチャルリアリティライブ配信サービスを開始

 また2月に発表した、全天球映像向けインタラクティブ配信技術を活用し、視聴者がヘッドマウントディスプレイ(HMD)を通して好きな方向を自由に見渡せるバーチャルリアリティライブ配信サービスについても、11月17日に日本武道館で行われた小林幸子さんのコンサートで実装し生中継配信を行った。

 この技術は、視聴している方向の映像だけを高品質で選択配信するとともに、それ以外のところは低画質であわせて配信することによって、映像が途切れることなく限られた帯域下でも高品質な映像配信を可能としたもの。VRシステム「Oculus Rift」によって専用のアプリを導入することで視聴できる。

 初めての運用となった小林さんのコンサートでは、フレームレートが低く配信されてしまったが、そのあたりは数カ月で改善ができる問題だという。また単に画質を追うのではなく、いかに視聴者が楽しめるようなものにしていくかも含めて今後も開発に取り組むとしている。

  • ドワンゴサービス企画開発部 ニコファーレセクション セクションマネージャの岩城進之介氏(右)と、NTTメディアインテリジェンス研究所 研究主任の越智大介氏(左)

  • 小林さんのVRライブ映像のデモ

  • バーチャルリアリティライブ配信の仕組み

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