千葉の幕張メッセで10月7~11日まで開催されている、最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN 2014」。IT関連の製品や部品、ソフトウェアが中心だが、今年は異彩を放つ展示が東芝と富士通で見られた。それが「野菜」だ。ブースの一角に据えられた棚は、野外のような煌々とした照明を放ち、その下にはレタスなどの野菜が展示されていた。「なぜIT企業が野菜なのか?」をレポートする。
富士通の担当者に聞いたところ、野菜を作ろうと思い立った理由は半導体を生産するクリーンルームの活用だったという。東芝も5月15日付けのプレスリリースで「当社所有の遊休施設を活用」という文面があるため、事情は同じと推察できる。つまり、無菌を維持できるクリーンルームであれば、野外で生産するのとは異なり、虫や動物も来ないため、それらに食べられることもなく、媒介する病気にもならない。つまり、完全な無農薬栽培ができるというわけだ。
また、東芝によると、雑菌による傷みが少ないため、2週間前後の長期保存ができるという。まさにサラダ用の野菜やカット野菜を生産するのに最適なのがクリーンルームと言える。実はIT企業が円高と半導体不況で生産設備を縮小したり、海外に生産設備を移転した副産物がこの野菜工場なのだ。富士通は会津若松で、東芝は横須賀に試験的にこの野菜工場を設置し、試験的に生産を始めている。
クリーンルームで栽培できる野菜のメリットはこれだけはない。光の照射時間や肥料を制御することで栄養価を自由にコントロールできるという。もちろん、一般的に売られている野菜と同等の栄養価のものを作ることも可能だ。とはいえ、今のところ富士通の担当者によると、当面は農家と競合するよりもクリーンルームでしか作れない機能性野菜を作り、市場を棲み分ける方向で模索しているという。例えば富士通が生産するレタスはカリウムの含有量が一般的な野菜の15分の1だ。
カリウムは腎臓病になると腎臓で処理できず、高カリウム血症により心不全などを引き起こす可能性がある。そのため、多くの腎臓病患者は食事制限により、生野菜を食べることはできない。しかし、この低カリウムレタスならば、カリウムが食事制限の対象にならないため、腎臓病の患者でも安心して食べることができる。また、クリーンルームで生産し、農薬も使わないため、洗わなくても食べられるのも特徴だ。
富士通ではこの低カリウムレタスの出荷を既に開始しており、福島県や関東のスーパー「マルト」や「コープあいづ」「九州屋」「ころくや」(いずれも一部の店舗のみ)と福島県立医科大学付属病院にあるローソンや東京労災病院の売店などで販売されている。また、東芝はベビーリーフのサラダを社内の食堂などで試験的に販売するとのこと。
イマドキの野菜は「生産者の顔が見える」「生産地が追跡できる」といった消費者が商品の素性を追跡できるようにし、安心して買って貰えるようにするのがトレンドだ。こういったことをするには、生産管理のシステムが不可欠だが、実は富士通や東芝といった企業であれば、むしろ半導体生産で培った得意分野であり、自社で持っているシステムをそのまま活用できる。
富士通は生育管理システム「agis」を構築、RFIDで生育情報、観察記録の管理をしており、クラウド連携で個体情報を簡単に参照できる。生産管理のシステムはもちろん、自社製品を活用しているのが東芝だ。
東芝は東芝ライテックという照明機器専門のグループ企業があり、そこで野菜の栽培専用にチューンナップした蛍光灯を開発し栽培に活用している。今後、こうした野菜の工場栽培がより一般的になれば照明機器の需要も高くなるため、市場として花開く可能性がある。
半導体と野菜という違いはあれど、モノの生産を管理し一定の品質でつくるという点では共通しており、半導体メーカーは新規の大規模な投資なく今まで培ってきた技術を転用できる。半導体は需要と供給の波が激しく定期的に進化する製造プロセスに対応して生産設備の改変が必要だが、野菜ならば需要はある程度一定しており、生産設備の改変も必要ない。また、天候によって生産量が左右されないため、食料の安定供給という点でも社会的なメリットがある。とはいえ、半導体と野菜ではそもそもの単価が違うため、富士通の担当者によるとコストが課題とのこと。特に1つの工場から全国に出荷するのでは輸送コストが掛かりすぎるため、地域ごとに工場を作り、地産地消の方がベストだと語っていた。
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