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二次創作 ~パロディ・リミックス・サンプリングの限界は? - (page 2)

福井健策(弁護士・日本大学芸術学部 客員教授)2014年10月03日 11時00分
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二次創作と著作権の関係をおさらい

 さてこの二次創作、著作権的には何にあたるでしょうか。典型的なパロディなどは原作の「創作的な表現」を使いつつ、そこに新たな要素を加えて別な作品を作るので、「翻案」ですね(第5回)。あるいはコラージュであれば、原作作品の部分「複製」にあたるケースもあるでしょう。よって無許可でやると著作権侵害のようにも思える。更に、原作への改変だったり原作者の名前を出していないということで、著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の侵害と言われるかもしれません(第17回第18回)。

 この点、サンプリングなどあまりに細かな断片の利用の場合には、原作の表現が再現されていないのでそもそも「複製」にはあたらない場合もあります。そうであれば著作権的にはOKですが、どの程度細かければ大丈夫という明確な基準はありません。(「4小節以内ならば許可不要」というのは都市伝説で、著作権的には正しくありません。)また、音源を利用するサンプリングの場合には「著作隣接権」という別な権利が関わり、こちらは細かな断片でも使われただけで侵害という見解も有力です。

 「原作」からタイトル(題号)やアイディアしか借用していない場合も、著作物は使っていないので、やはり著作権的には無許可でもOKとなります。この方面の代表例は「日本以外全部沈没」(筒井康隆)です。オリジナルの「日本沈没」(小松左京)からは題名と基本の着想以外、ほとんど借りていないのですね。

 また替え歌は、歌詞が全然もと歌と違う場合、オリジナルの歌詞は借用していませんね。よって歌詞の改変とは言えない。使っているのは楽曲(メロディ)だけであってそちらは変えていないので、JASRAC等から楽曲の利用許可さえとれば著作権的には特に問題はないという見解も、有力です。

 更に、絵柄などが孤高過ぎてあまりオリジナルと似ていないパロディ同人誌は、類似していませんから著作権の問題はないケースがあります。前回お話した「カラオケ」の例と同じですね。少し違えば翻案権・人格権侵害だけど、あまりに違えば無罪、なのです。

パロディ許容規定のあるフランス・米国・英国

 しかし、それ以外の恐らく相当数にのぼる二次創作は、訴えられたら著作権侵害・著作者人格権侵害とされる可能性が濃厚です。文化のメインストリームであり、日本のオタク文化・クールジャパンを支える二次創作は、実は法律的にはかなり危ういのですね。

 この点、海外に目をやるとフランス・スペインなどの国には著作権法に「パロディ規定」という例外規定があります。第8回などでお話した「制限規定」の一種で、「パロディ・パスティッシュ・カリカチュア(風刺)は許す」という明文の規定があるのですね。また、米国著作権法にはパロディ規定はありませんが、「フェアユース」という幅広い例外規定があって、「原作に市場で損害を及ぼさないような公正な利用は許す」とされています。パロディは、通常は原作と市場で競合しませんね。

 たとえば、刑事告訴されて話題になったコミック「ハイスコアガール」と、その作中に登場したゲームソフト「サムライスピリッツ」の商品と、どちらを買おうかお店で迷うファンはあまりいない訳です。両者は住み分けています。多くのケースでは、原作の損害は乏しい。そのため、米国でも無論パロディ作品が著作権侵害訴訟を起こされることは珍しくないのですが、近年はパロディ側がフェアユースにあたるということでかなり勝っています。更に、最近では英国で、MAD動画などを許す規定も導入され、話題になりました。


二次創作的な作品としては、異例の刑事告訴・家宅捜索に発展した『ハイスコアガール』(押切蓮介)

 このように二次創作を許す規定がある欧米では、(もちろん何もかも許される訳ではありませんが)ある一定の基準でパロディは原作者の許可がなくても可能になっています。

 日本はどうでしょうか。世界有数の「二次創作大国」ですから何かパロディなどを許す根拠規定がありそうにも思うのですが、実はありません。やや近いのは第9回でお話した「引用」の規定ですが、まあ二次創作は典型的な引用ではありませんね。最高裁などの挙げる「引用の基準」にはどう考えても合致しないのです。

グレー領域の効能

 ではなぜ、日本では二次創作文化が花開いているのでしょうか。皆が許可をとってパロディや二次創作をしているのでしょうか。確かにそうした例もあります。たとえばボカロの代名詞「初音ミク」のキャラクターデザインは、権利元であるクリプトン・フューチャーメディアが、「非営利目的であれば自由利用」といった条件で公開しています。第14回でご紹介した「クリエイティブ・コモンズ(CC)」マークなどが採用されており、よってその範囲であれば権利者は明文で許可していることになります。


ボカロ文化だけでなく、公開利用ライセンスの代名詞にもなった『初音ミク』(Crypton Future Media inc.)

 しかし、実は多くの二次創作はこうした許可はとっていません。たとえばコミケの数万に及ぶ参加サークルは膨大な数のパロディ同人誌を即売しますが、権利者から許可を得ているケースはごく少数です。では、あれは何なのか。

 いわば「お目こぼし」です。パロディは原作の最大のファン達がおこなっているファン活動の延長ですし、「同人誌が混みあうくらいの人気が欲しい」と切望する原作作家や出版社も多いでしょう。更に、こうした二次創作文化が新たなクリエイターの生まれる土壌になっている、という指摘もあります。

 もちろんやり過ぎれば頭を叩かれます。過去にも「ポケモンアダルト同人誌事件」とか「ドラえもん最終話事件」とか、権利者から刑事告訴やクレームを受けた同人誌マンガの例はない訳ではありません。しかし、やり過ぎとみなされる一部の例を除いて、大多数の作品は黙認、黙認が言い過ぎならいわば「放置」を受けています。

 創る側も、ここまでなら怒られないかな、といった間合いをはかりながらやる。つまり「阿吽の呼吸」で二次創作文化ははぐくまれて来たのですね。日本人は声高に法律のルールを論じたり作ったりするのはあまりうまくない。しかしこういう、阿吽の呼吸をはかるのは恐らくかなり上手です。だからこそ、世界に誇る二次創作文化が「建前上は違法」なのにここまで開花したのでしょう。

 2013年に文化庁のワーキングチームが「パロディと著作権」について調査した際も、こうした現状に鑑みて、「日本ではパロディ規定のような明文のルールをすぐに導入するより、現状を温存する方が良いかもしれない」という趣旨の報告書を発表したほどです。

 二次創作の日本モデル。おもしろいですね。もっとも、こうした「曖昧なルール」にはもちろん欠点や限界もあって、また、国際的な圧力で変更を迫られることもあります。そうした中で、日本でも「二次創作のルールの見える化」をはかろうという様々な試みもはじまっています。さてどんな試みで、日本文化はどこに向かうのか。

 という訳でこのトピック、まだ完結しません。このまま次回最終回「著作権は何のためにあるのか?著作権をどう変えて行くか?」になだれ込みます。

(続きは次回)

 レビューテスト(19):4小節以内ならば既存曲のサンプリングは適法である。○か☓か。正解は本文中に!

【第1回】著作物って何?--文章・映像・音楽・写真…まずイメージをつかもう
【第2回】著作物ではない情報(1)~ありふれた表現や、社会的事件も著作物?
【第3回】著作物ではない情報(2)~アイディア、短いフレーズ、洋服や自動車も著作物?
【第4回】著作権ってどんな権利?~著作権侵害だと何が起きるのか
【第5回】著作権を持つのは誰か ~バンドの曲は誰のもの?
【第6回】どこまで似れば盗作なのか ~だってウサギなんだから
【第7回】どこまで似れば盗作なのか(続)~だって廃墟なんだから
【第8回】個人で楽しむためのダビング・ダウンロードはどこまでOKか
【第9回】その「引用」は許されるのか?講義やウェブでの資料配布は?
【第10回】その著作物の利用、できます -入場無料のイベント・上映、写り込み、企画・研究-
【第11回】ソーシャルメディアと著作権 ~歌詞のつぶやきはOK?利用規約には要注意?
【第12回】動画サイトの楽しみ方 ~違法動画を見たら犯罪?「歌ってみた」「踊ってみた」は?
【第13回】10分で学ぶ、JASRACと音楽利用のオキテ
【第14回】作品を広めるしくみ ~噂の「CCマーク」を使ってみる
【第15回】青空文庫を知っていますか? ~著作権には期間がある
【第16回】「海賊版」の話 ~作り手達が本当に困るのはどんなことなのか
【第17回】「命を惜しむな。名を惜しめ。」 ~著作者人格権とクリエイターの“名誉”
【第18回】人の文章への加筆、音楽のアレンジはどこまでOKか ~著作者人格権と「現場の事情」

福井 健策(ふくい けんさく)

弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部 客員教授

1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。

著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全5巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。9月17日に新著「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)発行

専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。

国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku

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