ついに18回目と、最終直線に入った「18歳からの著作権入門」。今回は誰でもやってる、でもどこまでOKなの?の、加筆・アレンジです。
クリエイターは、著作権を譲渡することは出来ます。しかし、これだけは決して手放すことができない「著作者人格権」として、(1)公表権と(2)氏名表示権を前回紹介しましたね。今回はその第二弾で、名前からしてややこしい(3)同一性保持権です。確かに名前を見ただけで、「よくわからんが、なんだか人格にディープに関わりそうだな」と思えてくるこの権利。いったいどんなものでしょう?
要するに「私の作品を無断で改変するな!」と言える権利です。作品はクリエイターの分身のようなもので、それによって作家は社会的に評価されますね。作品に勝手に手を入れて発表されたりすると、心情だけでなくキャリアとして困るケースもあるでしょう。ですから、複製といった著作権(財産権)的な問題があるなしに関わらず、「著作者の意に反するような改変は人格権侵害だよ」とされているのです。
これは結構厳しくて、たとえば判例では、懸賞論文の送り仮名や改行を無断で直したりしても、侵害にあたるとされたくらいです。そう聞いてビックリする編集者もいるかもしれませんね。「行数の調整や表記の統一くらいはできないと困るよ!」と。たしかに、日本の著作者人格権は、国際的に見ても規定ぶりは厳しい方です。なにせ侵害の刑事罰は最高で懲役5年です。表記を直した程度で違法になり、(理論上は)刑事罰もあるというのはちょっと行き過ぎかなと筆者も思います。そのため、「同一性保持権をもう少しゆるやかに解釈しよう」とする意見も有力になってきています。
ただ、他方で編集者や記者の中には、「仮にも表現分野の基本的な法律なんだからもう少し著作権法は知っておこうよ」と思わせられる方がいるのも事実です。受け取った文章なんて素材程度に思っているのか、「こう直したい」とも「こう直しました」とも言わずに、「明日掲載です」なんて言って大幅に変更したものを送ってくる方もいます。
こういう方はたいてい原稿に「変更履歴」さえ付けていない(機能自体を知らないのか?)ので、どこをどう直されたか、こっちが探さなければならなくなります。さすがに「著者が変更に気づかずに掲載までいって、後で訴えられたらかなりまずいよ」と言いたくなる業界の方は意外と多いですね。
横道にそれました。それほど裁判所は同一性保持権を固く考えがちなので、音楽の分野でも無断で人の曲のメロディなどを変えて発表すると、理論的には侵害になります。よく著作権分野の弁護士や学生と飲み会をしていて出る冗談で、「○○さんのカラオケは人格権侵害。△△さんは無罪」と言うのがあります。
音痴だとメロディを勝手に改変しているから同一性保持権の侵害だけど、もっとひどいとそもそも別な曲になっちゃってるから侵害ではなくなる、という意味ですね。まあどっちも故意はない気がしますが、とにかくこういうのでドッと笑う、ザ・著作権オタクな飲み会です。
この関連で問題になるのが、既成曲のアレンジです。以前「著作権の世紀」という拙著で「カヴァーブーム」に関連して書いたテーマですが、もはやカヴァーはブームというよりあまりに日常として定着しました。筆者の行きつけのレンタル店には、「Rock」「Pops」コーナー等と並んで「カヴァー」CDの常設コーナーがある程です。ブームの火付け役だったおおたか静流・徳永英明などから、アニメタル・ソットボッセ・大橋トリオまで。実に当たり前に古今東西の有名曲や埋もれた傑作がカヴァーされています。
こうした既存曲をコンサートで歌ったりCDに収録するには、基本的に作詞家・作曲家本人の許可は不要です。なぜなら、ほとんどの国内外のプロの曲はJASRACなどの「集中管理団体」が管理していて、そこで自動的に演奏や録音の許可は取れるからです(第13回をチェック!)。ですから、原曲に忠実にレコーディングなどする分には問題は何もないし、現にそれでカヴァーもこんなに花盛りなのですね。
ただ、ここで問題はアレンジ(特にきつめのヤツ)をかける場合です。というか、カヴァーである以上アレンジは普通変えますね。原曲と寸分違わぬカヴァーの方が珍しくて、リズム・コード展開・楽器編成など大いに変える訳です。
で、これが裁判になることがあります。有名なのは、「PE’Z」というジャズバンドが合唱曲の代名詞「大地讃頌」をジャズアレンジでCDに収録したケースですね。これに対して、作曲家の佐藤眞さんが怒って販売を差し止めようとしたのです。もちろん、PE’Zやレーベルだった東芝EMIは、JASRAC許可はちゃんと取ろうとしていました。
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