二次創作 ~パロディ・リミックス・サンプリングの限界は?

福井健策(弁護士・日本大学芸術学部 客員教授)2014年10月03日 11時00分

 遂に19回目を迎え、あとは最終回を残すのみとなった「18歳からの著作権入門」。19回!レスリングの吉田ですら15連覇だというのに19回!自ら成し遂げた偉業に感慨無量の中、今回はシリーズ最大のヤマ場「二次創作」です。

文化のメインストリーム:二次創作

 第12回で、「総統閣下」シリーズなどの二次創作はグレー領域で花開く、というお話をしたことをご記憶でしょうか。どういう意味だったか、まずは著作権との関係からおさらいしましょう。

 既存の作品に手を加えて、新たな作品として楽しむカルチャーは古くからありますね。前回のカヴァーで登場した、楽曲の「アレンジ」がそうです。「パロディ」と言われる分野もそうで、これはずいぶん古くからあります。コミケ(コミックマーケット)のパロディ同人誌や、前述「総統閣下」などの「MAD」もパロディの一種ですし、身近なところでは「替え歌」なんてありますね。

 筆者の少年時代ですと「瀬戸ワンタン、日暮テンドン♪」(小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」)と並ぶ双璧で、軍艦マーチの替え歌「戦艦大和が沈むとき、イカリに●●●●はさまって♪」という替え歌が人気でした。もう「何が起きてそうなった?」と聞きたくなる壮大な下ネタですね。下ネタは歴史を通じてパロディの王道ですから、平成をずっと下っても、「アンパンマン♪そこはダメよ大事なところ♪」といった味わい深い名作を子供たちが歌い継いでいます。

 ジャンルというよりはむしろ表現手法として、既存の音楽や映像を再編集・再構成する「リミックス」も人気ですね。特に複数の作品を混ぜ合わせてしまうことを、「マッシュアップ」などと言います。布袋寅泰とRIP SLYMEが「キル・ビル」テーマ曲などの持ち曲を自らマッシュアップし、「かっけえ」と話題になった「BATTLE FUNKASTIC」などが例ですね。


布袋寅泰とRIP SLYMEによるセルフ・マッシュアップ『BATTLE FUNKASTIC』

 また、ヒップホップなど広い音楽分野ではずせないのが「サンプリング」です。狭義では既存の音源からごく短い一部を取り出してループするなど、自分の曲の中で素材的に使用するケースですね。現在米国では権利者に支払をしてサンプリングするケースが多いのですが、とにかく永年著作権の論争を巻き起こして来たジャンルで、ジェイ・Zやカニエ・ウェストなど、もう常連のように高額訴訟を起こされています。美術の分野で、サンプリングにやや近いのが、既存の印刷物や写真からの切り抜きを大量に集積して異なるイメージを生み出す、「コラージュ」ですね。こうした手法は映像や舞台芸術でもかなり一般的なものです。

 以上、ジャンルの名前と手法の名前が混在していますし、それぞれ多義的な言葉ですから、上の説明ではしっくり来ない方もいらっしゃるでしょう。筆者自身は、こうした既存の作品に基づいた新たな創作を広く「二次創作」と呼んでいます(これまた、もっと狭い意味で使う用法もあります)。

 こうした行為を広く二次創作と呼ぶなら、それは別段新しいカルチャーでもなく、古くは「和歌の本歌取り」「忠臣蔵」から「風神ライディーン図」「ハイスコアガール」まで、ギリシア悲劇・シェイクスピアからハイナーミュラー・ボカロオペラまで、古今東西あらゆるジャンルのメインストリームであり続けて来たのが二次創作の連鎖です。

 以前、あるクリエイターの方が「二次創作など邪道で一流の作家ならやらない」という趣旨の発言をされたことがありますが、そうであれば我々人類の文化じたいが邪道ということでしょう。


進化する風神雷神図。偉大なオリジナル(俵屋宗達)と最新系『風神ライディーン図』(山本太郎)

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