パシフィコ横浜で開催されたゲーム開発者向けイベント「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2014」(CEDEC 2014)。9月4日に行われた基調講演では「これからのゲームとゲームクリエイター」と題し、セガ取締役CCO(チーフクリエイティブオフィサー)の名越稔洋氏が、自身の代表作である「龍が如く」シリーズやスマートフォン向けゲームについて、またゲームクリエイターのあり方などを語った。
最初の話題は、龍が如くシリーズについて。約10年ほどにわたって展開されているこのシリーズは、おおむね1年に1本のペースでゲームがリリースされている。コンシューマゲームのシリーズとしてはかなりハイペースなのだが、複数ではなくひとつのチームが手がけ続けているのだという。
制作にあたっては、どのようなゲームにするかというプランニングとシナリオを考えひな形が決まった段階で、プロモーション計画とそれに合わせた露出するための素材制作の予定まで決めてしまうという。例えば映像にしてもオープニングから制作するのではなく、東京ゲームショウでユーザーの興味を引くためのものから制作するとしている。
このあたりは「言うのは簡単だか、素材をどういう順番で作るのは難しい」としながらも、初期段階から職種ごとの作業の割り振りやプロモーション計画を立てておくことで、2年かかるであろう仕事を1年程度でできるようになっているとした。名越氏は本音を言えば数年かけて1作を作りたい気持ちもあるとしつつ、映画「男はつらいよ」シリーズのように、1年に1回提供するゲームがあってもいいというスタンスのもとに制作を続けているという。
次の話題としたのはスマートフォンゲームについて。よく「スマートフォンのゲーム市場は伸びるのか」という質問を受けるそうだが、これについては、基本的にコンシューマゲームに取って代わるものという考えを持っていると語った。今後もスマートフォン市場が伸びていくことが容易に予測できることに加え、ゲームが洗練されていったりスマホでゲームを遊ぶことが浸透されていったりすることにより、スマホの絶対数が増えていけばコンシューマゲームで遊ぶ時間が必然的に減っていくものだという。ただ、これはライフスタイルの変化によるものであり、それを悲しいこととはとらえてないと語った。
名越氏は、ライフタイルは技術とサービスに影響されるもの。例えば音楽を聴くには、昔はライブやコンサートに行くか、家でレコードプレイヤーを用意するものだったが、時代が流れていく中ではメディアもCDに変わったり、ポータブルプレイヤーで外に持ち出せるようにもなった。今では家でスマホを使って聴くことも珍しくない。名越氏は、オーディオセットが家から無くなっていったように「一旦場所を失ったものが、その場所を取り戻すは不可能に近い」とし、コンシューマゲーム機が居場所を失いスマホ市場が何倍にも広がることが容易に想像できるとした。
もっともコンシューマゲームが全て無くなっていくかという見方は否定。コンシューマゲームは、敷居はあるものの大きな感動を提供することができて社会貢献できているという見解を示した。利便性が高く手軽に楽しめるスマートフォンゲームもそれはそれで人生を豊かにするためには必要なものとも語り、誰に向けて何のサービスを提供するのかが重要とした。
ゲームクリエイターのありかたや求められている人材の変化についても言及した。少し前にGREEやMobageに代表されるようなフィーチャーフォンのソーシャルゲームが台頭していた時代に、コンシューマゲーム出身のクリエイタースキルはモバイルデバイスのゲームに向かないと言われていた。しかし、モバイルデバイスの主流がスマホに移り性能の向上、ゲームジャンルの広がりもあってか、最近ではゲームクリエイターのスキルが求められているという。
もっとも、名越氏がセガに入社した約25年前のころには、クリエイターはゲームを作ることに限定したスキルを求められたが、ハードウェアの進化によって表現力が上がり、他社との差別化のために、新しいジャンルの人間やアーティスティックな能力を持つ人材が求められるようになった。つまり歴史が繰り返されるものだと、この25年の流れを振り返った。
若い世代のクリエイターや開発者についても触れた。特に最近感じているのは世代差による価値観の違い。生まれたときからネット環境があり、幼少期からブロードバンドで親しんだ世代が業界に入ってくる。その世代との価値観が違うことは仕方がないことだと語る。
さらにゲーム業界を希望する人の多様化も進んでいるという。例えばセガへ入社を希望する学生がほかに希望する企業名というと、以前であれば同業他社となるゲームメーカーの名前が挙がっていた。しかし最近では食品や金融といった、異業種とあわせて希望する人が普通にいるという。この状況を名越氏は、以前はゲーム作りがカジュアルなイメージかつ、面白そうな業界とまわりから見られるように変化したと分析。以前は閉鎖的なイメージがあったとして「見方を変えれば喜ばしいこと」とし、メーカーとしても、新しい時代の価値観にあわせた商品を提供するのであれば、ゲーム作りにこだわりを持つ人ばかりではなくさまざまな価値観を持つ人材が必要だとして、採用に対する考え方や基準も変えているという。
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