テーマは「ゲーム実況はビジネスの敵なのか」に移った。ゲーム実況動画については、見ているだけで満足してしまい、メーカーの利益に結びつかないのではという意見や、過去を振り返るとトラブルがあったなど否定的な意見も少なくはない。これについて伊豫田氏は「物語が最重要なゲーム以外は敵ではない」とコメント。これは、ゲームを取り巻くビジネス環境が変わっているからだと分析する。
以前のゲームビジネスは買い切りのパッケージ販売が中心だったが、昨今はダウンロードコンテンツの配信やアイテム課金、ネットゲームの月額課金やつど課金、さらにはCDやグッズなどゲームの外のメディアミックス展開も含めて、運用型のビジネスモデルに変わってきているとしている。運用型はゲーム発売後が重要で、継続して長期間ゲームコンテンツが運用されるのが特徴となっている。
運用型のゲームとなれば買い切り型とは異なり、露出場所が全て売り場になり、発売後の評判の拡散が重要であること。ゲームを遊んで消費するだけではなくゲームを中心としたコミュニケーションが大事となってくる。伊豫田氏はゲームセンターにおけるマシンだけではなく“場”も重要という例えで、単にゲームコンテンツを制作するだけではなく、コミュニティやプラットフォームの設計を含めたものが運用型のゲームであり、ゲーム実況はそのなかのパーツのひとつだと説明する。
運用型ゲームにおけるニコニコ生放送を活用したコミュニティ形成の事例として、「ドラゴンクエストX」「新生ファイナルファンタジーXIV」「パズル&ドラゴンズ」「ファンタシースターオンライン2」などで月に一回の定例生放送番組を実施。この生放送を通じて実感を持った情報伝達ができるほか、顔が見える運営によってテキストベースの告知によって起きていたユーザーとの行き違いによる、不用意な炎上を防ぐといった効果があるとしている。
最後のテーマは「ゲーム実況を使いこなすには」。これについては「実況のポリシーを明確にする」「音楽、声などの権利関係を制作時からクリアしておく」「実況を単なる露出と考えず、コミュニティ形成の核として積極的に用いる」「動画、生放送の特性の違いに気をつける」「シェア機能や実況SDKを用いる」と、これまでの事例や経験から回答した。実況を単なる露出と考えないというのは、例えば有名人の知名度に頼った露出というのは旧来のCMと考え方が変わらず、期待しているような効果は得られにくいと答えた。
2013年7月に発売されたディースリー・パブリッシャーのPS3/Xbox 360用ソフト「地球防衛軍4」では、実況動画におけるガイドラインを明示。当初ガイドラインの明示までは実況動画をしないように告知したところ、実況動画ができないものと誤解されたという。その段階ではほとんど実況の生放送はほとんどなかったが、明示した30分後には約100番組の生放送が始まった。
これについては、ゲームが好きな人たちであるがゆえ、メーカーやクリエイターがNGを出した場合、それに明確に従う傾向が強いという。逆にそれを無視した動画などはコメントでたたく自浄作用はあるという。そのため、ゲーム実況をうまく使いこなすにはポリシーを明確化する必要があると説明した。また複雑であったりわかりにくいとめんどくさいというイメージをもたれるため、ポリシーのわかりやすさも大事だと付け加えた。
地球防衛軍4はステージクリア型ゲームかつパッケージソフトということもあって、期間ごとに公開していい内容を定めた形でガイドラインを制定しネタバレに配慮。さらに投稿やプレイそのもののモチベーションを維持するために大会も開催した。それによって今でも生放送が行われたり動画投稿も継続して行われているという。
伊豫田氏は講演をまとめる形で、改めてゲーム実況の人気について、ゲームコンテンツが素晴らしいものであることが根底としてあり、そのゲームでいろいろな遊び方をして使いこなしているからとし、それはゲームの可能性を極限まで引き出す行為であると説明。それゆえに注目が集まっているからこそ人気があるとしている。
そして今、ゲーム実況が取り巻く環境は1980年半ばからカラオケがはやり始めた音楽業界に似ているという独自の見解を示した。カラオケが登場したことで、音楽が聴くものから自ら歌ったり参加するものになり、シングルにはカラオケ用のインスト曲が収録されるようになるといった変化が発生。さらに通信カラオケの誕生や発達によって、カラオケで歌いやすい、盛り上がりやすい曲が主流になっていったと説明。カラオケの登場により音楽コンテンツそのものが変わっていったのと同じように、ゲーム実況の誕生は、コンテンツの作り方そのものに影響を与える可能性はあるとした。そしてその流れが確実にあるのだとするならば、ゲーム実況が多いプラットフォームの立場として、クリエイターやメーカーとともに前向きに取り組んでいきたいと語った。
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