楽天がタイに進出したのは今から約5年前の2009年9月。当時、同国最大のECサイトを運営していたTARAD Dot Com(タラッド)を連結子会社し、タイ市場に参入した。現在、タイのカントリーヘッドを務める廣田大輔氏に、同国のEC市場について話を聞いた。
全小売事業者のうちECサイトを展開している事業者の割合は、一般に「EC化率」と呼ばれる。タラッドは1999年の創業当時、個人間で取引するいわゆるCtoCのマーケットプレイスを展開しており、そこに約16万店舗が出店していた。ファッションや家電製品をはじめとした約140万点の商品を揃え、200万人の会員を抱えていたという。
楽天による買収後、2010年から日本の「楽天市場」と同様のBtoBtoCモデルを取り入れ、現在までに追加で2000店舗が出店を果たしたが、タイのEC化率はまだ1%に満たない。日本が約5%というから、今後の市場拡大に期待がかかる。
EC市場拡大の鍵を握る要素として、廣田氏は「ネット環境」「決済」「物流」の3つを挙げる。それぞれについて、タイの現状を分析してもらった。
まず、「ネット環境」について。We Are Socialが作成した資料によると、人口約6700万人に対してインターネット普及率は26%。携帯電話普及台数は約8400万台で、その普及率は125%。一方、モバイルインターネットの普及率は24%に留まっている。
バンコクなど都市部におけるインターネットの接続スピードや安定性は最低限担保されている。郊外から都市部に通勤する人が多いため、以前は日中の時間帯のサイトアクセスがピークであったが、最近ではスマートフォンが普及したため、ユーザーのアクセス数が増加する時間帯が徐々に分散し始めているそうだ。
しかし、ECサイトに絞ってみるとその信頼性の浸透に課題があるようで、楽天では利用経験のある人を増やそうと、年に2回、大規模なセールの実施やそれに合わせたテレビCM、オンライン広告の投下などを行っているという。
2つ目の要素が「決済」。ITリテラシーと可処分所得が比較的高い、いわゆる中間層と呼ばれる人たちがメインユーザーの「TARAD.com」では、ユーザーの決済手段の半数以上がクレジットカード。続いてATMでの振込、オンラインバンキングなどが続く。ちなみに、代金引換は使える金額に制限がかけられているため、日本と比べてあまり利用されていないそうだ。
タイでは、クレジットカードをより普及させ、また利用頻度を高めてもらおうと、関係する事業者がさまざまな取り組みを行っており、楽天も国際カードブランドと連携してキャンペーンを実施するなどしている。
3つ目が「物流」。流通の最大手は国営のタイポストだが、客の手元に荷物が届くときには商品を梱包する箱がつぶれていたり、集荷サービスがないためわざわざ集荷センターまで荷物を持ち込まなければならなかったりと、日系の小売事業者からすればサービスのクオリティは不十分。しかし近年は、外資系を含む民間企業による配達事業への参入が増え、それによって市場全体が改善してきているという。
楽天もタイのEC市場を活性化させるべく取り組みを行っている。「タラッド・ユニバーシティー」という小売事業者向けのセミナーを月に数回実施しており、タラッドの創業者であるパーウット・ポンウィタヤパーヌ氏や、ECコンサルタントと呼ばれる同社の従業員らが登壇し、EC出店のメリットや商売を繁盛させるための成功の秘訣などを語る。セミナーの内容には、売れやすい商品の選定方法など、同社が日本で培ってきたノウハウが活かされているという。
この一方で、日本で培ってきたノウハウが活かされる、いわゆる“タイムマシン”的な経営手法は常に有効なわけではない。例えば、ソーシャルメディア大国とも言われるタイでは、モバイルアプリを通じた衝動買いを誘発させる仕掛けは日本以上に有効で、タイならではの仕掛けを用意している。
また、物流サービスのクオリティは不十分と先述したが、ユーザーの要求水準も日本とは異なるため、なにを優先課題と見定め、投資するべきかという経営判断において、現地の目線を持たなければならない。
タイ版の「楽天市場」の売上は毎年100数十%増の急速なペースで伸びているという。人気の商品カテゴリはファッション、ガジェット、健康器具、時計など。ペットやベビー用品などニッチなカテゴリの拡充については、今後検討していくとのことだ。
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