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電子書籍ビジネスの真相

「出版不況」は本当か?--書籍まわりのニュースは嘘が多すぎる - (page 2)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2014年09月02日 08時00分
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枕詞化した「出版不況」

 最初に取り上げたいのが「出版不況」です。ここ10~20年、出版界はずっと不況、ということになっていて、出版関係の記事には、まるで枕詞のように「不況」という言葉がついてまわります。たとえば、こんな記事。

 “古典から近現代文学まで網羅した「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」(全30巻)の刊行を11月から始めると、河出書房新社が発表した。 同じく池澤さんの編集で2007年から出した『世界文学全集』に続く試みだ。本の売れ行きが低迷、出版不況がますます悪化する中、文学への関心を広げる試みとなるだろうか。”

 読売さんばかりではありません。(筆者の勤務先である)朝日新聞もこういう記事を、ブックフェアの時に出しています。

 “出版不況が長引き、電子書籍もいま一つ人気が高まらない中、日本の出版界はどうすればいいのか――。東京都内で3~6日に開かれた国内最大の本の展示会「東京国際ブックフェア」で熱く語られたのは、こんな話題だった。同じ場所で開かれた「国際電子出版エキスポ」とあわせて報告する。”

 新聞・雑誌の過去記事データベースを「出版不況」で検索すると、2002年くらいから多数の記事がヒットします。つまり、この十数年、「出版」といえば「不況」、「不況」といえば「出版」、そういう記事が大量に書かれていたわけです。

 しかし「不況」というのは、何に比べて不況なんでしょうか? 何がどうなれば「不況」でなくなるのでしょうか? このあたりが、どうも不透明なのがもやもやします。何かをきちんと論じて、それに基づいて対策なり対応を考えるには、まずは「定義」がはっきりしないといけません。しかし、それが明確になっている例を、あまり見た記憶がないんですね。

 一口に「出版」といっても幅は広いですよね。コンテンツだけとっても、“文字もの”の本、文芸や評論の単行本や雑誌もあれば、ビジュアル主体の美術本、ファッション雑誌、子供向けの絵本もあります。

 日本が世界に誇る「コミック(マンガ)」だってもちろん本ですし、文字よりおまけの方が目立つ「週刊●●」といったパートワークも、本か雑誌かはともかく、「出版」物であることは間違いないと私は思います。

 そしてわれらが「電子書籍」。これだって「本」のはずです。なんといっても「書籍」ですし、海外では、紙だろうと電子だろうと、一つの統計として発表しています。

 次の図表は、国際出版社連合(International Publishers Association)による英国の出版統計を表したものです。

英国の出版統計 英国の出版統計
※クリックすると拡大画像が見られます

 ご覧のように、紙(physical)と電子(digital、e-book)をまとめていますね。

 さて、日本の統計がどうなっているかというと……。「出版不況」を論じるほとんどの記事が依拠しているのは、「出版年鑑」(出版ニュース社)か、「出版指標 年報」(出版科学研究所)のデータです。どちらも、紙の本だけの統計です。

 ここでは、より新しい出版年鑑の書籍統計を紹介します。

書籍実売総金額(出版年鑑による) 書籍実売総金額(出版年鑑による)
※クリックすると拡大画像が見られます

 (追記:2ページ目「書籍実売総金額」と3ページ目「雑誌実売総金額」のグラフの単位を「万円」から「億円」に修正しました)

 これを見ると確かに、1997年をピークに、売上がかなり下がっていることがわかりますね。97年の売上は1兆1006億円。それに対して2013年の売上は8430億円。約24%の減少で、97年を基準にとれば、確かに深刻な縮小です。

 しかし、先に触れたように、これには諸外国の統計と違って、電子書籍が入っていません。電子書籍の市場統計は、インプレス総合研究所と野村総合研究所が集計していますが、ほとんどのニュースは、インプレス総研のデータを紹介しています。ここでも、とりあえずこれを使いましょう。

電子書籍市場規模(インプレス総研による) 電子書籍市場規模(インプレス総研による)
※クリックすると拡大画像が見られます

 2015年以降の合計と、各カテゴリ(「新プラットフォーム」など)の合計にずれが生じていますが、これは同総研が昨年まで実施していた各カテゴリごとの予測をやめてしまったため。「ガラケー向け」と「PC向け」はグラフ上は「0」となっていますが、実際には「0」ではなく、いくばくかは残るものと考えていいでしょう。「新プラットフォーム」の予測値は昨年公開されたものを参考のため載せました。最新の予測値は、すべてのカテゴリーを含めた合計ですので、そこを見てください。

 さて、これまで「電子書籍元年」という言葉だけが踊り、実態としての市場はなかなか立ち上がらなかった電子書籍ですが(そのせいで、「電子書籍元年は何度くるんだ」といったジョークというか揶揄するような言葉が、業界の内外でよく聞かれました)、2013年の市場規模は、KindleやKoboのような「新プラットフォーム向け」と、ガラケー向け、PC向けを合わせて936億円に成長しました。前年比+207億円、28%の増加です。

 この数字は、紙書籍の売上が8430億円ですから、紙本に対して約11%の規模。決して「多い」とまでは言いませんが、かなりのところまで来た、という感じが個人的にはします。

 さて、ここからが本番です。諸外国と同じように、紙本と電子本を合わせて「本」と考え、集計してみると、どうなるでしょう? 「紙+電子」の書籍市場を、仮に「総合書籍市場」と名づけてみましょう。

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