iPhoneの7年を振り返る(1)--iPhoneが牽引するスマートフォンのトレンド

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 例年通りに行けば、おそらく2014年も9月9日に新型iPhoneの発表が待ち受けている。サイクルとして、今回はハードウェアのデザインも刷新されることが予測されており、既に画面の大型化と、サイズのバリエーションが選べるようになるという話題で持ちきりだ。

 発表当日になってみなければどんなiPhoneが登場するのかは分からないが、おそらく今回のiPhoneも、記録的なセールスをもって受け入れられるものになるだろう、という誰にでもできそうな予測を残しておこう。

 本稿から4回に分けて、これまでのiPhoneが歩んできた7年の歴史を振り返るコラムをお届けしたい。皆さんがiPhoneを手に入れたり、気になる存在になり始めたりした頃を振り返りながら、お楽しみいただければ幸いだ。

iPhoneの登場

 Appleが2007年にiPhoneを発売してから、携帯電話業界の様相は一変した。発売当初は「こんなもの売れない」と米国の既存のメーカーなどから鼻で笑われ、日本のケータイ業界からも、言い方は悪いが「ショボいスペック」と揶揄されていた。

 しかし現在はどうだろう。モバイル市場はAppleのiOSとGoogleのAndroidで大半がカバーされており、Androidが世界のスマートフォン市場の8割を超えるシェアを確保した。iPhone的なスマートフォンのパラダイムを作り出したAppleは、OSをオープンにしていないことから、Apple1社で戦わなければならない。

 PCの歴史を紐解くと、Appleが劣勢になる未来は読めていた。またOSを後からオープンにしても上手くいかないということを、Appleは過去にMacで経験している。では、果たしてiPhoneは現在、「うまくいっていない」のだろうか?

 世界シェアを見ると確かに完全な劣勢に見える。しかし、より高い付加価値を求める先進国市場で、iPhoneは依然40〜60%という高い販売シェアを誇る。またモバイル市場の利益の6割ほどをAppleが占めており、iPhoneの成功に対して懐疑的だったメーカーは、撤退や他社からの買収という結果を迎えて現在に至る。今振り返ると、AppleはMacでの失敗を繰り返さずにここまでやってきた、と言えるのだ。

初代iPhoneをニューヨークで使用。特に感動したのは地図機能だった
初代iPhoneをニューヨークで使用。特に感動したのは地図機能だった

毎日持つモノとして、死角なし

 デザインやキャリアとの交渉など、モバイル業界のそれまでの常識を崩したことは、今から考えればAppleがiPhoneを成功させた非常に大きな理由だった。デザインは、毎日必ず持ち歩くものであることをよく理解したものとなっている。

 みなさんと同様、筆者も「Appleは革新的な技術とデザインの企業」というイメージを持っている。

 現在のiPhone 5sを見ると、非常に精度の高いアルミニウムの削りだしで象られた非常に薄いスマートフォンに仕上がっている。プラスティックが主体だったスマートフォンを金属ボディにし、しかも時計メーカーもうかうかしていられないほどの仕上げを、四半期ごとに5000万台規模で販売できるように大量生産するAppleのやり方には、ただただ驚かされる。

 AppleはiPhoneに限らず、iPadやMacでも、アルミニウムをボディに活用した製品展開をしている。これに加えて、ガラス。表に出てくる素材は基本的にこの2つだ。どちらも価格としては高めの素材かもしれないが、膨大な生産量を背景にして、決してハイエンドスマートフォンとしてiPhoneが高い、ということはない。例えば2年契約を前提に、米国ではiPhone 5sを199ドルで手に入れられる。この価格は、より大きな5.1インチディスプレイと1600万画素カメラを備えるが、プラスティックのGALAXY S5と同じだ。

 スマートフォンに対する価値観は人によって異なる。テクノロジに詳しい人や、よりハイスペックのものを求める人にとってはAndroidは魅力的なプラットホームだ。しかしその他大勢にとって、スペックよりも使いやすさやデザイン・質感の高さ、Appleというブランドが、画面サイズやカメラの画素数を上回る魅力を発揮している。

 質感が価値になるよう、Appleの注意深さを感じられるもう1つのストーリーをご紹介しよう。

 ポリカーボネイトのiPhone 5cがもし手元にあったら、ぜひ長い蛍光灯を反射させてみてほしい。iPhoneの背面に映る光が一直線になっているだろう。「当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれないが、デザインにこだわって作られているはずの日本のスマートフォンで同じことをやってみると、蛍光灯の線はゆがむものが多い。電池フタになっているといった構造上の問題はあるが、Appleのモノとしてのこだわりは、プラスティックであっても死角はない。

iPhone 4(左)とiPhone 3GS。ガラスによるソリッドな平面のデザインへと変更されたが、プラスティック素材の質感も非常に高かった
iPhone 4(左)とiPhone 3GS。ガラスによるソリッドな平面のデザインへと変更されたが、プラスティック素材の質感も非常に高かった
iPhone 5s(左)とiPhone 5。アルミ切削によって作られたボディは非常に精巧なものだった
iPhone 5s(左)とiPhone 5。アルミ切削によって作られたボディは非常に精巧なものだった

常に、決して最新テクノロジではなかった

 前述で、質感を価値に変える努力について触れた。しかしテクノロジは感情を動かすデザインだけでは成立しない。スペックによる比較という側面で、Appleは64ビットプロセッサであるA7などの一部を除いてほとんど全てについて、他社のスマートフォンに先行を許している。

 ディスプレイサイズは長らく2012年まで3.5インチを貫き、ようやくiPhone 5で拡大したものの2013年に発売したモデルまで4インチにとどまっていた。Androidスマートフォンでは4.5インチ程度が標準的で、ハイエンドでは5インチを越えるモデルがほとんどだ。

 また2007年当時、すでに日本をはじめとした国では第三世代通信に対応する端末が充実している中、米国でしか発売されなかった初代iPhoneは第二世代通信のみの対応にとどまった。米国における4G LTEへの対応もAndroidスマートフォンが先行し、決してiPhoneが最新というわけではなかった。

 もちろん日本も含めて、iPhone 5の発売に合わせて4G LTE通信網を整備・サービス開始を行うなど、きっかけになっていたことは間違いない。しかし米国や日本では、iPhone以外のAndroidスマートフォンがLTEに先に対応してきた。

 またiPhone 5sに搭載された指紋認証も日本メーカーがケータイの時代から実現していたことだったし、日本では当たり前のおサイフケータイ・NFCもiPhoneでは現時点でまだ対応していない。Appleは必ずしも、多くの人が抱く「最新」「先進」というイメージ通りではないのだ。

「米国の生活者」にあわせた進化

 iPhoneは世界のスマートフォンの中で、イノベーターやアーリーアダプターではなく、どちらかというとアーリーマジョリティーというイメージすらある。しかし米国で暮らしていると、Appleが絶妙なタイミングで、最適なテクノロジをiPhoneに導入していることが分かる。

 通信環境も、端末が対応しただけでなく、一般の人々がある程度使える状況を待って導入している。またNFCについても、全米のチェーン店などで利用できる店舗が増えるのを待たなければ、iPhoneに導入されても使い道がなく、魅力にはならない。

 先進的なイメージの裏で、Appleは本当に生活に変化を与えるテクノロジをじっくりと選んでiPhoneに取り入れていることが分かる。英語に「reliable」という形容詞がある。信頼できる、頼りになる、期待通りの、という意味だ。まさにiPhoneは、reliableなテクノロジを追求した製品であり続けてきたのだ。

定着するトレンドを牽引する

 しかし面白いことに、歩みをじっくりと進めるiPhoneは、デザインやテクノロジ、あるいはスマートフォンらしさの面で、他のメーカーの牽引役を担い続けている。

 タッチスクリーンと1つのボタンという端末のデザインは、SamsungがGALAXY Sで採用(コピー?)し、裁判となった。メタルボディはiPhone以降、HTCやSamsungが追随している。指紋センサについても、富士通が搭載した頃は特に反応がなかったが、AppleがTouch IDとして搭載してから、海外メーカーの採用が進んでいる。

 Reliableというキーワードにかなうよう周辺環境を整備してから導入されるiPhoneのテクノロジだからこそトレンド化し、他社がこぞって採用を始める流れを見いだすことができる。

 Appleに対するファストフォロワーでいくのか、Appleを認めさせるような新しい使い方を作れるのか。日本を含めたApple以外のメーカーがビジネス面、技術面でスマートフォン市場を牽引するヒントがここにある。

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