その次に基本プレイ無料を導入したCOJは、アーケードゲームでは主流のアクション性を持つものではなく、ターン制の思考型デジタルトレーディングカードゲーム。リアルな紙のカードは排出せず、ターミナルからデジタルカードを購入。そのデジタルカードによってデッキを組み、サテライトで対戦を楽しむ形となっている。
COJは2013年7月から稼働を開始。当初はプレイする際に硬貨を投入する従来型のゲームとなっていたが、2014年4月より稼働したVer.1.2より基本プレイ無料に移行。スタミナに該当する「EN」を一定量消費する形でプレイ可能。時間経過や硬貨投入によってENは回復する。プレイするごとや、ゲーム内で獲得できる「RP」によってもカードは入手できる。その一方でアップデートにより追加された最新バージョンのカードは、ターミナルでのカード購入でしか入手出来ないように明確に差別化されている。
本作のターゲットとして、子どもの頃に「遊戯王」などのトレーディングカードゲーム(TCG)に親しんでいた経験を持つユーザーはもとより、アクション性の強いゲームについて行けなくなったユーザーや、知的な遊び方を好むユーザーなどをターゲットとしていた。このあたりは前述した、ゲームセンターに呼び戻したい30~40代前後の層ともかぶっている。
稼働当初こそ一定の稼働率はあったものの、その後はさまざまな理由から軌道に乗ったとは言いがたい状況が続いたという。その打開策のひとつとして基本プレイ無料を導入したと、西山氏は背景を語った。その理由としては以下のものがあるという。まず従来のアナログTCGは最初に必要なカードを購入してしまえば、相手こそ必要ではあるが対戦自体は無料で遊べる。カードショップではスペース使用の対価としてカードを購入する場合もあるが、基本的には無料で遊べてしまうところが多い。対して当初のCOJは、ゲームセンターのデジタルゲームとはいえ、カードとプレイの両方で課金する“二重取り”に見えてしまい、ユーザーに悪印象を与えてしまうという反省点があった。
さらにターン制のTCGでは、デッキからカードを引く運の要素があり、どうしても勝ち目がない展開も生じる。アクションゲームであれば一発逆転を狙う戦い方もできるが、戦略性の高いゲームはなかなかそうもいかず、逆転不可能のいわゆる“捨てゲー”がどうしても発生する状況が出てしまう。こうなった時に、プレイで課金をしているユーザーのストレスが大きくなるとも指摘した。
これらの問題点の解決と、ゲームセンターへの顧客呼び戻しや新規取り込みのニーズが結びつき、基本プレイ無料の導入に踏み切ったという。そして導入することによって“ユーザーのストレス”が緩和され、カードゲームの面白みがスムーズに伝わる形になったと語る。
「TCGは、はやりのデッキに対抗するメタデッキを作ったり、個性をアピールできるエッジの効いたデッキなどが出てくることによって、バトルにおける戦略的思考のバリエーションが増え、面白さが味わえると思います。ですが、プレイごとに硬貨投入をする形だと、勝つことが心理的に優先されてしまい、新しいデッキを試すといった行為が難しくなります。対して、基本プレイが無料になれば、いろいろなデッキを試す事が促進され、実際に試すことによって新たな発見や刺激に気づき、TCGの更なる面白さを感じるという状況を生み出すことができます。ぷよクエACもそうですけど、アーケードゲームにおいてはミスしちゃいけない、勝たなくちゃいけないという意識が強くあると思いますが、そこが緩和されたことは大きいと捉えています」(西山氏)
結果として、現在では目に見えて客付きがよくなり、繁華街を中心に夜間や休日となればサテライトが埋まっている光景も少なくないという。もっともCOJはぷよクエACとは違い、途中でビジネスモデルを変更することを懸念する意見もあったが、ぷよクエACの成功事例も後押しとなり、基本プレイ無料に踏み切れたという。
「カードを買ってもらいながらプレイは無料の幅を用意するという、ハイブリット的な基本プレイ無料のいい形ができたのかなと思っています。今思えば、最初から基本プレイ無料を導入すべきだったと思うぐらいです。ですが開発段階ではそこまでの考えに至りませんでしたし、ぷよクエACの成功事例があった後だったからこそ踏み切れたかなと思います。COJのようなジャンルは必ず受け入れられるし、ターゲットとしている層に響く確信を持っていましたが、当初の落とし込みはうまくいかなかったと思っています。懸念する声もありましたけど、ユーザーにプレイしていただけていない状態のままでゲームが埋もれるぐらいなら、やりきった方がいい。あきらめずに事業としてプロジェクトを推進して、開発スタッフがやりきれる環境を作るのが僕の仕事だと思っています」(西山氏)
ターン制のゲームとあって着席時間はやや長めであるため、その時間が短くなるような施策は取り入れつつ、硬貨を投入したユーザーにはENの回復だけではなく、新バージョンも含めたゲーム内カードやポイントをボーナスとして付与。また平日午前から昼間までは排出されるカードのレアリティを優遇するなど、ピーク時間帯分散の対策や硬貨投入のプレイヤーを優遇する差別化などは行っているという。
ここまでの話を聞くと、基本プレイ無料はメリットが多いように聞こえる。では、今後についても強力に推進していく方針なのかと尋ねると、率直な意見としては社内外含めていまだ賛否両論があるという。西山氏自身の評価としても、COJについては「やってよかったし、やるべきだった」としたものの、ぷよクエACについては「コアだけでなくライトも含めて、たくさんのユーザーを集めた次の展開が大事」とのこと。これらを踏まえて、西山氏の部署内ではまだいろいろと試す手法はあるとして、開発の検討を進めているという。
「以前と違って、現状ではアーケードゲームをリリースする会社は数社程度と言って良い状況。そうなると市場に出回るタイトル数そのものも少なくなります。一方でスマートフォン向けのゲームはたくさんリリースされて、多くのユーザーを抱えている。それはひとつのトレンドですし、そこで評価されているゲーム性や施策があるならば、いい意味で参考にしてアーケードゲームでもチャレンジしていくべきと考えています。アーケードゲームとソーシャルゲームの両方を開発しているメリットを活かして、もっとさまざまな試行錯誤をしてみる価値はあると考えています」(西山氏)
ちなみに今後のアーケードゲームについて、どのようなものを制作していくかについて聞いたところ、面白いゲームを作るということが大前提としつつ、コミュニティが形成され、人々が集まる場としての存在意義をゲームセンターが取り戻すこと。そのためのゲーム作りを行いたいと力強く答えた。
「ゲームセンターに来たらゲーム好きの友だちがどんどん作れるというぐらい、魅力のある場所にしていきたいし、そうなれるゲームを作りたいです。コミュニティができれば継続性も生まれるし、ゲームセンターはそういう場所であるはずです。そのためには、ゲームセンターの外でもスマートフォンなどでデッキの調整や編成など、そのゲームについて考えられるような時間を増やしてロイヤリティを上げる施策も必要ですし、ネットワークを通じた友だち作りのサポートができるような施策も考えなくてはいけません。また、本来ゲームセンターではプレイヤーが主人公であり、ヒーローが生まれる環境であるはずです。そういうプレイヤーが大会などで想像を超えるプレイをしてくれるのは、他のプレイヤーのみならず開発者もとても興奮するし、嬉しくて仕方がない。そういったヒーローがいることによって、ゲームセンターに更に人を呼び込む効果もあるでしょう。ヒーローが作れて、普段ゲームセンターに関心の無い人々にも広く興味を持ってもらえる状況を作ることができれば、日本らしい素敵なゲーム市場を生み出すことができると信じています」(西山氏)
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