「肉眼では見えない被写体を撮る」--開発者に聞いたソニー「α7S」の技術革新

 ソニーは6月20日、35mmフルサイズイメージセンサーを搭載したミラーレス一眼カメラ「α7」シリーズの新モデルとして「α7S」を発売した。拡張ISO感度40万9600という超高感度撮影や、全画素情報読み出しによるフルHD、および4Kの高解像度動画の出力を実現しているのが特長だ。その技術的な特徴や開発背景について、α7Sの企画・開発を担当したソニー デジタルイメージング事業本部 設計企画室の須藤貴裕氏と、プラットフォーム設計部の花田祐治氏に話を聞いた。

左から、ソニー デジタルイメージング事業本部 設計企画室の須藤貴裕氏と、プラットフォーム設計部の花田祐治氏 左から、ソニー デジタルイメージング事業本部 設計企画室の須藤貴裕氏と、プラットフォーム設計部の花田祐治氏

「ISO感度40万9600」はなぜ実現したのか?

--α7Sの超高感度撮影はどのように実現したのか、教えてください。

須藤:一般的にデジタルカメラの画質はイメージセンサーの大きさがすべてで、センサーの面積が大きいほどレンズを通じて多くの光を受け止められます。α7シリーズは、小さいボディに35mmフルサイズの大きなイメージセンサーを搭載しているのが最大のポイントです。そして、高感度撮影を実現するためには、このイメージセンサーを構成する画素の特性と、イメージセンサーを補助する画像処理エンジン「BIONZ X」の組み合わせが重要です。ただフルサイズセンサーであれば暗所でもきれいな写真が残せるというわけではなく、イメージセンサーを構成する画素のひとつひとつが、光をいかに多く受け止められるかという点と、それを画像処理エンジンがきれいに処理するという点を兼ね備えなければならないのです。

 センサーの特性を解像度の高さに振っていくと、センサーを構成する画素ひとつあたりのサイズは小さくなっていき、受け止められる光の量は少なくなってしまいます。一方で光を多く取り込むために、画素を大きくして総画素数を少なくすると解像度が足りなくなります。この両者のバランスをとって、プリントサイズにも対応できる解像度とクリアな高感度撮影、高解像な4K動画撮影を両立できるのがα7Sのセンサーなのです。

花田:α7Sのイメージセンサーは、この製品の高感度撮影や4K動画撮影を実現するため、専用で開発しました。目指す商品の特性に合わせたイメージセンサー、画像処理エンジンといったカメラシステムを構成する要素をトータルで開発できるソニーの強みが活かされた製品だと言えます。

α7シリーズ3モデル。左から、α7、α7R、α7S。 α7シリーズ3モデル。左から、α7、α7R、α7S。

--高感度撮影で気になるのが、写真に残ってしまうノイズです。α7Sにおけるノイズ処理の特徴を教えてください。

花田:ノイズの量には2種類の要素があります。ひとつは、イメージセンサーの画素サイズに依存するもの。原理的に1画素のサイズが大きいほど、ノイズは小さくなります。もうひとつは、画素そのものから自然に発生するノイズで、特に高感度撮影時の画質に影響するものです。

 α7Sでは、フルサイズで1220万画素ということで、1画素あたりのサイズがとても大きい。従来のカメラでユーザーが気にするようなノイズは、この画素のサイズによって解消してしまっています。そして、自然に生じるノイズについてはそれを軽減するためのテクノロジーが進化しているので、α7Sでは高感度撮影においてもノイズを気にする必要はほとんどないのではないかと思います。α7S用に開発されたイメージセンサーは、ノイズが発生し難い画素設計になっているのです。

 そのため、一般的なデジタルカメラは画像処理エンジンで信号処理を用いてノイズを低減するというステップがあるのですが、α7Sにおいては、イメージセンサーの持つ高いポテンシャルを素直に引き出すために、ある意味では「いかに手を加え過ぎないか」を重要視して画質のチューニングをしています。

--拡張ISO感度で撮影するような暗闇の環境だと、オートフォーカスは機能するのでしょうか。

須藤:暗所撮影の場合は、センサーのノイズが増えてピントが合いにくくなるのが一般的ですが、こうした課題を解決できているのもα7Sのイメージセンサーがもたらした大きな恩恵のひとつだと思います。撮影者の肉眼では見えないような暗闇でも、イメージセンサーは被写体をはっきりと捉えていて、正確にピントを合わせることができます。ノイズを生まない高感度撮影を可能にしたイメージセンサーが、ピント合わせの精度向上にも寄与しているのです。

花田:α7Sのオートフォーカスの低輝度限界は「-4EV」というスペックですが、この数字の意味するところは、肉眼では何も見えないくらいの暗所でも撮影できるということです。α7Sの高感度の恩恵を活かせば、肉眼で見えないものがモニターや電子ビューファインダーに映って構図が決められて、オートフォーカスでのピント合わせもできる。光学ファインダーではできない、電子ビューファインダーならではの恩恵であり、撮影の幅は大きく広がるのではないかと思います。一般的に暗所でのオートフォーカスで用いられる補助光やフラッシュを使う必要もなく、サイレントシャッターを使えばシャッター音もしないので、暗闇での野生動物の撮影など今まではできなかったような撮影が可能になると思います。


ソニーのYouTube公式チャンネルで公開された暗所におけるISO感度の比較動画

ソニーがαシリーズで目指す“画作り”

--α7シリーズに搭載されている画像処理エンジン「BIONZ X」は、従来機に比べて3倍の処理能力を持つと伺っています。具体的にどのような技術特長を持っているのでしょうか。

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