「肉眼では見えない被写体を撮る」--開発者に聞いたソニー「α7S」の技術革新 - (page 2)

須藤:BIONZ Xの特性は、センサーが受け止めた映像のクオリティを崩さずに処理する方向に振っています。既に発売している約2430万画素の「α7」と、約3640万画素の「α7R」では、高解像度のセンサーが受け止めた解像感を崩さずに自然に処理するためのテクノロジーがふんだんに盛り込まれており、その特性をα7Sの高感度撮影にも活かしています。BIONZ Xの処理能力が3倍になったことで、今までできなかったことを可能にしたことが大きいのではないでしょうか。

 ノイズ軽減の特性でも話した通り、BIONZ Xをノイズ処理に依存する方向へ振ってしまうと、リアリティのある写真は絶対にできません。「素を活かす」というキーワードがとても重要で、イメージセンサーからシステム全体を通じて高感度に注力した成果ではないかと思います。

α7シリーズに搭載されている画像処理エンジン「BIONZ X」 α7シリーズに搭載されている画像処理エンジン「BIONZ X」

花田:αシリーズを通じて、ソニーが目指している画質設計(画像の仕上がり処理)のポリシーは「臨場感」です。写真という2次元の表現手段の中にあって、目の前に立体的な物体があるかのような奥行きのある写真をどうすればαシリーズのカメラで実現できるかを追求しているのです。いかにリアリティを表現するか、いかにして臨場感のある質感を実現するかという課題の答えが、BIONZ Xに搭載されている「ディティール・リプロダクション」「回折低減処理」「エリア分割ノイズリダクション」といったさまざまな画像処理技術です。

従来のデジタル一眼動画を凌駕する高解像動画撮影が可能に

--製品特長には、「全画素情報読み出しによるフルHDおよび4Kの高解像度動画の出力」が可能とあります。これは、いったいどういうことなのでしょうか。

花田:まずは静止画撮影と動画撮影の違いを整理しましょう。静止画撮影はシャッターを切ってから画像処理して記録するまでの間に、カメラに次の撮影のための動作をさせながら処理を進められます。一方で、動画は撮影したデータをほぼリアルタイムに処理してメディアに記録していく必要があり、高い画像処理性能と処理速度を同時に実現することが求められます。

 一般的なデジタル一眼カメラの動画撮影機能は、この処理のリアルタイム性を担保するために、あらかじめイメージセンサーが捉えたデータをある程度間引きしたり、データ量を落としたりしているのです。その結果、本来の高画質で動画を記録することができないといった状態が生じます。フルHD画質だと思って撮影してみたら何だか動画がギザギザしている、といった経験があるのではないでしょうか。

 私たちは、α7Sでこうした課題を克服してクリアなフルHD動画や4K動画の撮影を実現したいと考え、イメージセンサーが捉えたデータを一切間引きすることなくそのまま動画に出力するという技術を搭載しました。動画もイメージセンサーが捉えた情報をそのまま記録することができます。これが「全画素情報読み出しによる動画出力」というものです。画像処理エンジンには膨大な負荷が掛かりますが、これもBIONZ Xの処理能力あってこそ実現できたことだと考えています。

他社には実現できない製品で差別化を目指す

--α7Sはどういったターゲットに対して、どのような価値を提供したいと考えたのですか。

須藤:α7シリーズを通じて“フルサイズのカメラ=大きい”というイメージを払しょくしたいと考えていました。小型軽量ボディで機動力がありながら、画質面で圧倒的に有利なフルサイズセンサーを提供するというのが、他社の製品では今までできなかったα7シリーズならではの価値なのです。小型にしたことで、今まで入り込めないような場所でも撮影が可能になり、また被写体に対してカメラの存在感を強く感じさせないので、人物や動物の自然な表情が撮れるようになるのではないでしょうか。

 その中でもα7Sは、“見えない場所で見ながら撮る”という矛盾を実現することができました。暗所撮影の幅が大きく広がることで、今まではできなかったような静止画や動画の撮影が可能になるというのが大きい価値ではないでしょうか。

花田:普通は「早く動く被写体を止めたい」と思うとシャッター速度を上げる必要があり、そのためには、特に暗所ではISO感度を上げなければならない。ISO感度が上がるとノイズが目立ってきてしまうので、これを嫌ってつい撮影をためらってしまうといった経験をお持ちの方もおられると思います。α7Sではその様なシーンにおいてもノイズを気にすることなく撮影できますので、撮影の幅が大きく広がるのではないかと思います
画像はシャッター速度1/3200、F5.6、ISO12800で撮影したサンプルをリサイズしたもの。光が足りない環境でも、しっかりと動きを止めて撮影することができる。 画像はシャッター速度1/3200、F5.6、ISO12800で撮影したサンプルをリサイズしたもの。光が足りない環境でも、しっかりと動きを止めて撮影することができる。

--最後に、α7Sで生まれた技術やアイデアを今後ソニーのイメージング事業で他の製品にどのようにフィードバックしていきますか。抱負を聞かせてください。

須藤:他のカメラメーカーにはない私たちの強みは、デバイス、イメージセンサー、画像処理エンジンといったカメラシステムの中核をワンチームで作ることができる技術力と、それをコンパクトにすることができるノウハウだと思います。それらの強みを活かして、今後も他社製品では実現できない価値を提供していきたいと考えています。

 また、たとえばαシリーズの画像処理技術を他の製品に活かしたり、Xperiaの小型化技術を他の製品に活かしたりなど、すべてのソニー製品の技術特長が相互補完の関係にあるのが、ソニー内部のフィードバックでの特長で、その中でαシリーズはソニーのカメラテクノロジーをリードしていく存在だと思います。活用する技術はそれぞれのカテゴリーで適材適所になりますが、α7シリーズで生まれた技術特長は今後さまざまな製品で活かされていくでしょう。

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