成功する起業家の共通点「パッションと忍耐、メンター」--Dellの客員起業家に聞く

 ベンチャー企業がインターネット経済にとって重要な役割を果たす中、“起業家支援”をアピールする企業は多い。だがそれらの多くは、学生時代に立ち上げた創業者がいまだにCEOをつとめるDellの起業家支援に及ばないのではないだろうか。Dellは数多くの起業家支援プログラムを展開しているが、それらを統括し、支えているのがEntrepreneur in Residence(EIR、客員起業家)のIngrid Vanderveldt氏だ。

 Dellが6月2日から2日間、本社がある米テキサス州オースティンで開催した“女性起業家”向け年次イベント「Dell Women’s Entrepreneur Network(DWEN)」。ホスト役を務めたVebderveldt氏は、チャーミングな目、大きな口で豪快にわらう笑顔がとても印象的で、そこにいるだけで明るく、ポジティブなムードが漂っていた。「DellのEIRとしての役割は終わったと感じており、後任を決定して次に進む」と同氏。起業家支援がDellにとって何を意味するのかなどを聞いた。


女性ばかりの華やかなDWEN会場でも人一倍目立っていたVanderveldt氏。カメラを向けると「昨夜はパーティーで遅かったから、この顔で大丈夫かな」と笑った。

――EIRは客員起業家制度といわれますが、比較的新しい役職です。DellのEIRとしての業務を教えてください。

Vanderveldt氏:2011年にこのポストにつきました。Dellとしては初のEIRとなります。EIRはコマンドや戦略に関係する“秘密兵器”的な存在と定義されることもありますが、Dellにとって新しいポストだったこともあり、CEOのMichael Dellと何ができるのかを話し、役割を再定義しました。

 私はDellのEIRとして、起業家コミュニティとの橋渡し役を務めています。外部にあるアイデアや声をDell内部の幹部に伝える――この役割を発展させて、Dellが世界レベルで展開する起業家向けイニシアティブも統括しています。このDWENは格好の場所で、参加者全員と対話し、パーティをし(笑)、一緒に時間を過ごしてディスカッションや意見交換をしています。女性起業家はとてもエキサイティングな人たちが多く、私も刺激を受けるイベントです。

――なぜEIRが必要なのでしょう?

Vanderveldt氏:世界経済が今後も成長を続ける原動力となるのは、大企業ではなく、起業家や規模の小さな企業であるとDellは根本から信じています。Dell自身もベンチャー企業としてスタートした会社で、今後も起業家コミュニティに関わりたい、一部でありたいと願っています。世界の起業家と話し、どうやって成功を支援できるのかを考えています。

 私個人としては、「Empowering a Billion Women by 2020(2020年までに10億人の女性をエンパワーする)」をライフワークとしています。Dellは起業家の中でも女性にフォーカスしており、一緒に成長しようというメッセージを明確に打ち出しています。これが、私がDellのEIRのポストについた背景にあります。

――起業家支援とはいっても慈善活動ではありません。起業家支援活動はDellの収益にどのような効果を生んでいるのでしょう?

Vanderveldt氏:2013年に非公開企業となりました。具体的な数字は公開できませんが、2011年に(EIRとして)スタートしたときから、起業家向けにエンドツーエンドでソリューションを提供することを目標にしてきました。この目標にはすでに到達したと思っています。財務的な目標、市場へのインパクトについても目標は達成済みです。市場のインパクトとしては、たとえばソーシャルメディアを通じて600万人にリーチしています。

――Dellはベンチャー企業としてスタートし、2014年に創業30周年を迎えました。成長すると起業家精神を維持するのが難しいといわれます。Dellの取り組みは?

Vanderveldt氏:30年の間で業界もDellも変わったと思います。これはどの企業でも同じです。Dellが他と一線を画す点は、Michael Dellがまだ現職という点です。起業家精神はDellのDNAであり、Michaelはこの起業家精神を維持し、拡大していくことを大切にしています。

 企業はさまざまなフェイズを経て成長しますが、出発点がベンチャーであったとしても、とにかく成長にフォーカスする時期があります。起業家精神を維持するには起業家DNAがあるかどうか、これを企業の中で大切にしていくことが重要だと考えます。

――社員が増えると所帯が大きくなり、大企業だと思って就職する人もいるかもしれません。

Vanderveldt氏:確かに創業期のDellを知らない社員の方が多い、これは事実です。われわれはさまざまなプログラムやイニシアティブを展開していますが、その一つに世界中の起業家が集まる場を目指すプログラム「Dell Center for Entrepreneurs」があります。専門チームが、社外の起業家と一緒に社内の“intrepreneurs”としてアイデアをどう育てていくかを支援します。社内でDNAを育むこと、外部の起業家から良い影響を受けることをブレンドしたプログラムとなっています。

――EIRとして、たくさんの起業家と接していると思います。長年ベンチャーシーンを見てきて、トレンドや変化を感じますか?

Vanderveldt氏:資本へのアクセスが簡単になっていると思います。クラウドソーシングという新しい手段も根付きつつあり、モバイルマネーも発展しています。どうやって出資を受けるかは起業家の課題の一つであり、まだまだ解決されたとはいえませんが、障害が低くなり、新しい選択肢が生まれています。

 Dellとしては、資本へのアクセスをはじめ、起業した企業が成長するために正しい技術へのアクセス提供も行っていきます。平行して、起業がさらに容易になるように、政府に規制緩和も呼びかけていきます。

――DWENは女性起業家向けのイベントですが、男性と女性で違いはありますか?

Vanderveldt氏:男性と女性の違いはいろいろあるかもしれませんが、結局は(性別ではなく)個人の質になると思います。ただ、女性が起業するのに最大の障害となっているのは「自信がない」ためです。これは、ロールモデルがある男性との違いです。女性にもロールモデルがあれば、この問題の解決に大きく近づくと思います。

 われわれは起業に限らず、ロールモデルを見て成長します。成功している起業家のストーリーを見聞きし、その過程で失敗もあったとわかれば、身近に感じる。やってみよう、できそうだ、と感じる女性は多いでしょう。そういった思いがあり、DWENを開催しています。DWENという物理的な場所に女性達が集まり、ネットワーキングして体験談を共有できるからです。

――成功する起業家の共通点は?

Vanderveldt氏:パッションがあること――よく言われていることですが、これに尽きると思います。自分がやっていることにパッションがあること、根気強く取り組むこと。「できない」「無理」と言うのは簡単です。起業家が困難を乗り越えていくにはパッションと忍耐が必要です。

 これにもう一つ、メンターを加えたいと思います。私自身、“生涯起業家”でこれまでも起業家と関わってきましたが、メンターに恵まれました。なので、私はよく起業家に対し「自分がやりたいと思っている分野で成功している人をメンターに持ちなさい」と言っています。成功するかしないかは、メンターの有無に懸かっているといっても過言ではないと思います。

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