「ワイヤレスジャパン2014」の初日となる5月28日、インターネットイニシアティブ(IIJ)の常務執行役員ネットワーク本部長である島上純一氏が基調講演を行った。近頃注目が高まっている、MVNO(仮想移動体通信事業者)に関するIIJの取り組みについて説明がなされた。
IIJは2008年より、NTTドコモの回線を用いたMVNOサービスを実施するなど、MVNOには古くより力を入れている企業の1つだ。そこで島上氏はまず、MVNOを取り巻く現在の状況について説明した。
MNO(移動体通信事業者)からネットワークを借りてサービスを提供するMVNOは、大規模な設備投資が不要でモバイルサービスを提供でき、MNOには実現が難しい多様なサービスを提供できるのがメリットだ。「そもそも携帯電話事業は、電波の免許獲得と莫大な投資が必要なことからハードルが高く、寡占的な事業になりやすい」と島上氏は話す。現在は、政府も競争政策上の重要な存在としてMVNOを位置付けるなど、MVNOが競争活性化に重要な役割を果たす存在と考えているようだ。
一方で、MVNOのビジネスは簡単ではないようだ。その大きな要因の1つは、MNOと比べ認知度や販売チャネルに大きな差があること。2つ目は、日本では端末とネットワークのセット販売が基本になっており、SIMフリー端末が少ないなど端末の確保が難しいこと。そして3つ目は、自社で全て制御するMNOのネットワークを、第三者に解放して売るという仕組みが完全には整っておらず、法整備やオペレーションに課題があることだという。
さらに島上氏は、MVNOの市場がどれくらいの規模かというのを、データで示して説明。日本の回線契約数(約1.5億)のうち、MVNOは全体の9%となる1375万だが、そのうちMNOがグループ企業の回線をMVNOとして利用しているものを差し引くと570万にまで下がるという。さらに、カーナビや遠隔操作するセキュリティシステムに用いられている「モジュール型」、MNOが販売する商品をほぼそのままの形で量販店やISPなどから販売する「単純再販型」を除いた、純粋なSIMカード型によるMVNOの回線数は138万と、実は市場全体の1%程度に過ぎないのだそうだ。
だが一方で、フィーチャーフォンやWi-Fiルータが主流の時代から、スマートフォンへとMVNOの利用が広まったことで急速にニーズが高まっており、2020年には5500万回線を占め、成長率が400%に達するなど急速に伸びるとの予測もあるという。プリペイドや海外在住者向け、広告モデルを採用したものなど、海外で実現している多彩なビジネスモデルのMVNOが登場するのではないかと、島上氏は話している。
IIJではMVNOによって、法人、個人、そしてMVNOを支援するMVNEの市場開拓を進めている。法人向けの取り組みとしては、特に現在フィーチャーフォンやPCから、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスへと利用するデバイス自体が変化していることから、ワークスタイルも変化していることを重視。従来のように通信サービスを提供するだけではMNOと差別化ができないことから、SIerとしての強みを生かしてさまざまなソリューションと組み合わせたサービスをワンストップで提供することが、大きな価値になるとしている。
実際には、IIJが手掛けるクラウドサービス「IIJ GIO 」と、MVNOの「IIJ mobile」、そしてパートナー企業と協力して提供するM2Mやスマートデバイスなどを組み合わせたサービスの提供に力を入れているとのこと。これらを用いてセキュリティを確保しながら、安心して利用できるソリューションを提供するとしている。
個人向け市場においては現在、MVNOのサービスは「格安SIM」として注目されている。だが島上氏は「販売パートナーなどからも、格安と呼ばれるのは嫌だという声が多く上がっている。我々は安さではなく、価値に見合った正当なものを提供してきたので、格安と呼ばれるのは不愉快」と、安さだけにフォーカスされる現状に不快感を示している。
そこで島上氏は改めて、IIJがMVNOで個人向けにどのような取り組みをしてきたのかを解説。キャリアのサービスはフルスペックで画一的なことから、「通話はほとんどしない」「7Gバイトもの容量は不要」などといった細かなユーザーニーズに対応するべく、端末とサービスを切り離してSIMだけを提供し、ニーズに見合ったサービスを選べるようにしてきたとのことだ。当初は「通話は必要ないのでは」と考え、データ通信のみのサービスを提供していたが、顧客からの要望が大きかったことから、現在は音声通話にも対応したパック「みおふぉん」も提供している。
そうした取り組みによって、IIJの個人向けMVNOサービスは高い顧客満足度を獲得しているものの、市場が拡大するにつれ、従来アーリーアダプター層が中心だったMVNOの顧客に変化が出てきているとのこと。従来は知識のあるユーザーに対し、多くの選択肢を提供することが求められてきた。だが今後増加するマジョリティ層は、選択肢が多いと逆に、自分にとって何が適切か、選ぶのが難しくなってしまう。そこで島上氏は、従来追及していた、回線と端末、サービスを分離するセパレートモデルだけでなく、全てのサービスをまとめて提供するワンストップモデルを、パートナーと手を組んで展開する必要があるとしている。
最後にMVNE事業に関しては、オリジナルのSIMによるサービスの実施から、クラウドやM2Mなどと組み合わせた法人向けの展開、さらにはIIJのサービスの取次によってサービスを提供するなど、MVNOのニーズに応じたサポートを実施するとしている。特にシステムインテグレーターとしての立場から、クラウドと組み合わせた法人向け事業のサポートには強みがあると、島上氏は自社の強みをアピールしていた。
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