著作物にあたらない情報の最後は、「実用品のデザイン」です。たとえば、読者の身近にあるボールペンとかペットボトルとか、あるいは着けている腕時計とか乗っている自転車とか着ている服とか、恐らくかなりの確率で著作物ではありません。でもなぜか? たとえば筆者のこの水性ボールペン(写真)、これはなかなか良いデザインです。
クリップが形に変化を付けているし、そこに描かれた「0.5」の数字や商品名がおしゃれです。中ほどにかけて少し太くなって、そこにラバーの握りがついているのもいい感じです。なぜ、これは著作物じゃないのでしょうか。きっと優れたデザイナーでないと、デザインできません。なのに、筆者のあの落書き(第2回)は著作物で無断転載できず、こちらのボールペンは写真を撮って配信しても自由というのは、ちょっと不公平ではないでしょうか。
なぜ、実用品には原則として著作権は及ばないのでしょう。ひとつには、しばしば実用品のデザインはその「機能」と結びついているからです。なぜクリップを付けるか。ポケットなどから落ちにくいようにです。なぜ0.5と目立たせるのか。太さがすぐわかるようにです。なぜラバーがあるか。握りやすく、疲れにくいからです。
もしもある企業が、著作権を使ってこうしたデザインを何十年も独占してしまうと、他の会社はあえてデザインを変えて、いわば機能の劣る商品を売らなければならなくなります。それではまずい。そこで、こうした実用品のデザインは「意匠権」という別な権利で守ることにしました。特許庁というところに登録されてはじめて、短い期間、いわばより狭い範囲でデザインを独占することができる仕組みです。ですから、私たちは乗っている乗用車や着ている服を写真にとってブログやソーシャルメディアに上げても、原則としてOKなのです(もしも、こうしたデザインが著作物ならば、それだけで著作権侵害になりかねません)。
なお、この「実用品のデザインが著作物ではない」というルールにはふたつの例外があります。ひとつは「一品制作される美術工芸品」で、もうひとつは「鑑賞対象になるほど美術性が高いデザイン」です。これらは実は著作物になるのですが、少し入り組んだ話ですので省略しましょう。
という訳で、今回は著作物(創作的な表現)にあたらない情報をさらに3つ挙げました。前回の2つと合わせて、これらは原則として自由利用できる情報で、覚えておくと日常生活でもとても役に立ちます。ではまた次回!
レビューテスト(3):著作物にあたらない情報は全部で5つ。3つ言えますか?(回答は第2回・第3回の本文に!)
1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。
専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。
国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku
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