この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
“人種のるつぼ”といえば米国を想起する人が多いかもしれないが、アジア地域もさまざまな人種が入り混じる人種のるつぼだ。その理由の1つは出稼ぎ労働者。域内には先進国も発展途上国も存在するが、より高い収入を得るために経済成長を遂げている国に出稼ぎに出る人は少なくない。
中でもインドは国外に出稼ぎに出る人が多い。世界中に散らばる在外インド人は2500万人とも3000万人ともいわれており、彼らが母国インドに送金する金額は非常に大きい。世界銀行によれば、海外からのインド向けの送金は2011年に前年比18%増の約640億ドル。これはインドのGDPの約3%に達しており、同国は途上国の仕向け先としては世界一である。
これだけ多くの国民が海外に働きに出ると、それに伴い出稼ぎ労働者を対象とした市場が生まれる。分かりやすいところでは、「Skype」などのビデオ通話サービスがそうだろう。珍しいところでは、お葬式をライブ中継するサービスもあるという。家族を大切にする旧来的な価値観に重きが置かれるアジアにおいて、遠く離れて暮らす家族とつながるためのサービスは重要な存在なのだ。
シンガポールを拠点とするヘルスケア系スタートアップ「OurHealthMate」も、海外に働きに出るインド人をサポートするウェブサービスだ。インドにある病院とインドで暮らす患者、そして海外で暮らすその家族とをつなぎ、情報を共有する役割を担っており、高齢の両親や妊娠中の妻、病気の子どもなどを心配しながら海外で暮らすインド人の精神的な負担を軽減している。
OurHealthMateは、インドの50都市にある750以上の病院に勤める2000人以上の医師と利用者をネットワークしている。利用者は、自宅から通いやすい病院を位置情報から検索し、医師を選択。医師が提供している診療などのメニューを選択し、日時を指定して予約する。さらに支払いまでサイト上で済ませることができる。
同社によれば、国外で働く患者の家族が本人の代わりに病院の予約をできることは重要だという。インドで暮らす高齢の両親は、自分の健康よりも節約を優先する傾向にあるからだ。また、病気や怪我の予防に関する啓蒙が進んでおらず、骨が折れたなどの分かりやすい痛みや症状がない限り病院に行かない人が多いそうだ。身体的な不自由を理由に通院を避ける人もいるという。
医師にとってもメリットはある。まず、OurHealthMateのデータベースに登録されることで、患者やその家族に見つけてもらいやすくなる。また、診療の予約状況や患者の診療情報、患者からの支払い状況や薬局との注文を管理することができる。医師が利用する場合は有料で、病院の規模によっていくつかメニューがある。OurHealthMateにとっては、これらと患者からの手数料が収益源だ。
OurHealthMateの創業者であるAbhinav Krishna氏とAkash Kumar氏は、「距離に妨げられることなく、家族が患者に対してケアや愛情を注ぐことができるようになる」ことを目指している。インドの医療機関などと連携したり、マイクロソフトがグローバルに展開する起業支援プログラムにも参加するなど、非常に精力的だ。1月にはエンジェル投資家などから44万ドルの資金を調達し、今後はインド以外のアジアの病院でもサービスを利用できるよう拡大していく予定だ。
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