5月9日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(十八)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰。エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回のテーマは「シリアスゲームの現状 日本の不都合な真実~福島第一原子力発電所事故 ゲームにできること~」。3月11日より配信が開始されているスマートフォン向けテキストアドベンチャーゲーム「エネシフゲーム・インタビューズ」ならびに、この作品が扱っているエネルギー問題と原子力発電についてのトークが展開された。
登壇したのは第一部に本作の開発プロデューサーを務めたダイスクリエイティブの小関昭彦氏と、ディレクターを務めたグランディングの二木幸夫氏。さらに本作にも登場する東京工業大学助教の澤田哲生氏と東京都市大学教授の高木直行氏という、原子力の専門家が登壇。そして第二部では、衆議院議員の菅直人元首相が講演を行った。
シリアスゲームは社会問題の解決を主目的として、ゲームを通じて関心度を高めたり喚起することを目的としたコンテンツ。エネシフゲーム・インタビューズは、2011年3月11日に発生した東日本大震災以降のエネルギー問題をテーマにしたシリアスゲーム。ユーザーは新人記者となり、エネルギー問題に関わる取材対象者にインタビューをするという内容で、作中には衆議院議員の河野太郎氏や歌手の加藤登紀子さんらをはじめとした、エネルギーに関する有識者が実名で登場する。ちなみに、本作の制作資金はクラウドファウンディングで調達し、開発はプロボノ(専門家による社会貢献)という形で配信された非営利のソフトとなっている。
プロジェクトの発起人でもある小関氏は、東日本大震災以降に自分たちで何かできることをと考え、2011年4月にFacebookで「自然エネルギーで行こう!」を立ち上げた。「ただ、何かに反対する、反原発と叫ぶのはどうかと思っていて、あくまでいいものを推進していこうという考えだった」(小関氏)。もともと小関氏は20年以上ゲームクリエイターとして活動しており、ゲームを使ってエネルギー問題を提起することはできないかと考えたのが、本作開発のきっかけだという。
二木氏は「パンツァードラグーン」シリーズなどを手がけたゲームクリエイターとして知られている。二木氏はアフリカ農民の生活を体験できるシリアスゲーム「3rd World Farmer」を遊び、「ゲームで体験できる生活のひどさにショックを受けた」と振り返った。このことから、身近に体験できるゲームを通じて何かを伝えることの力を感じてシリアスゲームに関心を持ったという。その後、当時はまだ面識がなかったものの小関氏の呼びかけに応じて制作に参加したという。
本作がインタビューを通じて進行する、また情報リストのコンプリートこそあってもゲームとしてのゴールがなく、その判断をユーザーにゆだねるという内容となったのは、開発にあたり実際に識者に話を聞いていくなかで、これをそのまま内容にしたほうがいいのではと感じたからだという。二木氏は当初、原発の反対運動やエネルギー問題を体験できるような内容を考えていたそうだが「僕たちは専門家ではなく、話を聞けば聞くほどいろんな意見と見解があるため、誰の情報を信じていいかわからない。それであるならば、さまざまな意見を聞くという過程そのものを体験してもらうアドベンチャーゲームにした」(二木氏)と振り返る。
高木氏と澤田氏が本作に登場した経緯についても触れられた。高木氏は、2008年に大学教授になるまで、約16年間は東京電力で勤務。東電時代で最後の直属の上司は、東日本大震災時に福島第一原発所長をしていた吉田昌郎氏だったという。学生時代から原子力を専攻し、自ら「完全に原子力人間」というほど、長年原子力発電に携わってきた人物。本作の提案を受けた時点では震災からまだ1年も経過していない時期ではあったが「吉田さんがどういう気持ちで対応されているか、さらに最後にいた部署は原子力安全の中枢を担うグルーブだったが、当時向かいに座っていた人が現場で対応しているという状況を見ると、いてもたってもいられずなんとかしたいという気持ちが強かった」と当時の心境を語った。ゲームというインパクトのある媒体であることや、東電社員時代から反原発団体と直接話を聞くなど、立場の違う人たちと話をして交流を持つことに抵抗がなかったため快く引き受け、取材も丁寧だったと振り返った。
澤田氏は自ら「原発推進派」と言い切り、日本エネルギー会議の発起人としても活動している。まわりから“御用学者”と言われていたことに触れ「東京電力や政府からお金をもらってないので、御用学者じゃありません」と笑いながら否定しつつ、出演の打診については自身の子どもがゲームに親しんでいたことや、原発に対する意見が横並びに扱われることに関心を示したという。「原子力発電というオプションがあるということを言い続けてきたし、その主張を少しでも扱ってもらえることがありがたかった」(澤田氏)と振り返った。
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