ヤフー小澤氏と楽天中島氏が激論--Eコマースの現状と課題

 起業家を中心に日本のベンチャー事業や振興政策に関わるキーパーソンが集うカンファレンスイベント「G1ベンチャー」が4月29日に開催された。同日は、起業家のほかベンチャー経営に関わる学者、政治家、官僚など約170人が集まった。

  • ヤフーの小澤隆生氏

 いま、Eコマース市場は大きな変革の最中にいる。Yahoo!JAPANが“Eコマース革命”を打ち出してYahoo!ショッピングの出店手数料などを無料化し、加盟店を大幅に伸ばして業界最大手の楽天を猛追。また消費者の環境も、スマートフォンを使った購買行動の一般化や消費増税などにより変化が生まれている。今後2018年までに約21兆円規模にまで成長すると言われているEコマース市場は、どのような可能性と課題を秘めているのか。

 「Eコマース革命が拓く未来」と題した分科会では、ヤフー執行役員でショッピングカンパニー長の小澤隆生氏、楽天常務執行役員でCMOの中島謙一郎氏、オークファン代表取締役社長の武永修一氏がパネリストとして登壇し、Eコマース市場の現状と課題について討論した。モデレータはビットアイル代表取締役社長でCEOの寺田航平氏が務めた。

 Yahoo!JAPANの“Eコマース革命”によって業界に大きなインパクトが生まれ、今後の市場拡大のチャンスは大きくなっている。こうした現状について中島氏は「若い人を中心に『ネットで買い物』というトレンドが高まっている。スマートデバイスの普及によって、空き時間や友人との会話の中で買い物をするという利用シーンが広がっている」と指摘。そして、小澤氏も“Eコマース革命”のその後について「日本のEコマース化率は欧米に比べて非常に低い。赤字を抱えても市場を拡大させることを優先させたいという思いで(Eコマース革命を)やることになった。その後の効果は大きかった」と語った。Yahoo!ショッピングは手数料無料化以降、着実に出展者を増やし、3カ月で8万店、出品数は1億点にまで拡大。流通額も毎年右肩下がりだったところ、V字回復したという。武永氏も「Yahoo!、楽天、Amazonという3強の構造は変わらない」と話し、「スマートフォンによって顧客へのリーチが効率化しているのでは」と続けた。

 では、こうした成長著しいEコマース市場における現状の課題とは何だろうか。まず挙がったのは、ロジスティックの問題だ。Amazonは全国に数カ所の物流拠点「フルフィルメントセンター」を置き、注文から物流までをワンストップで展開しているが、こうしたインフラを整備しているプレイヤーはまだ少数だ。小澤氏は、「物流は成長のために本当に大きな課題だ。ユーザーがAmazonを使う理由は『確実に明日届くから』。Eコマースにおけるブレークスルーは間違いなく物流だろう」と指摘。また中島氏も現状について、「物流はキャパシティオーバーに陥っている。リアルな店舗と違い、ネットはセールなどの施策を打つことで一時的に、爆発的に流通量が増加する。こういった集中型購買に日本の物流が追いつかなくなっているのではないか」と語り、物流業者と協力して解決することが市場の成長にとって不可欠である点を提言した。

  • 楽天の中島氏

 次に語られたのは、決済に関するものだ。特に、クレジットカードなどで商品を購入する際の決済手数料は事業者にとって大きな存在で、その手数料を商品価格に転嫁すればユーザーメリットも損なわれてしまう。小澤氏はこの点について「現在の日本の法令の壁は高い」としながらも、異なる銀行間、カード会社間での決済から生まれる手数料を下げるために、ヤフー傘下のジャパンネット銀行、提携関係にあるTポイントをどのように活用するかが課題解決の手がかりになるのではと語った。一方でクレジットカード事業や決済ソリューションを展開している楽天の中島氏は、「ユーザーにとって価値があるものであれば手数料は受け入れられるのでは。店舗や消費者にとって付加価値が提供できれば、手数料は成り立つ」と小澤氏とは異なる立場をとった。

 3つ目のテーマは、消費者に対する購買意欲喚起の戦略だ。Eコマースは、既に欲しい商品があって購買をする「目的物購買」が大きな割合を占めているが、市場成長のためにはコンシューマーへのレコメンデーションによる購買意欲喚起が大きな課題になる。この点について小澤氏は、ショップを運営する店主の果たす役割の重要性を指摘した。「店舗の店主は商品を伝えるキュレーターであり、店主のセンスが新たな購買を生み出す。商品をいかに売り手が語り魅力的に見せることができるかが重要だ」と小澤氏。店主がただ商品を陳列して他店と価格勝負するのではなく、消費者に新たな発見をもたらす魅力的な商品を紹介することが、顧客の興味喚起に繋がると提言した。この小澤氏の発言に中島氏も「商品に強い思いを持っているのは店舗であり店主だ。『いいものがあれば買いたい』と考える消費者はその店主の思いに共感し、購買意欲が生まれるのではないか」と続いた。

 最後に、Eコマースの10年後の未来について語り合った。寺田氏の「フルフィルメントやレコメンドが確立すれば、メーカーと消費者が直接繋がるのではないか」という指摘に対して、小澤氏は「10年後はサービスを含めてあらゆる企業と個人がEコマースをしているのではないか。そのためのカギになるのは、ネットで買うと損にならないということと、ネットでモノを売ることに余計な手間が掛からないこと」とコメント。Eコマースに“距離”という概念を取り入れることが今後は重要で、購入した商品が自宅の近所の店舗やオークションの販売者から“今すぐ届く”という利便性が市場拡大を加速させるのではないかと提言した。「生活圏が密集している日本ならではのEコマースが成長すれば、ものすごい世界が待っているはずだ」(小澤氏)。


分科会の様子

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