Wearable Tech Expo

衣料と融合した“ウェアラブル”を作れ--「スマート素材」でさらなる進化へ

 3月25~26日に開催されたウェアラブルテクノロジのカンファレンス「Wearable Tech Expo in Tokyo 2014」。ヘッドマウントやスマートウォッチをはじめとした、国内外のウェアラブル業界のキープレーヤーが登壇した。ウェアラブルにとって欠かせない要素の1つである、マテリアル(素材)については、「スマートマテリアル」というタイトルで、実際に新しいマテリアルを使った新しいビジネスを事業として持つ2社の担当者プレゼンテーションと、それを作家である湯川鶴章氏が応答するパネルディスカッションが実施された。


作家 湯川鶴章氏

 Clothing Plusは、生体認証(バイオメトリック)センサを作っている企業と協業し、心拍数計をつけたウェアラブル衣料では世界市場で75%のシェアを持っている。プレゼンテーションに登壇したマーケティング・セールスマネージャーのMikko Malmivaara氏は創設メンバーの1人である。


Clothing Plus マーケティング・セールスマネージャー Mikko Malmivaara氏

 「われわれはテクノロジ業界と衣料業界の橋渡し役として仕事をしている。テクノロジ業界と衣料業界はお互いに協力できる関係にありながら、同じことばを話さないため、お互いを理解できない状況にあった。当社はテクノロジ業界、衣料業界の両方のことばを話すことができるため、両者の仲介役としてビジネスを担っている」と同社の役割を紹介した。

 湯川氏もこの意見に賛同し、「現在、インターネット技術は踊り場に差し掛かっている。ネット技術を使えば、問題解決ができる業界は多数存在するものの、依然としてネット技術が使われず改善されない問題を抱えている業界が多数存在する。その要因となっているのが、まさに今、指摘があったことばが違うため、お互いを理解できないという問題」とお互いのことばをつなぐ、仲介者の役割が必要であると指摘した。

 衣料にバイオメトリックスを取り入れたものとしては(1)熱、(2)光、(3)触覚、(4)センサと4種類に大別される。光とはLEDとの融合による光る衣料製品、触覚とは振動などにより遠く離れている人ともふれ合っているような感覚を再現するもの。Clothing Plusはこのうりセンサに特化してビジネスを行っている。

 センサを利用した衣料製品の活用分野としては、(1)安全とプロテクション、(2)インフォメーション、(3)フィットネスとウェルネス、(4)健康と医療と4種類がある。Clothing Plusでは(3)と(4)のビジネスを事業として持つ。医療用製品については、「守秘義務契約があるので詳細は明らかにできないが、心臓病の患者の肺に水が貯まっているかどうかを計測し、事前に対処することで心臓発作を抑える対策を打つことができる」とし身体のトラブルを未然に防ぐことができるとした。

 一方、コンシューマ用に提供する心拍計付き衣料製品は、心拍数を計測することで、ピーク時と計測時の差からストレスレベル、睡眠パターン、痛みがどの程度なのかを推し量ることができる。心拍数を測ることで活用方法が多数存在する。Clothing Plusでは身体に負担をかけない素材で、中国に工場を持っていることから、「注文があれば、すぐに大量生産を始められることが当社の特徴の1つ」だとアピールした。

 将来の製品としては、「一切、センサが見えないような衣料製品をつくりたい。これは、目に見えないだけでなく、価格、触覚など全方位でセンサが含まれていることに気がつかず、使える衣料製品を作ることが目標。糸自体に電気が通るような仕様とすることで、ウェアラブル機器という構えたものではなく、自然に身につけられるものを目指す」と完全に衣料と融合したウェアラブルを作ることが目標だとした。

 これが実現すれば、夏には風通しを良くする生地を持ち、冬には防寒のために厚くなるといった変化を起こすことも可能で、そこにファッション性を組み合わせることで、ウェアラブルの世界はさらに大きく、発展、進化していく可能性があると説明した。

 一方、HZOはユタ州ソルトレイクシティに本社を置き、88人の社員のうち半分がエンジニアで、社内には8カ国語が飛び交う新しい企業。ウェアラブルの強敵である水、汗といった水分からブロックできる技術を持っていることが大きな強みとなっている。


HZO 副社長 Jaren Beckstrom氏

 プレゼンテーションを担当した、HZO副社長のJaren Beckstrom氏は、「買ったばかり」というiPhoneを水にかけてみせた。

 「スマートフォンを使っているのでスマートフォンを防水するための技術と誤解されてしまうかもしれないが、われわれが提供しているのは携帯電話を自ら守るための技術ではない。デバイスを使うシーンを広げる、どこでもデバイスを使えるようにすることで、利用範囲や利用方法が大きく変わっていくという可能性を提供したいと考えている」(Jaren氏)

 さらに、「水だけでなく、腐食性のある液体でも十分に対応できるところを見せる」としてコーラをiPhoneにかけてみせ、次に「汗びっしょりになっても身につけていられるが、実際の汗を使うわけにはいかないので、ポカリスエットをかけてみせる」と実演した。

 このプレゼンテーションを見た湯川氏は、「今、出ているウェアラブルデバイスには防水がきちんとできないものが多い。1日中身につけて、データを計測しましょうとアピールしながら、実際にはシャワーの際には身につけていない。1日中というアピールポイントを満たしていない。こういう防水のための技術は重要」とコメントした。

 実際にどんな技術なのか、「マテリアルの詳細については明らかにできない」としたが、HZOが提供するのはポリマーの一種。一度塗布するとデバイスの寿命まで利用し続けることが可能で、最も厚い場合で薄さ8ミクロンほどだという。デバイス全体を覆うというよりは、内部の部品全てを覆うものだという。

 使用する際の価格は、「ボリュームやデバイスの大きさにも左右されるが、おおよそ1ドルから4ドルというレンジで収まる」そうだ。

 顧客はエンドユーザーではなく、デバイスを製造するメーカー側で、「要望を受けたら、こちら側から質問を投げかけ、製造工程をどう変えていけるのかといったビジョンを共有して、協業していく体制をとる」のだという。

 最初にプレゼンテーションを行ったClothing Plusが衣料とウェアラブル端末をかけあわせたものだったのに対し、「われわれはswimmable(泳げる)、もしくはshowerable(シャワーできる)デバイスを実現するお手伝いをする。水に濡れ、石けんで洗われても大丈夫なものとする。中味を防水化することで、デザイン、ライフスタイルをどう変えていくことができますか、とメーカー側に問いかける。単純に防水機能だけが欲しいのなら、われわれではなくてもパートナーは存在するだろう。われわれはデバイスを利用するシーンを変えていきたい」と新しい利用シーンを作り上げていくことこそがビジネスの目標だと締めくくった。

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