--ウェブの最初のアイデアが生まれたのは、少なくともかなりの部分があなたのおかげですから、あなたはこれまで実現したことに満足していますか。次の25年に何を期待するでしょうか。
Berners-Lee氏:私は国際的な精神に非常に満足しています。ウェブが非国家的なものとして始まったのは素晴らしいことです。ウェブが国際的だとは考えていません。なぜならそれは複数の国が1つにまとまったものだからです。ウェブは国境には関係ないものとしてスタートしています。世界中の人々が、さまざまな創造性、発明性、そして多大な努力を、コンテンツのレベルと標準のレベルで出し合うことで協力してきました。そこで見られる多様性は驚くほどです。
一方で、ウェブのコントロールを巡る争いは常にありました。インターネットサービスプロバイダー(ISP)がVoIP(Voice over Internet Protocol)の制限を試みようとする場面は何度も目撃してきました。ISPは、自分たちの従来の電話事業を保護するため、ユーザーのVoIP利用をやめさせようとしたり、自社のVoIP事業を強化するために、ほかのVoIPサービスの利用をやめさせようとしたりしてきました。自社のウェブサイトではなく、ほかのウェブサイトで映画を見る場合には、はるかに高い料金を徴収するISPもありました。
コントロールという問題には、強大な企業や強大な政府が関わってきます。現在、一部の国では、企業と政府を区別するのが非常に難しくなっています。私はそれを懸念しています。
Wikipediaには感心しています。一般知識の宝庫として素晴らしいものです。しかし、私が望んでいてまだ実現していないのが、ウェブによって文化の対立を解消することです。毎日、外国人排斥や、ほかの文化に対する攻撃の衝動を抑えきれなくなる人々がいます。ウェブは国境なしで成功してきましたが、ほかの人々に支持されている人々を見ると、彼らは全く同じような文化に属している場合が少なくありません。
われわれはインターネットを、複数の利害関係者が関与する非国家的な方法で運営したいと考えていますが、いまだに世界はかなり国家中心的であり、人々はかなり文化中心的です。よく知らない人々と実際に友好関係を深められるようなウェブサイトをどうやって作るかという問題に、ウェブの開発者が取り組めればと考えています。
--それはテクノロジ上の問題でしょうか。それとも、文化、政治、経済の問題なのでしょうか。私はフランスに住む国外居住者です。ウェブによって、私がはるかにグローバルな視点を持てるようになり、私の海外での生活の可能性が大きく高まったのは素晴らしいことです。私の考えでは、ウェブは文化を越えたつながりを大いに後押ししてきたように思えるのですが。テクノロジによって、そうしたことがもっと頻繁に起きるようにできるでしょうか。
Berners-Lee氏:ウェブが機能するのは、HTTP(Hypertext Transfer Protocol。ウェブブラウザがウェブサーバからページを取得する方法を制御する、基本的なウェブ標準)が存在するからではありません。HTTPが存在すると同時に、人々が優れたコンテンツにリンクしたいと思うからです。なぜ優れたコンテンツにリンクしたいのかというと、自分のコンテンツを読んでくれる人が増えると考えるから、そして、自分のコンテンツを読んでもらいたいという心理が働くからです。
富と名声の流通というのがウェブの仕組みの社会的な面であり、HTTPとHTML(Berners-Lee氏が生み出し、ウェブページの構築に使われる、影響力が大きな別のテクノロジ標準)は、ウェブの仕組みの技術的な面です。
それらは密接につながっています。何かをするときに、テクノロジだけではだめで、多くの場合は政策を変える必要があります。著作権法はひどい状況で、Napsterのようなサービスを設計するのには不十分です。Napsterは、社会的な面を変えることが可能かどうかを全く考えずにスタートしたテクノロジでした。既存の著作権法に反していると判断されたわけですが、その著作権法は書籍を念頭に策定されたものでした。
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