この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
シンガポールの連続起業家であり投資家でもあるDarius Cheung氏が、次なる取り組みを開始した。同氏は2010年にモバイルセキュリティのスタートアップ企業「tenCube」をマカフィーに売却した実績を持つ。それから3年あまりが経ち、Cheung氏が見つけた新たな課題はルームシェアをしたい家のオーナーが抱える「テナント(借家人)探し」だった。
ルームシェアというと、日本ではようやく浸透し始めた新しい住まい方のように思われるかもしれないが、シンガポールではもっと一般的だ。シンガポールの住宅賃料は値上がりしている。JETROがシンガポール都市再開発庁の統計を元に作成した資料によると、2005年と比較して現在の賃料は2倍弱の水準。駐在員の住宅賃料の相場は3600シンガポールドル(1シンガポールドルは約82円)から。知人談によれば、「一部屋」(一戸すべてではない)を借りるだけでも1500シンガポールドルは下らない。だから当地では、そうせざるを得ないという事情もあり、ルームシェアという住まい方が一般的なのだ。
これまでシンガポールでよく知られてきた不動産系のウェブサイトは「PropertyGuru」。あくまで家を借りたいテナント向けのサイトだ。国内の多くの物件を網羅しており、家賃や部屋数などの条件から部屋を探すことはできるが、オーナーがテナントを探すことはできない。Cheung氏はここに目をつけた。
Cheung氏が2013年12月に公開したウェブサイト「Homie」では、年齢や職業(働いているか学生か)、性別、最短の住居期間、希望する賃料などの条件でテナントを検索できる。
該当したユーザーをクリックすると、自己紹介文、学歴、職歴、喫煙者か、ペットはいるかなどの詳細が表示される。さらに、その人が他のテナントに求める条件(性別、職業、キッチンで料理をしてもいいか、深夜の来客、カップルでの入居など)も確認できるため、複数人のテナントに部屋を貸し出したいオーナーとしては助かる。オーナーとテナントだけではなく、テナント同士の相性も良好なルームシェアを維持する上では重要なことだ。気に入ったユーザーがいれば、自分のショートリストに追加したり、サイト内でメッセージを送ることができる。
Homieでは、PropertyGuruのようにテナントとして部屋を探すこともできる。価格帯や引越しを考えている時期、住宅のタイプ、引っ越す人数、そしてここがHomieらしいところだが、他に暮らすルームメイトの年齢層と職業で絞ることができる。もし部屋が気に入れば、サイト内でオーナーにメッセージを送ったり、内覧の日時に関する希望を決めることができる。
つまり、テナントとオーナーが不動産エージェントを通さずに、直接マージン無料で契約することができるのだ。PropertyGuruでは、多くの物件が不動産エージェントに管理されており、テナントは彼らを通じて契約しなければならない。少しでも賃料を抑えたいテナントや、収入を増やしたいオーナーは今後Homieの方を好む可能性もあるだろう。
Cheung氏はサービス開発の背景についてこう語る。「過去20年間、ルームメイトと生活してきて、よい部屋やルームメイトを見つけるのはとても難しいことが分かった。Homieによって、それがもっと簡単になると信じている。2013年10月にソフトローンチして以来、月に5000人が利用し、1000を超える物件が登録されており、その数は毎週15%ずつ増えている。まずはシンガポール市場にフォーカスし、信頼されるユーザーベースと物件リストの構築に注力する。Homieは、今はまだ氷山の一角にすぎないかもしれないが、都市の流動性に大きな近代化をもたらすものと考えている」(Cheung氏)。
なお、マネタイズの計画については、今はまだ明らかにしていない。
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