アート作品に“投資”するシンガポールで注目のECサイト「The Artling」

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 この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。

 日本ではあまり知られていないかもしれないが、シンガポールはいま“アート”に力を入れている。2000年から政府が「ルネッサンス・シティ」政策を押し進めており、毎年のようにアート関連の大型イベントや施設が登場している。急成長を続ける東南アジアの経済のハブのみならず、美術やデザインといった“文化”のハブにもなろうとしているのだ。

 2008年には同国初の中高一貫の公立芸術専門学校「School Of The Arts Singapore(SOTA)」が開校。2012年には複合アート施設「ギルマン・バラックス」がオープンし、日本を含む海外のギャラリーを多数誘致。2014年1月に行われたアジア最大規模の国際アートフェア「Art Stage Singapore 2014」には28カ国から158のギャラリー、600人以上のアーティストが参加し、来場者数は過去最多の4万5700人を記録した。

村上隆氏ら日本の芸術家の作品も紹介・販売

 これは裏返せば、アートに対する一定の需要があるということだ。しかし、その需要の中身は日本とは異なるといわれている。日本でアートを購入する目的の多くは、自宅や店舗、施設などに飾って鑑賞するためのものだろう。しかし、シンガポールでは“投資”を目的として購入する人が多く存在する。アート作品を購入し、それをまた他のコレクターや美術館、ギャラリーなどに売ったり、貸したりして儲けるということだ。事実、Art Stage Singapore 2014内で行われたオークションでは、国内外から訪れた富豪、投資家たちが1億円を超える値で作品を購入していった。

  • 「The Artling」

 こうした状況の中、シンガポールでアート作品に特化したECサイト「The Artling」が2013年に登場した。同サイトがやろうとしていることは非常にシンプルで、国内のギャラリーが抱えるアート作品を、ファンや投資家たちがもっと買いやすくすること。規模の大きいギャラリーであれば自前でECサイトを構築することもできるだろうが、ほとんどのギャラリーはそうではないためだ。

 ウェブサイトは高機能でありながら、洗練されたギャラリーのたたずまいを感じさせるミニマルなデザインになっている。作品の種類(写真やイラストなど)、サイズ、価格(120~1万ドル)などを選択すると、「Pinterest」のように作品画像が、作品名、作家名、価格とともにすっきりと一覧化される。アーティストや感度の高いユーザーが訪問するアート特化型のサイトだからこそデザインが重要なのだろう。

 ビジネスモデルとしてユニークなのは、アート作品を使った空間演出のコンサルティングも行っていること。運営者にはインテリアデザイン作品の目利きのプロがおり、住居やホテル、オフィスなどの建築者や設計に携わる人を対象に、追加費用なしでサポートをしているという。アート作品を購入した経験の少ない人はとても助かるはずだ。

  • The ArtlingファウンダーのTalenia Phua Gajardo氏

 The Artlingではこれまでに、24のギャラリーから集められた5000点以上の作品が紹介されており、その中には現代芸術家の村上隆氏や、アーティストでシンガポール国立大学の客員教授でもある土佐尚子氏の作品なども含まれている。ファウンダーのTalenia Phua Gajardo氏自身、日本のアートや芸術家のファンで、「日本はアートの才能で溢れている」と感じているそうだ。今後サービスが拡大すれば、日本のアートをアジアに発信する一翼を担ってくれるかもしれない。

  同サービスは2月、シンガポール在住の匿名の個人投資家 兼 アートコレクターから20万シンガポールドル(1シンガポールドルは約80円)の資金調達をした。この資金で運営チーム、在庫作品、作品や作家のデータベースを拡充し、世界中のユーザーにサービスを利用してもらえるよう充実させていくという。

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