この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
今回紹介するのは、学校給食のメニューをオンラインで注文する「Whizmeal」。中国系の人種が集まるシンガポールならではの食に関する問題をITで解決することを目指すサービスだ。
Whizmealと提携した学校では、親が子どもとWhizmealのウェブサイトを見ながら給食のメニューを選ぶことができる。ウェブサイトにログインすると、1カ月以上先のメニューが並んでいる。1日につき選べるメニューは2つから3つ。食事の写真と一緒に、メニューに含まれる食材やアレルギーに関する情報が記載されているので、子どもが何を食べているのか、バランスの良い食事ができているのかを確認しながらメニューを選ぶ。
メニューは「肉」「野菜」「米」「フルーツ」の4つで構成される。肉に替わって魚、米に替わって麺など他の食材に置き替えられることもあるが、必ず栄養素を意識したメニューになっている。サイズはS・M・Lの3種類。7~10歳の子どもはS・Mサイズを、10~12歳の子どもはM・Lサイズを選ぶことが多いそうだ。実際に子どもが食べてみて量が多かったり少なかったりしたときには、今後のメニュー選びの際にサイズを変更すればよい。
生徒の半分以上が選ぶという一番人気の「ナシレマッ」は、お米をココナッツミルクで炊いたマレーシアの代表的な料理。実はあまり摂取しすぎると体によくないといわれるココナッツミルクの量を通常の半分に抑えている。万国共通で子どもに人気の「チャーハン」には、骨と視力を強くする栄養素ビタミンAを含んだ野菜が使われている。「魚のフィレ」も人気のメニューだが、多くの子どもたちが苦手なネギとタマネギの雑種であるワケギが添えられている。ワケギは消化を助けたり、血行を良くしてくれるなど体に良いとされるため、あえて外していないのだそうだ。
提供されるメニューはWhizmealと、提携する学校の給食スタッフが一緒に考える。同社を立ち上げるまで8年間食品業界に従事していたCo-founderのTan Soon Mei氏がアドバイスをする。話し合いで決まったメニューを元に、学校の給食スタッフが食材を買い調理する。子どもからの評判も踏まえ、メニューは3カ月ごとに変更する。
Whizmealのサービスは、まだPunggol Green Primary Schoolでパイロット版が提供されたのみ。本格展開はこれからであるが、収入源は主に親から支払われる料金になるという。親は年間利用料として15ドルを、そして1回の食事につき、Sサイズは1ドル、Mサイズは1.5ドル、Lサイズは2ドルを支払う。これだけリーズナブルな金額で健康的な給食が食べられるのであれば、利用者からのニーズも見込めそうだ。
同国の保健省によると、シンガポールの11%の子どもが肥満なのだそうだ。Tan氏はその主な原因のひとつとして外食を挙げる。飲食店、特に中華系の料理を提供する店では、野菜などの食材が2度揚げされることが多い。料理が美味しくなると考えられているのだが、その分、油をとりすぎてしまう。
また、シンガポールでは日本と比べて外食の機会が多い。街中には「ホーカーズ」と呼ばれる屋台風の飲食店エリアがいたるところにあり、地元で人気のチキンライスや定食などが2~3ドルで食べられる。自炊するのとほとんど変わらないか、むしろ安く済んでしまう。さらに日本と同じく共働きの夫婦が多いため、忙しい親にとって外食はとても助かるのだ。
肥満のもうひとつの理由に、シンガポールの給食システムがある。日本の給食の時間は1時間と決められているところが多いと思うが、Tan氏によればシンガポールではたったの30分なのだという。これでは、給食を受け取るために列に並ぶだけで多くの時間を割かれてしまい、実際に食べる時間はほとんどない。そのため、急いで食べることで消化不良を起こしやすくなり、肥満の原因となってしまう。
Whizmealでは1人1人の食事が盛られたプレートにカバーが掛けられ、そこに自分の名前が書かれたラベルが貼られる。そのため列に並ぶ時間が短縮され、子どもはゆっくりと食事ができるようになるとしている。
Whizmealでは2014年中に、食に関する情報を提供するスマートフォンアプリを開発するほか、給食の食材にどれぐらいのお金がかけられているのかを子どもに教えることで、金銭感覚を育む機能を実装する予定。さらに、子どもたちの健康に対する意識をより啓蒙するようなゲーミフィケーションの仕組みなども取り入れていく。そして今後5年間で、シンガポール国内にある20の学校への導入、2万人の生徒たちによる利用を目指す。Tan氏は「2022年までに子どもの肥満率を半分まで下げたい」と語った。
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