スクエニ和田会長と山本一郎氏が語ったゲーム業界の潮流と未来

 1月23日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(十六)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。

 今回のテーマは「ゲームビジネス潮流観測 ~混迷の時代に新たな萌芽を探す」。スクウェア・エニックス取締役会長の和田洋一氏と、投資家やブロガーとしても知られるイレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役の山本一郎氏が登壇し、ゲームビジネスやコンテンツの潮流、そしてゲームの未来についてのトークを展開した。

左から黒川文雄氏、和田洋一氏、山本一郎氏
左から黒川文雄氏、和田洋一氏、山本一郎氏

 冒頭で話題となったのは、隆盛を極めたスマートフォン向けゲームのビジネスモデルにも陰りが見え始め、さらに1月17日付けで任天堂が業績予想を修正し大幅な赤字決算になることを発表(※このイベント後、1月29日付けで発表された決算では、営業利益が15億7800万円の赤字、純利益が101億9500万円の黒字となっている)したこともあり、黒川氏は昨今のゲーム業界は混迷の時代に入っていると紹介した。

 任天堂においては、不調論が叫ばれているものの豊富な資金力と財務状況からいずれ盛り返してくるというのが、2人の共通した見解。もっとも、楽観視できる状況でもないことも付け加えた。

 かつて任天堂がWiiやニンテンドーDSによってゲーム人口の拡大を目標とし、新たなユーザーの獲得に成功したのだが、そのユーザー層の多くはソーシャルゲームに代表されるモバイルデバイスで遊ぶゲームに流れてしまったことが、現在の任天堂の状態になっているというのが2人の見方。山本氏は任天堂が持つ子ども向けの市場シェアそのものは落としていないものの、長くゲームを遊ぶユーザー層が落ち込んでいると指摘。また、アドホック通信で遊べるミクシィのスマホゲーム「モンスターストライク」が中高生に人気を得ていることに触れ、このようなものこそ任天堂がやるべき事業だったと語っていた。和田氏もスマートフォンのユーザー層とかぶっていることを前提とした上で、今後の戦略を考えていく必要性を説き、それであればまだまだ戦えると語った。

和田会長が振り返る「ファイナルファンタジーXIV」やリスク分散の手法

 次に、スクウェア・エニックスにまつわる話題に移り、MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」についても触れられた。本作は2010年のリリース後トラブルが頻出したため、ゲームを作り直す形で、2013年5月に「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」として再度リリースされた経緯を持つ。

 和田氏は当時を振り返り、率直な印象として「これは申し訳ない」と思い、企業業績はもちろんのことファイナルファンタジーのブランドイメージを考慮。悩みつつも開発のトップを交代させたことを含め、抜本的な改善に舵を切ったという。トップの交代は冷たい判断と見られる向きもあったが、和田氏は逆だという。「何年もやってきたことを否定できないし、部下にこれまで作ってきたものを壊せと、さらに開発メンバーに全く違うことを同じ人間が指示することは相当きつい」(和田氏)と意図を語った。

 ほかにも、スクウェア・エニックスに限らず、昨今ではシリーズ作品やリメイクへの依存度が強く、新規タイトルが少ないという意見が少なからずある。単に安定した収益のためという見方をされやすいが、和田氏の考え方は少し違っていたという。

 和田氏が社長に就任した2001年(※当時はスクウェア)、経営的に痛んでいたもののゲーム市場は良かったこともあり「打率5~6割でももうかると思った。なのでどうしたら自信を持たせられるか、それが業績につながると考えた」(和田氏)。そして、開発陣が自信を持って作ることができる、過去のIP(コンテンツ)を活用した続編やリメイクタイトルを制作させ、その後に新規IPを増やしていく考えを持っていたという。ただしその後、現行機の初期のころに出遅れてしまい、新規IPの立ち上げがうまくいかなかったことや、ディレクタークラスの人材をファイナルファンタジーXIVの開発に投入せざるを得ない状況になってしまい、新規IPを生み出すことに対しての誤算が生じてしまったと振り返る。

 新規IPを生み出すべくさまざまな挑戦を試みるなかでも、経営であればリスクを分散させる必要も出てくる。和田氏は変革期においてのリスク分散について「IPでリスク分散する発想はしなかったし、プラットフォームでのリスク分散もしていなかった」(和田氏)とし、キャッシュフローでのリスク分散を考えていたという。

 MMORPGに代表されるオンラインゲームの月額、定額制モデルで確実な一定の収益が見込めるものをベースとして置き、その上に短期間で制作ができ、収益のばらつきはあれど、当たったときの顧客単価が高いソーシャルゲームを置く。ここで収益の底支えをしている間に、HDゲームのビジネスモデルの模索をするという3段構造の仕組みを構築したという。

 量販店でのパッケージビジネスモデルが瓦解した昨今、HDゲームのビジネスモデルには正解が無く、今なお試行錯誤を続けていると和田氏は語る。HDゲームの開発を続けている理由として、この開発を止めた場合、再開することは困難であるため、続けていかなければならないという考えを示した。

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