この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
2011年の東日本大震災を背景に消費者の節電意識が高まり、その認知度が高まっている「スマートハウス」。太陽光パネルで自家発電し、作った電気を蓄電池に貯め、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)でその利用状況を見える化しながら使う住宅のことだ。
シンガポール発のテクノロジー企業Intraixは、スマートハウスの“日本市場”をメインターゲットとしている。すでに日本の企業と提携しており、拡販を強化してシェアを拡大していく構えだ。電力の見える化に留まらないIntraixのソリューションについて、共同創業者のDarrell Zhang氏に話を聞いた。
Intraixは、NUS(シンガポール国立大学)の卒業生2人が立ち上げた会社である。Darrell氏ともう1人の共同創業者であるBryan Lee氏が、NUS Enterpriseの海外研修プログラム「NUS Overseas Colleges Programme」に参加して、上海のIT企業でインターンシップをしていた時に出会い、帰国後起業した。
大学時代、Darrell氏は情報系の分野を専攻、Bryan氏はマネジメントを専攻し、どちらも住宅関連の分野に直接的に触れることはなかった。しかし、あるビジネスプランコンテストへの参加が契機となり、「住宅業界はITテクノロジーがまだ入り込んでいない。これからデータドリブンな産業に成長する可能性がある」(Darrell氏)と一念発起したそうだ。
同社が提供するHEMS「Luterio Intraix」を導入すれば、家庭のブレーカーに専用のハードウェアを接続するだけで、発電量や消費電力量、作った電気のうち電力会社に売った量にあたる売電料をアプリでリアルタイムに把握できるようになる。ユーザーは、電力の使用状況を可視化することで節電意識を高め、毎日の生活に活かすことができるのだ。
さらに、Intraixは日本国内のSmart Integrationと2013年3月に提携を発表。Luterio Intraixを、初年度で5000~8000軒に導入することを目指し、6月から東京、奈良、沖縄にて展開、拡販を開始している。
しかし、これだけでは競争の激しい日本のスマートハウス市場でシェアを獲得するのは困難だ。さらに、Luterio Intraixに限った話ではなく、従前のHEMSのメリットが電力の見える化だけでは不十分でそれほど普及は進んでいない。そこでIntraixは2014年、スマートハウスがもたらす体験を進化させるソリューションの提供を予定している。
1つめが、家庭にあるすべての家電をスマートフォンから操作できるようにする「スマートプラグ」。壁に着いているコンセントと家電のアダプターの間にIntraixが開発した専用のプラグを噛ませることで、サーバを通じて家電の利用状況をスマートフォンで確認し、電源のオン・オフなどの操作が可能になるという。
2つめが「Intraix EM(Environmental Monitoring) Unit」(仮称)。壁に設置するだけで、人の行き来や部屋の温度、明るさなどを感知するハードウェアだ。人の行き来が長い時間なかった部屋の照明を消したり、部屋の温度に合わせて冷暖房の強弱を調節したり、日中と夜間の部屋の明るさを識別して自動で照明を調節したりしてくれるという。
3つめが「グリーンクレジット」。これはユーザーの節電対策を促す仕組みで、他のユーザーと競い合いながら「照明を消す」「エアコンの温度を調節する」などの節電アクションを実行することで、景品と交換できる仮想通貨やカフェなどで使えるクーポンが付与されるリワードシステムだ。
Darrell氏によれば、シンガポールのような先進国を含めても、経済成長真っ只中にある東南アジアにおける節電意識はそこまで高まっていない。それに対して、日本は節電意識の啓蒙が進み、またスマートハウスの認知度も高いため、今は自国ではなく日本の市場に注力しているのだという。
さらに日本では、2013年5月に経済産業省が「電気用品の技術上の基準を定める省令の解釈の一部改正」を発表。これによって、電気ストーブなど遠隔操作した場合に事故が起こりやすい家電をのぞき、安全面などに関する9項目の条件を満たしたものにかぎり、通信回線を利用した遠隔操作が認められるようになるなど、Intraixにとっての追い風が吹いている。
Darrell氏によれば、Luterio Intraixを導入した家庭では、消費電力量を5~10%近く減らすことができるという。Intraixは今後、2014年度に日本国内で1万軒、2015年度で3万軒の導入を目指す。
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