2013年もスタートアップの動きは活発だった。
数年前にはゲーム一辺倒だったテーマも、コマースや教育、O2Oに決済と多岐に広がり、数億円規模の資金調達も珍しいものではなくなった。もちろん課題もあるが、もしかしたら後年、この年をスタートアップバブルのはじまりだったと記録することになるのかもしれない。
では2014年はどのような年になるのだろうか?――次の1年を占う意味で、スタートアップ・トレンドを俯瞰している投資家たちの言葉は大いに役立つ。ということで、今年で3年目となる本企画をお送りしたい。
CNET Japanでは国内インキュベーター、キャピタリストにアンケートを実施し、2013年の振り返り、そして2014年の注目サービスについて聞いた。今回は前編として、インキュベーターやシード、アーリーステージの投資を手掛けるベンチャーキャピタル(VC)の回答を紹介する(紹介は五十音順)。後編はこちら
質問は次の2つ。「質問1」は「2013年の企業支援、投資環境を振り返ってポイントとなる『キーワード』と、その理由」。「質問2」は「2014年を占う上で重要なサービスを(1)国内(2)海外で1つずつ」とした。なお、回答として挙げるサービスについては、投資先であるかどうかは問わないとした。
質問1: 「Gunosyの木村さん(木村新司氏)が凄い!」です。これまでFecebook、Twitter、Youtubeは、ウェブ上のプラットフォームという認識で、多くの場合、スマートフォンアプリの世界と分かれて存在していました。2013年はアプリ設計と広告の観点で、このウェブプラットフォームとスマートフォンアプリが急速に近づいた1年でした。
この流れを体現しているのがGunosyのようなサービスです。ウェブプラットフォームやソーシャルメディアの特性を理解しスマートフォンアプリを作るとか、従来、有機的につながっていなかった二者をシームレスなユーザ体験に落とし込んで1つのメディアを作る、という視点で優れた設計がなされています。結果、エンドユーザにとって付加価値が高く、早い成長カーブを持つ企業になったのではないでしょうか。
広告の観点においても両者の融合は進んでおり、従来のリワードやブーストだけでだけではなく、FacebookやTwitterベースの広告やコンテンツマーケティングの影響力は増しています。これにより、アプリの開発会社は、よりコントロールされた広告が打ちやすくなり、海外市場への展開も格段にやりやすくなったことも大きな変化です。手前味噌ですが、妻の村田マリが運営する「iemo」もこの流れから2014年注目株な1社です。
質問2: 2013年、注目サービスとしてUberを挙げました(Googleからの巨額出資や日本進出等ずばり的中ですよね!)が、スマホ×リアルデータの取り込み、という発想に注目しています。
国内では、クラウド型の家計簿アプリ「Dr.Wallet」を運営するBeartailです。ユーザはスマートフォンのカメラで日々のレシートを撮影するだけで自動的に入力ができるので、日々のオフライン購買データから今まで正確に蓄積できなかった消費データベースインフラを構築することが可能になります。
海外では、アジア企業の世界展開という点で、gumiです。日本の会社ですが、海外市場を含めた観点においても、アジアのベンチャー企業が、自国を超えて、アジア・北米市場へ展開できるのか、注目しています。スマートフォン発のゲーム会社でグローバル市場に成功ベンチャー企業は、Supercell、king.com等まだ数える程しかいません。特にアジア発の海外パブリッシングや開発オペレーションに注目しています。
国内だけを見ると飽和感を感じるかもしれませんが、スマホゲーム市場は、グローバルベースで見ると、市場は飽和どころか、勝負はこれからという超巨大市場です。
gumiは2007年から本格的にスタートした、まだ創業して6年そこそこのベンチャーですが、ここ2年、着々と海外のオペレーションを整えてきています。海外の経営者と“サシ”で渡り合える、CEOである国光(宏尚)さんのキャラクターや能力、ボードメンバーのタフさと安定感、シンガポールや韓国にいるリージョナルCEOやチームの実力値を考えると、日本からアジア、そして北米と市場展開できるロールモデルに成りうる会社と注目しています。
質問1: アベノミクスの経済効果や新興市場のIPOの盛り上がりなど、好況感の中でしっかりと未公開市場にも資金が流入してきた実感がとてもあります。“ヒト”の面でも経験豊富なシニアから将来有望な若手まで優秀な人材が挑戦する事例が明らかに増加してますし、“カネ”の面でも事業会社や金融機関の投資意欲が高まり、大型資金調達事例も増えるなどの何年かぶりの大きな追い風が吹いていると感じています。スタートアップにとっては注目度や期待値も高まりやすくリソースの確保が進みリスクテイクする準備を整えやすい環境でした。
同時に、大手事業会社の新規事業意欲(M&A含む)も加熱し、スタートアップやVCだけでなく「ガンガンいこうぜ」というムードを感じました。ということで、キーワードは「ガンガンいこうぜ」ということにさせていただきます。
トレンドの予測としては、成長機会があらゆる業種や分野に広がってきているので、特定の事業領域やキーワードとしては挙げづらいですが、前述の環境変化を受けて、スタートアップの経営手法も進化していくのではないかと予測しています。
具体的には、この環境下で調達した資金を積極投下するパワープレイに踏み切るスタートアップが増えるのではないかと思っています。大企業の新規事業参入に対抗できるくらい投資対効果の高い経営手法を実行できる経営チームや、論理や資金だけでコピーしづらい技術力や独創性の重要性が高まるのではないでしょうか。
支援先企業については、資金調達しやすい環境に甘んじて期待先行だけで終わることなく、真の意味でインパクトのある事業成長(必ずしも収益面だけではないです)を実現するということに集中していただければな、と思っています。
質問2: 上述の観点から、国内ではLINEやヤフー、リクルートなどの新規事業です。海外だと「Medium」で、上述の話と全く脈絡がなくて単に思想が先進的で注目しているという理由だけです。
質問1: 2013年のキーワードは「リスクマネー供給量の増加」です。2012年くらいから大企業のCVC参入が増加するなど、投資家の数そのものが増加してきていましたが、2013年に入って各投資家あたりのベンチャー投資に投じる金額が増加していることが印象的な1年でした。
2014年以降も大きなファンドレイズが続くため、この傾向は続くと思いますが、起業家にとっては、大きなビジョンや、ダイナミックな事業の絵が描けるかどうかはもちろんのこと、本気で事業のアクセルを踏み続けられる起業家と、思わずブレーキを踏んでしまう起業家とでは、資金調達額などの面で、より差が大きくなる1年になる気がしています。
必ずしも資金調達額が事業規模の大小を決めるわけではありませんが、経営者としての実力によって、アウトプットの差がより大きくなる1年になるのではないでしょうか。
質問2: 2014年の注目のサービスはいくつかあるのですが、ひとつ挙げるとすれば、国内は「ツイキャス」のような動画サービス(メディア、ニュース、EC)に注目しています。既存大手メディアは「デマンド型×Web1.0」が主流ですが、ユーザー視点でみると「オンデマンド型×Web2.0 or ソーシャル」へのシフトは自然の流れであること、動画ビジネスが以前よりも重くなくなってきていること、また、スマホの急拡大もこれを後押しするため、この領域に大きなビジネスチャンスがあると考えています。
海外では広義のO2Oサービス、例えば「Uber」や「Lyft」などの従来リアルで行われているアクティビティをウェブに包含するサービスや、ShopKickのようにウェブと連携することで、既存のマーケティング手法では提供できない新しい形のCRMを提供している企業に注目しています。
国内外ともに共通して言えることは、ネットの世界だけで閉じるのではなく、リアル(若しくはハードウェア)と繋がることで新たな付加価値を提供するネットサービスの増加を予想しており、2014年は世の中をより広く俯瞰しながら、大企業とベンチャーのアライアンス事例なども積極的に仕掛けていきたいと考えています。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス